納品と黒ずくめ
第2話
午後から山を下り、町に出る。
町の女は清士郎に黄色い声と歓声をあげるが、町の男は清士郎を「物乞い野郎」から「成り金」、ここでは表せないような差別用語など様々な陰口を叩いている。
「今日も言ってらぁ……」
龍神はやはり清士郎以外の人間の男が嫌いだなと再確認する。
清士郎は龍神を頭にのせ女の子達に手を振る。
龍神は普通の人には見えない。
キャーキャー声がする。
「ロン様、好みの子がいましたら声をかけましょうか?」
「今日はいい。男どものせいでむかむかする」
「優しいなロン様は、そんなことで怒っても、一イェンにもなりません」
そう言ってまた笑顔で女性達に手を振る。
なんか悟っていて思考は清士郎のほうが神様っぽい気さえしてくる。
「清士郎くーん」と別の方向から声がかかる。
四人くらいの女子が寄って来る。
「こんにちは。どうしたの?」
「清士郎くん、新しく出来た美味しい菓子屋があるの。一緒に行きましょう」
「四万田屋かな。それとも由堂かな。行ったことあるから僕は遠慮するよ」
「もぉー、いつもつれないんだから」
「ねぇ、知ってる? 帝都の四番目のお姫様の話?」
「ううん、知らない」
「彼女の周りでは変なことばかり起こるらしいわよ。噂では憑き物が憑いてるとか」
「狐に憑かれてるとか、鬼の子と入れ違えられたとか」
「へー、そうなんだ」
清士郎はとりとめなく続く女子の話を聞きながら、目的地まで歩く。
仙塚堂にたどり着いた。
「じゃあ、用事があるからまた今度」
四人の女子と別れて仙塚堂に入って行った。
ここには清士郎の通力が込められた薬や護符を納品している。
「こんにちは、清士郎です。納品に参りました」
「やぁ清士郎。いつもの品だね」
納品書を受け取りながら仙塚堂の主人が答える。
「はい、調子はどうですか?」
「痛み止めの薬、よく売れているよ。君のは効果があるから少々高くても売れるみたいだ」
「それは仙塚堂の看板があっての売れ行きです」
「ははっ、よく言うよ。作り方を教えて欲しいくらいだ。まあ、神通力がないと無理なんだろうけど」
「そうですね、神様が見えるくらいの子がいましたら弟子をとってもいいのですが」
「うーん、それは難しいね。はい、今月の売上だ」
「ありがとうございます。ではまた参ります」
そうして仙塚堂をあとにした。
「弟子をとりたいのか?」
「はい、将来的には。今のままでは薬や護符の作れる量が限られますので」
発想的には小間使いが欲しかった龍神の思考回路と同じだろうか。
「見つけるのは難しいだろうな」
「そうなんですか?」
清士郎は当然のように龍神が見えるので難しい事だと思っていなかった。
「まあ、あれだ。清士郎が嫁をめとって子供が出来たら可能性はあるぞ」
「それは、お金持ちで神通力の強い女性が良いってことですね」
「どっちかにしろ。一生独身になるぞ」
「お金とロン様がいれば大丈夫です」
家に帰りながらそんなことを話す。
家に辿り着こうとするとき玄関の前に誰かいる。二人組の黒ずくめで怪しい。
鼻と口を布で隠し、お忍びのお金持ちっぽい、迷わず声をかける。
「何かご用でしょうか?」
「ここにこの薬を作った者がいると聞いたが、どこにいる?」
白い布の包みを丁寧に剥がし、赤い粒を取り出した。
「確かに僕の作った薬ですが、何か副作用が出ましたか?」
二人はボソボソと内緒話をしだした。
「いえ、あるお方がこの薬を作った者に帝都まで来てほしいと仰っています」
「帝都までですか。遠いですね旅費は出ますかね?」
めんどうくさそうに清士郎は答えた。
「もちろんだ。報酬も支払う」
「うーん、いいでしょう」
嘘だったら呪符を百枚貼ってやろうと思う。
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