龍神に育てられたお金好き少年は、成り行きでお姫様の世話を焼き、無自覚に胃袋を掴む話。
蟹井のん
はじまりと八年後
第1話
ここに大変ものぐさな龍神がいた。神力を鍛えることもせず、雨乞いされても雨は降らせない。人間の男が大嫌いで恩恵を与えないため、しだいに人々の信仰心は薄れていった。
そうするうちに神力は衰え、もはや蛇のような姿をしている。
「はぁー、そろそろオレ消えるな……」
そのくせべっぴんな人間の娘が好きと言う性癖を持ち、美人の絵姿を集めている。
「消える前に珠子ちゃんと結婚したかった……あれ? 珠子ちゃんって誰だっけ?」
長く生き、神力が衰えすぎて記憶もあやふやだ。
もちろんこの物語の主役ではない。
「清士郎! 晩ごはんは~?」
台所から現れたのは清士郎と呼ばれた少年だ。少年とは言うが顔は女の子みたいにめんこい。
「はい、ロン様。今日は鳥鍋です」
はふはふと一人と一柱は鳥鍋をつついていた。
「オレはもう少しで消えてしまう」
「ロン様そんなこと、言わないでください。僕を一人にしないでよ」
「もうこの町の人間に龍神を信仰する心はない」
「僕は一人でも信仰します。僕が何とかするから頑張ってロン様」
清士郎の目がキラキラまぶしい、龍神はこの心優しい少年の一言に心打たれた。
たまたま自分が見える清士郎を小間使いにできるという龍神にとっては幸運だった。
清士郎は龍神が見える、神通力の素質があった。
人間に見捨てられた龍神は通力のイロハを教えた。
すべては自分が快適に暮らすために。
▽ ▽ ▽
それから八年後。
長い銀の髪をひとつに結い上げ、青い瞳を輝かせて清士郎はお金を数えていた。
「はい、利息分はきっちりいただきますね」
「清士郎さん、ちょっと入り用があって三百イェン貸してくれないかい?」
「そんなに借りたら返せないでしょう。ムリムリ」
「そんな、そこをなんとか!」
「だったら家の土地を担保にしてくれますか?」
清士郎は美しい顔でニッコリ微笑んだ。
「今回は諦めるよ……」
清士郎は金貸から薬屋、霊媒師まで何でも屋になっていた。
特に金が絡むと目を輝かせる、お金への執着が強い人間になっていた。
「オレは育て方を間違えたのだろうか……」
龍神はボソッと言う。
「あ、ロン様。今からお昼作りますので待っていてください」
だけど龍神にだけは優しかった。笑顔にきゅんとした。
龍神は蛇からトカゲのようになっていた。
祠もピカピカで立派になっており、何人かはお供え物をしてくれるようになった。
祠の近くに清士郎の屋敷がある。ボロボロの小屋だったのをリフォームした屋敷だ。
祠の横に願いなどを書く木札を吊るす場所がある。
「今日も子宝の願い、呪殺の願い、恋愛成就系ですかぁ~」
中には「清士郎くんと結ばれますように」と書いたものがあったりする。本人の名前もあるので一種の告白だ。
「お金にはならないですね」
「清士郎、ひどくね?」
「逆玉なら良いのですが。僕より財の無い子はお断りです」
「うっ! 心が痛い」
龍神は歪んでしまった清士郎を見るとちょっと悲しい。
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