第27話 持ってると持ってないは紙一重
「おい、いるのはわかってるぞ!早く開けろ!」
この声は平松警部だな。
管轄外じゃん……。
「はい、はい。今出ますよー」
寝起きだからちょっと待ってね。
「生きてたか。いるなら早く出ろよ」
いるって言ってたでしょ。
出るまでの間ずっとドアを叩き続けるから、ご近所さんが出てきて見られてるじゃん。
もうすぐ引っ越すから、警察が来ていなくなった人みたいになるんですが?
「何です?逮捕とかじゃないですよね?」
「似たようなものだ。入るぞ」
あ……。
まあ引っ越しの準備が進んでるから片付てるからいいんだけどね。
ご近所さんに頭を下げて扉を閉める。
目を逸らされましたね。
全く、なんてことをしてくれるんだ。
「ちょっと、なんなんですか?」
「電話に出ないお前が悪い。あの騒ぎのあとだ。今度こそ殺されたのかと思って期待したのにな」
期待ってなんだ?
ひどくない?
「あ、本当だ。着信がいっぱい」
大変だ。
新井さんからいっぱいメッセージが来てる、早く返さないと。
あ、小泉からもだ。
お金払ったの怒ってるね。
寝ようと思ったら、もう朝だったんだけど、やっぱり酒の力か?
部屋は何ともないし、酔って暴れたりはしてないんだけど、眠くなるみたいだね。
まあ元々お酒を飲んでもそんなに酔う方でもなかったし、これがステータスの効果かはわからないな。
「そういう訳だから、捜査に行くぞ。40秒で準備しろ」
どういう訳?
もう警察じゃなくて空賊じゃん。
「捜査って何です?」
「昨日頭をやっちまったからな。しばらく非番なんだ。でも捜査の方が進んでないらしくてな。このままだと散り散りになって逃げられる。だからその前にお前を使って奴等を誘き出すぞ」
何一つ話が繋がってないんですが?
まず非番なら休んでくれ。
しかも頭を打たんだから、安静にしてね。
「俺を囮にしても出てきませんよ。アイツ等とは接点なんかないんですから」
「どうかな?ああいう奴等は執念深い上に逆恨みが大好きと来てる。偶然とはいえ、アイツ等の計画をぶち壊したのはお前だ。ここで逃がしたら、必ずお前に何かしてくるぞ?それにお前は持ってる。なんでアイツ等に襲われなかったのに、別のところで殺されそうになってるんだ?そういう奴を連れていれば必ず何かが起こる。さあ行くぞ。とっと準備しろ!」
いや、持ってないから巻き込まれるんですが?
結局勢いに負けて、同行することになった。
家から出て車に乗る時にご近所さん達にメッチャ見られてたね。
違うんだって……。
あと朝御飯も食べてないから準備には40分は欲しいって言ったら、コンビニに寄ってやるって言われてたんだが、向かったのがあのコンビニ……。
勿論閉まってましたよ。
「ハァ、ついてない……」
「そういえば、さっきのコンビニの店長な、相当厳しく調べられてるみたいだぞ。昨日の今日どころか、その日の内にお前が刺されたんだからな。誰だってブラックローズとの関連を疑う。アイツ等、麻薬の密輸までやってたらしくてな、マトリの連中まで出張ってきてるからな。お偉方はウキウキで店長のことを調べてるだろうし。無関係だってわかっても、小さな余罪も許さんだろうな」
車を運転しながら平松警部が言う。
よくよく考えれば、電話が通じなかっただけで心配して千葉から来てくれたんだよね。
しかも車で……。
当たりは強いけど、いい人なんだよね。
︙
︙
「よし行くぞ」
「え?俺もですか?」
「当たり前だ何のために連れて来たと思ってるんだ」
車に揺られるれて千葉管内へ。
降りろと促されたのは普通の一軒家の前だ。
「ちなみにここは?」
「ブラックローズの奴と仲が良かった冒険者の家だな。ちなみにすでに昨日の時点で聞き込みは入ってるはずだ。捜査の邪魔になったらマズイからな。今日はそう言うところを回っていくぞ」
道中に色々聞いたんだけど、警察も前からブラックローズをマークしてはいたらしいんだよね。
ダンジョンでは証拠が残らないから、踏み込んだ捜査は出来なかったらしいけど、情報だけは揃っているらしい。
すでに捜査員が回った個所を後追いする形か。
それなら何も起こらな……。
『おい、警察だ。また来たぞ』
『マジ?ただの客じゃなくて?』
『あの女刑事だよ。チッ、ここ大丈夫か?』
『外見るなって、バレるだろ。隠れてろ』
いる。
2階の窓から覗いていたのか?
声が聞こえてきた。
「どうした?」
平松警部には聞こえていないようだ。
ステータスの補正で俺だけに聞こえていたみたいだね。
集中すればもっと聞こえるか?
「いますね。2階から二人、覗いてます」
見えてはいないが、本人達が覗いてたって言ってたから、覗いてたってことでいいだろう。
二階に二人、一回にももう一人いるな。
「二人?ここは親が死んで一人ぐらしのはずだな……。しかし覗いてただけで、ブラックローズって証拠はないな。よし、応援を呼んで私達はずらかるぞ。しかし早速とはな。しかもこんな場所にいるということは散り散りに逃げたと見てよさそうだな……。もしもし、佐々木か?実はな……」
平松警部が佐々木警部補に電話を掛ける。
なんかメッチャ怒られてる。
平松警部は家で安静にしてるはずだからね。
ちょっと掛かりそうなので車の窓を開けて耳を澄ます。
『出てこないぞ?見張られてるのか?クソッ』
『おい、窓に近付くなって。さっき、堺さんはなんて言ってたんだ?合流場所はどこだ?』
『どこいるのかはわかんねぇよ。でもどっかの漁港から船で出て、外国行の船に拾ってもらうって……。合流できなきゃもう知らねぇって感じだったよ。張り付かれてたら、合流どころじゃねぇし……。もう一回電話借りて他の奴にも聞いてみる』
うーん、盗聴器いらず。
でもこの情報をどうやって平松警部に伝えればいいのか……。
聞こえましたー、はダメだよね?
世界一ついていない男は初ダンジョンでレベルダウンの罠を二度踏む 木村雷 @raikimura
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