第24話 力の使い道

「私は怪我したから居残りなんだ。仕事はお前の調書作りだな。さっさと署にいくぞ」


 最近ダンジョンより、警察署に通うことの方が多くて困る。

 すでに堺らは手配されており、千葉県警は総出で堺達の捜索を行っているようだ。

 海外逃亡を防ぐために港の辺りは厳重に封鎖して検問をしてるんだとか。

 あれだけの人数だ、移動するのも目立つからすぐに捕まりそうなものだけど……。


「ええ?ちょっとだけさせてくださいよ。最近出費が多くて困ってるんです」


「チッ、これだから冒険者は。さっさとしろ!」


 さあ【SP換金】の出番だぞ。

 新井さんの前でやるためにまだ使ってなかったのだ。


「新井さん、お願いします」


「はい。こちらにどうぞ。……物はどこでしょうか?」


 今から出します!

 と、思ったけど……。


「【SP換金】って勢いよく発射されたりはしないですよね?」


 スキルは前科があるからね。


「それは【銭投げ】っていう別のスキルですね。【SP換金】は換金するスキルポイントを決めたらその枚数だけ手のひらに置かれるスキルなので、飛び出したりはしませんね」


 なにそのサムライで覚えそうなスキル……。

 まあ安全ならいいか。


「行きます!【SP換金】!」


SP:5.55

使用SP:0


 行きます、と声を掛けたが使ってみたら使用するスキルポイントの量を決めなる画面が出る。

 ポンと出なかったのは格好悪いが説明通りだった。

 使用SPを1にして発動。


SP:5.55→4.55


 チャリーンと音はしなかったが、10センチ程上から小さなコインが手のひらに落ちてきた。

 直径は3センチないくらいかな?

 これで1枚15万か……。


「え?まさかダンジョンコインを売るのか?」


 信じられんという顔をする平松警部。


「そうですけど?それを専門にやって行こうかと思ってまして」


 1日15万、365日で5475万!

 休み?

 自営業にはそんなものはない。

 休んでいいのは余剰ポイントが1ポイント溜まった時だけだ!

 冗談はさておき、新井さんにコインを渡す。


「ではお預かりしますね。はい、確かにダンジョンコインで間違いありません。お渡しは現金で大丈夫ですか?銀行振り込みもできますし、ライセンスにチャージも出来ますよ?」


「現金でお願いします」


 チラッと平松警部を見る。

 振込とか言って、手続きを始めたらぶん殴られそうな雰囲気である。

 頭を怪我してるし、これ以上待たせるのも何なので、現金一択で。

 というか、頭を怪我してるんだから俺の取り調べより、病院に行ってほしいね。

 ちなみにライセンスにチャージしちゃうと、協会の施設内でしか使えなくなる。

 ダンジョン内にある屋台も現金のみの店が多い。

 一応現金に戻せるみたいだけど、それが出来るのも協会の受付のみ。

 ATMとかからは引き出せないので、チャージする人は少ないと思う。


「ヨシッ!じゃあ行くぞ!」


 平松警部に轢きづられるようにダンジョンを後にする。

 荷物だけ置かせて、バットとかロッカーに……。

 せめてお金を財布に……。





「で?4階層で何してたんだ?」


「何ってスキルポイントを溜めてたんです。あそこが効率いいので」


 さっき見てたでしょう?

 1日で15万も稼げるんですよ?

 今日は0.5ポイントだったけど。


「嘘をつくな!そんな話始めて聞いたぞ?もっと奥に行けばいくらでも効率のいい場所があるだろう?やはり貴様は怪しい!今日は帰れると思うなよ?」


 いや、容疑者とかじゃなくて被害者なんですが?

 まあ実際には俺を狙ったって訳じゃなさそうなんだけどね。

 4階層での不法投棄、それと昨日のことも話したんだけど、1階層で直ぐに引き返したのは麻薬かなんかの小さい物を取り出した密輸だろうと平松警部は推測してるみたいだった。


「あ、そうです。昨日の時点で脅されたので、奥に行かないようにしてたんですよ。ブラッドローズと鉢合わせしないように」


 今回の件でブラッドローズがいなくなってくれるなら、もっと奥に移動してもいいかもね。

 ただ、あそこは移動しなくていいのが一番の利点なのだ。

 モンスターを見つけられるかどうかの、運に左右されない場所がジョブ部屋である。

 他にもスキルポイントが稼げそうなジョブ部屋が空いてたらいいんだけど……。


「で、ボス部屋から出たら囲まれていた、と……。通報がきた時間がいつだったか……。フンフン、それなら一応筋は通るな。っと、ちょっと待て、佐々木からだ。もしもし、何かあったか?ああ、そっちにも本庁の奴等が行ったのか。まあしょうがないな。こっちは取り逃がしたんだ。うん、そっちの指示に従ってくれ。病院?はいはい、取り調べが終わったらな……」


 佐々木警部補からの電話だ。

 内容的には警視庁のダンジョン課にも応援を要請をしたのはいいんだけど、指揮権を奪われたみたいな話だね。

 うーん、全部聞こえる。

 ダンジョンの外でも耳が良くなってるっぽいね。

 っていうか、耳を澄ませば、署内の会話が全部聞こえてしまう。

 ここ防音室だよね?


「見つからない感じですか?」


「そうだな。事務所にも寄ってないみたいだし、住んでることになってる住所にもいない。秘密の隠れ家でもあるのか……。捕まえた奴は何も喋らないしな。お前は東京住みだったか?大丈夫だとは思うが、一応気をつけろよ?お前のせいで捕まったみたいなもんだからな。こっちに泊るなら警護も付けられるがどうする?」


 あれだけの人数だから見つからないわけがないんだけど、どうやら方々に散った後に車を乗り捨てたみたいだ。

 人数が多すぎて的を絞れないでいるのか、警察が分散して、それぞれの自宅や車を調べていて包囲が手薄になっているところを徒歩で抜けられたようだった。

 相手はほとんどがレベル40越えだと言うのも聞こえてきた。

 一流のスポーツ選手並みの身体能力があるとしたら、パルクールよろしくビルやアパートの上を移動して抜けたのかもね。

 そもそもダンジョン課の職員はともかく、包囲に加わっている普通の警察官じゃ、見つけても追いつけないかもしれない。

 武器なんかも持ったまま逃げたみたいだし、衝突したら怪我人じゃ済まないかもね。


「いえ、大丈夫です」


 チラッと平松警部の頭の包帯を見る。


「そうか……。今日はもういいかな。また聞きたいことがあったら呼ぶかもしれないからそのつもりでいてくれ。おつかれ」


「はい。病院にちゃんと行ってくださいね」


 俺がもし、あの時にジョブ部屋から出てアイツ等を捕まえていたら平松警部は怪我をしなくても済んだのかもしれない。

 いや、あの時点ではまだ悪いことをしているとは確定していなかったか……。

 でも外に出たら絡まれていたかな? 

 この力の使い道、みたいなことを考えされられる……。





「放してください!」


 帰り道、コンビニの裏で店員に手を掴まれている女子高生がいた。


「何してる、やめろ!」


 万引き犯かと思ったが、そういう感じでもないので思わず声を掛けてしまった。

 ついてないな、関係ないのに犯人に仕立て上げられたりするから、なるべくなら関わりたくないのに……。


「あっ、斎藤さん?助けてください!」


 え?誰?

 コンビニ店員が俺の声に驚いたのか、手を放した隙に女子高生が俺の方に駆けてくる。


「あ、ミクちゃんか。どうしたの?アイツは?」


 初心者講習で一緒のグループだった女子高生の佐藤未来ちゃんだった。


「ここの店長です。私、ここでバイトしてたんですけど、しつこくされてて……。今日は最後の日だったのに辞めさせないって言うんです」


 あー、そういうのか……。

 未来ちゃんはビックリするぐらい可愛いもんね。

 気持ちはわからんでもないが、しつこくするのはダメだ。

 相手は女子高生だし、言い寄るのだけでも犯罪だからね。


「なんだお前は!未来ちゃんのなんなんだ!」


 冒険者の同期です、っていうのは通じないか。

 っていうか一回あっただけの俺のこと覚えててくれたのはちょっとうれしい。


「これ以上は警察を呼びますよ?」


 電話を取り出して110番、のフリをする。


「うっ、くっ……。クソッ」


 効果は覿面の様でコンビニに逃げていく店長。

 あんな店長で、このコンビニ大丈夫か?

 しかし、会社とは逆方向だったから普段は来ないコンビニだったんだけど、ここでミクちゃんが働いていたのか。

 最終日までそれに気が付かないとか、ついてない、かな?


「助かりました。ありがとうございます」


 頭を下げる未来ちゃん。


「いや、偶々通りかかっただけだし。これから帰るところ?送った方がいいかな?」


「そう、ですね。ちょっと怖かったので、お願いしてもいいですか?すぐそこなんですけど……」


 流石に一人で帰すのはよくないと思ったので聞いてみたのだが、意外な答えが返ってきた。

 もう少し俺のことも警戒した方がいいと思う。 

 講習の時も物おじせずに俺と越智さんと話してたし、コミュニケーション能力が高いんだよね。

 それで店長も何か勘違いしてしまったのかもしれない。


「あー、意外と家近いね。俺はもう少し向こうに行った方の……。あのコンビニには行ったことなかったかな……」


 当たり障りのない会話から、ちょっとずつさっきの店長を聞き出してみた。

 高校生に入って近所のコンビニでアルバイトを始めたのはよかったんだけど、やはりあの店長に言い寄られていたようで、やめることにしたようだ。

 未来ちゃんはお母さんと二人暮らしで、自分の為に働いてくれているお母さんを楽にする為、そして大学の資金を貯める為にバイトをしていたので、踏ん切りがつかず中々やめれなかったこと、次のバイト先に冒険者を選んだことを話してくれた。


「でも一番近い本部が閉鎖されちゃって、まだダンジョンには行けてないんです。高校生でも大丈夫っていうクランも募集をやめてるし、どうしたらいいかわからなくて……。斎藤さんはどうしてるんです?越智さんと一緒とか?」


「オレは千葉ダンジョンに行ってるよ。今日もその帰りだね。越智さんは千葉で見てないから、埼玉の方に行ってるんじゃないかな?」


 この辺で言ったら神奈川にもあるけど、あそこは偶に自衛隊と米軍が入るから一般の冒険者が入れない日の方が多いので、レベル上げが目的の越智さんには向かないだろう。

 レベルが上がると地上でも10分の1ではあるけどステータスの影響があるからね。

 今や各国の軍隊なんかはダンジョンで訓練するのが普通、と言うのを知ったのは最近の話だ。

 日本に駐留しているアメリカ軍も訓練しないといけないから特例措置で日本のダンジョンでレベル上げしてるんだよね。


「千葉ですか?すごい治安が悪いって聞きますよ?この前もアマリリスのヨーコちゃんとケーコちゃんが襲われたってニュースになってたし、危なくないですか?」


「そうそう、すごい危ないよ。でもその元凶のクランが全員捕まりそうだし、平和になるんじゃないかな?」


「へー、じゃあ埼玉だけじゃなくて、千葉でもクラン探してみようかな?」


 うーん、やっぱり似てる……。

 顔立ちも、表情がコロコロ変わるところとか……。


「未来っ!よかった、遅いから心配してたのよ。今日は挨拶だけじゃなかったの?あ……、ちょっと、まさか店長って貴方ですか?どうしてウチまでついてくるんです?警察を呼びますよ?」


「ちょ、お母さん!」


 わあ、このパターンか……。

 ここが未来ちゃんの住んでいるアパートなのか、道に出てきた母親らしき人に詰められた。

 未来ちゃんに似てすごい美人……。


「いや、違うん……。え?小泉?」


 そこにいたのは中学の同級生……。

 3年間片思いの相手だった女の子だ。


「え?ええ、確かに小泉ですけど……。誰ですか?」


 変わって……る、な。

 髪は派手な茶髪になってるし、化粧もずいぶん濃い気がする。

 でもすぐにわかった。

 だって……。


「小泉……。あ、え?」


 ドンッと、後ろから来た何か、いや、誰かがぶつかってきた。

 カランッと次いで地面に何かが落ちた。

 包丁?え?


「ぎゃあーーー」


 振り向くとそこにはコンビニの制服姿の男、さっきの店長だ。

 つけてきていたのか?

 未来ちゃんとの会話が楽しすぎて気がつけなかった……。

 今も小泉に気を取られて……。

 ぶつかった腰の辺りを手で確認すると、血……。


「え?包丁?きゃあーーーっ」


 未来ちゃんが悲鳴を上げる。

 大変だ。

 店長の手がぁーーー。



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