第23話 ダンジョンへのテロ攻撃
「じゃあ今日は4階層なんですね。ボス部屋はちょっと心配ですけど、奥にあるので大丈夫だと思います。行ってらっしゃい」
新井さんに見送られてダンジョンへ。
今日は4階層のジョブ部屋でジョブポイントを稼ぐ。
丸一日籠れば15万作戦である。
もうこれだけ毎日やれば大富豪になれるんじゃないかな?
懸念はブラッドローズだけど、4階層のジョブ部屋はメインストリートから大きく外れた場所にあるので、ダンジョンに来てもわざわざ見にきたりはしない場所だ。
一応ダンジョンに現れたら新井さんが連絡をしてくれるので、待機時間にはマメに携帯を確認するようにしよう。
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「お、新井さんか?え?いやまさか、また来たのか?」
4階層でボス部屋をグルグルして昼になろうという頃、新井さんからメッセージが来る。
ブラッドローズがダンジョンに入ったことを知らせるものだ。
昨日は恵ちゃんがアマリリスの脱退を発表したことで、様々な憶測を呼び、更にネットのブラッドローズ叩きはヒートアップしている。
にも拘わらずダンジョンにやってくるとは……。
何かあるのか?
まあ昨日は1階層に入っただけですぐに帰ったみたいだし、今日もそうかもね。
「奴等がダンジョンから出たら連絡ください、っと」
新井さんに返事を返す。
鉢合わせないように、アイツ等が帰ってから俺も外に出ることにしよう。
(さても一稼ぎ、しましょうか!)
現在スキルポイントは5.5。
午前中だけで0.5ポイント、7万5千円!
1分待機して5回バットを振って部屋を出る、その繰り返し……。
単純な作業で精神的にキツイが、社畜はこれぐらい屁でもないのだ。
工場の現場体験で、座ったまま缶詰めと睨めっこして1日中過ごしたこともある。
アレで1日1万円と比べたら遥かに楽である。
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「ヤバイ、ヤバイ……」
新井さんのメッセージから30分後。
そろそろ昼飯にしようと思ったところで、ジョブ部屋の外に出たら遠くに誰かいた。
よく見ると一人二人どころの話ではないので、慌てて待機部屋に戻って扉を閉めた。
顔までは確認できなかったけど、ボス部屋を窺う影が数十人。
(まさかブラッドローズか?)
時間的にはちょうど合う……。
地上からここまで急げば30分ちょっとで来られる。
でも何故ここに?
俺を狙って?
そんな馬鹿な、何故俺がここにいるのがわかったんだ?
ここにいるのは新井さんしか知らないはず。
ブラッドローズの入ダンを知らせてくれた新井さんが俺の居場所を教える訳がない。
隣の人か?
今日はトモちゃんじゃなかったし、新井さんとの会話を聞かれて売られたか?
いや、待て、そもそもブラッドローズが俺を狙う意味が分からない。
もしかしたらジョブ部屋をやりに来ただけとか?
(ク〇ジョブだぞここは?)
考えている内に1分が立ってジョブ部屋の扉が開いて岩飛蝗が飛んでくる。
「やっちまった……」
5匹とも壁にめり込んだ……。
俺を守ってくれている貴重なジョブ部屋の壁が削れてしまった。
新井さんに助けを求めようとして圏外なことに気が付く。
ジョブ部屋は電波がない。
待機部屋も扉が閉まっているとダメのようだ。
一旦外に出なくては……。
『4階層ジョブ部屋でブラッドローズに囲まれています。助けて』
囲まれてはいないが似たようなものだろう。
メッセージを用意して、待機部屋から出る。
携帯を操作してから、一瞬だけ出て、すぐ戻る。
一瞬、集団の方を見たら派手な赤い兜。
リーダーの堺の兜があれだったはず。
ブラッドローズなのは間違いないな。
「どうしよ、どうしよ……」
新井さんからの不在着信。
電波がないから、繋がらずに着信だけが残った。
状況を説明しないと心配しそうなので、もう一回外に出てないと。
ジョブ部屋に入って岩飛蝗を壁にめり込ませる。
もう緊張して加減なんか利いていない。
『ジョブ部屋電波ないです。以降はジョブ部屋に籠るので返信できません』
ジョブ部屋は強制退去とかはないけど、30分を過ぎるとボスが再ポップする。
籠っていれば人は新たに入ってこれないはずだけど、それはマナー違反なので、後ろに人が並んでいる時に故意にやったとみなされるとライセンス停止などの罰則がある。
アイツ等が並んでるって訳でもなさそうだし、今回はそれに当たらないよね?
兎に角、もう一度ジョブ部屋から出て送信、と同時に着信音。
新井さんからも何か送られてきたようだ。
ブラッドローズはまだいる。
というか、あそこから動いていない。
意味がわからん。
何してるんだ?
『警察に連絡しました。1時間以内にはそちらに到着するそうです。それまで絶対にジョブ部屋から出ないでください!』
そうか、新井さんじゃなくて警察に連絡しないとダメだったのか……。
まあ新井さんが連絡してくれたみたいなので、俺はもうここから出ないようにしよう。
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「そもそもなんで俺が隠れないといけないんじゃい!」
1時間が経過して、2度目のリポップをした岩飛蝗を倒したところでそれに気が付いた。
昼飯を食べて、落ち着いたからかもしれないが……。
今俺のレベル9999、アイツ等が束になっても勝てないステータス、のはず。
恐れる必要などないのだ。
ネットの情報を鵜呑みにするのは良くないと思うが、アイツ等は殺人を犯しているであろう犯罪者集団。
絡んでくるなら逆に成敗してやればいいんじゃないか?
「よし、出よう!」
やり過ぎないように注意しないとね。
バットで軽く足を触るぐらいなら、足を複雑骨折するくらいで済むだろう。
冷静に、冷静に、と呟きながら待機部屋から出ると……。
「誰もいませんでした……」
いや、1時間も経ったからね。
諦めて帰ったのだろう。
携帯をチェックすると新井さんからメッセージ。
『戻ってきたブラッドローズが入口で警察と小競り合いしています。もう少しそのまま隠れていてください』
もう入口まで戻っていたということは30分以上前には帰っていたのか……。
しかし小競り合いってなんだ?
警察としては俺からの連絡だけでは捕まえられないってことかな?
結構人数もいたからね。
『了解です。日が暮れる前には戻れるように時間をみて帰ります』
帰ったなら帰ったでいいか、時間もあるしこのままここでスキルポイントを稼ごう。
日が暮れる前に1ポイント貯めないとね。
っと、ここでまた返信が来た。
『すみません。ブラッドローズを取り逃がしました。ダンジョン側には逃げていないのですが、一応気を付けて帰ってきてください』
取り逃がしたって何?
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「実は戻ってきたブラッドローズの集団の中に【収納】持ちがいたんです。名前も日本語ではなさそうだったので、外国籍だと思います。恐らくですが密輸をしようとしていたんだと思います」
戻るように言われたので1階層の受付まで来たら大騒ぎになっていた。
1階層で警官隊と出くわしたブラッドローズは職務質問を拒否。
ダンジョン課は人数が少ないので、50人いるからいるブラッドローズを止めきれなかったようだ。
小競り合いをしている中、新井さん達が怪しい動きをしている奴を【鑑定】したところ、なんと【収納】持ちの外国人。
それを平松警部に伝えて逮捕しようとした途端に、アイツ等は暴れ出してダンジョンを出たそうだ。
何人か捕まえたみたいだけど、肝心の堺とその外国人には逃げられて、現在捜索中のようだ。
「密輸っていうと麻薬ですか?」
「それだけじゃないな。不法投棄の可能性がある。4階層のジョブ部屋で出くわしたんだろ?そこに何か捨てようとしていたんだ」
平松警部が横から答えた。
頭に包帯を巻いていて、血が滲んでいる。
「怪我してるじゃないですか。大丈夫なんですか?」
「すみません、私達が人質に取られそうになって……」
かばって怪我をしたと……。
警察に襲い掛かって逃走とか、大騒動どころか、大事件じゃないか。
「おかしいと思ってたんだ。奴等の拠点は何故か34階層だけじゃなくて14階層にもあった。普段は15階層の誰も来ない所に捨てていたんだろう。そっちが使えなくなって、手ごろな4階層のジョブ部屋で犯行を行おうとした。あそこも誰もいないはずだからな」
でも誰もいないはずの場所を占有した奴がいた、と。
しかも通報されて【収納】持ちの正体までバレちゃったのか。
……ついてない奴等だな。
「毎回大勢で来ていたのは私達の【鑑定】を誤魔化す為ですね。ダンジョンに入る度にリーダー自ら私達のところに来て気を引いていたわけですか……。してやられました。入ダンの再には改札にライセンスを翳すだけで、顔の認証もありません。他人のライセンスを使われれば、ヘルメット一つで外国人かどうかもわかりませんからね」
「でも外国人がダンジョンに不法投棄ですか?わざわざ?自分の国で捨てればいいじゃないですか」
「放射能汚染物質とかなんかだろうな」
平松警部が簡単に言う……。
「え?それって海外の?じゃあテロってことですか?」
新井さんが声を荒げる。
なんでも吸収するダンジョンだが、放射能汚染物質を吸収してしまうとダンジョンはバグって機能を停止するらしく、そのまま消滅してしまうこともあるのだとか。
ダンジョンが地球に現れた直後は、安易なゴミ箱として利用されていて、核燃料棒やらなんやらの放射能汚染物質を吸収して消滅してしまったダンジョンの事例がいくつもあるのだ。
また、他国のダンジョンを破壊する為にそういった物質を送りつける輩がいるので、ダンジョンには外国籍の者は入れてはならないのが今の国際常識である。
「そうだな。捕まったら外患誘致罪で死刑だ。必死に逃げるのも頷ける」
日本の資源であるダンジョンを外国人と組んで攻撃したってことになるからね。
本当に大事になってきたぞ。
「では本部のダンジョンが機能停止しているのもそれが原因でしょうか?」
「恐らく。全国に同じような奴等がごまんといるのかもな。そいつらを捕まえる足掛かりにするためにも、さっさと堺の、いや、件の外国人を抑えないとな」
マジか、許せんな。
お陰で俺は千葉に引っ越すことになったんだ。
やっぱりさっきすぐに出て捕まえてやるべきだった……。
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