第17話 ★正義の冒険者【朝日恵】その3

2話投稿しました^^;


SIDE:朝日恵あさひめぐみ(人気ダンジョン配信者)

※主人公以外の三人称視点となります。


「やっぱりエリが隣にいないと落ち着かないかも」


 ヨーコが呟く。

 エリザベスはまだ本部ダンジョンで預かってもらっている。

 次の本拠地が見つからないことには移動もできないからね。

 ヨーコと一緒に様子を見に行ったけど、いつも通りでダンジョンが閉鎖されていようとどこ吹く風でのんびりしていた。

 差し入れの魔石をバリボリ食べていたし、食欲の衰えも見えなかった。

 ずっと檻に閉じ込められて可哀そうではあるがもう少しだけ我慢してもらうしかない。


「何言ってるの。この辺のモンスターなら素手でも倒せるでしょ?」


 ヨーコのレベルはアタシと同じ35。

 今いる階層は15階層だ。

 【魔物使い】はステータス倍率の高いジョブではないが、この階層のモンスターなら問題なく倒せるはずだ。

 まあそうは言ってもこの15階層には襲ってくるモンスターはいないんだけどね。

 千葉の15階層はちょっと変わっていて、迷路のように入り組んでいる洞窟型のエリアになっている。

 そして生息しているモンスターはゴブリンエスケープと言うこちらを見たら逃げだすゴブリンだけ……。

 代わりと言っては何だが、この階層は罠が多いことで有名で、メインストリートをすぐ通り抜けることが推奨されている。

 そのお陰かモンスターどころか人の気配もない。

 ヨーコが不安になっているのもその辺りが原因だろう。


「もー、ケイちゃんと一緒にしないでよ」


 そっちこそ人を振ゴリラみたいに言わないでほしい。


「そのケイちゃんって言うの、もうやめてよ。もうその名前は使えなくなるんだからさ」


 この名前は所謂芸名と言うヤツで、事務所にその所有権があるのだ。

 つまり今後配信をするなら使えなくなる名前なのだ。


「えー?じゃあ何て呼べばいいの?普段本名で呼んじゃうと咄嗟の時に出ちゃわない?」


 アタシの本名は朝日恵、読みはだけどケイとも読むので、そこから取ったケーコがアタシの配信名だった。

 ヨーコも似たようなもので、本名は田中陽たなかひなた

 陽をヨウと呼んでヨーコだ。


「別に今更隠してもしょうがないし、メグミでいいよ?ヨーコのこともヒナタって呼んでいい?」


 これでもアタシ達は有名配信者、とっくに身バレしていて、本名もファンなら誰でも知っているだろう。


「い、いいと思う。メグミ……、メグ……、メグちゃん。うん、メグちゃんって呼ぶね!」


 ヨーコ、いや、ヒナタは何度か繰り返して、それでしっくり来たのがメグちゃんだったようだ。


「うん。じゃあアタシはヒナって呼ぶね。改めてよろしくね、ヒナ」


「ヒュー、仲いいねぇ」


 不意に前方から声を掛けられる。

 いつの間にそこに?

 正面から歩いて来たのではなく、脇道から出てきたようだ。


「うおっ、本当にヨーコじゃん。ラッキー!」


 一人じゃない……、3人。

 しかもコイツ等、さっき14階層のセーフティエリアにいた奴等だ。

 追いかけてきたの?

 ならもう二人……。


「おい、配信は?」


「っ!?」


 後ろにいた。

 挟まれた?

 いつの間に?

 さっきまではいなかったはず。

 コイツ等も脇道から出てきたの?


「してねぇな。そもそもなんで二人なんだ?後ろはどうだ?」


「誰もついて来てねぇぞ。上から連絡もねぇから大丈夫だ」


 男達がアタシ達を挟んで会話する。

 どういうこと?

 14階層の階段のボス部屋、そのセーフティエリアは千葉のトップクラン『ブラッドローズ』の溜まり場になっている。

 そこにいたと言うことはコイツ等はそのメンバー。

 良くない噂を聞くクランだ……。

 体が強張る、と次の瞬間、前方にいた男の一人が何かを投げた。


「キャァッ」


「ヨーコッ!?」


 ヨーコ、ヒナの腕が飛んできた何かに弾かれて、携帯電話が地面に落ちた。


「ハイハイ、残念でした。どこに連絡しようとしてたのかな?」


 マズい。

 コイツ等、アタシ達より強い……。


「ヒナ、走って!」


 ヒナの手を取って脇道に入る。

 怪我していない方の手をだ。

 そしてもう片方の手で自分の携帯電話を取り出して……。


「痛っ」


 何か飛んできた。

 どこから?

 まさか前から?

 さっきヒナに何かを投げた男が何故か前から現れた。

 回り込まれた?

 そんなバカな、速すぎる……。


「メグちゃん、こっち」


 今度はアタシがヒナに手を引かれて小道に入る。

 あ、携帯……。

 ダメだ、取りに戻ったら追いつかれる。


「これ、誘導されてる」


 分かれ道になる度に、その一方から男達が出てきて選択肢はない状態。

 奥へ奥へと追い込まれているのだ。

 そして……。


「そんな……」


 入った小部屋が行き止まりだった。


「へへ、ここまでくればどんだけ叫んでも誰にも聞こえないぜ?」


「そうそうメインストリート近くじゃあ上がって来る奴に聞こえるかもしれねぇからな。ここまで来てもらったって訳だ」


 やっぱり……。

 コイツ等、慣れてる……。

 ヒナの繋いだ手が震えているのがわかる。

 何か、何か言い返さないと……。


「アンタ達、こんなことしてタダで済むと思ってんの?」


「声震えてんじゃん、カワイイねぇ。大丈夫、大丈夫。今までバレたことないから。でも一応もっと奥の階層に場所を変えとくか。アリバイも作んないといけなしな」


 常習犯……。

 噂は本当だったんだ……。


「はいはい、このお薬嗅いでね。レベルは30くらいかな?ならすーぐ眠くなるから安心してね」


 男の一人がどこからか薬品を取り出す。

 まさか【薬師】のスキルで作った眠り薬?

 レベル差が10もあれば確実に眠らせられるという……。

 さっきの動きからするとレベル差は10でも利かないしれない。

 それでも……。


「ゴフッ」


 剣に手を掛けた瞬間。

 さっきまで部屋の入口にいた男が目の前にて、アタシのお腹を殴りつけていた……。


「なにいっちょ前に抵抗しようとしてんだ?こっちはレベル40越えの【忍者】5人だぞ?大人しくしとけや」


 にん…じゃ?

 コイツ等が?

 【忍者】って正義の味方なんじゃないの?

 冒険者は人類の救世主じゃないの?

 困った人を助けるためにポーションを集めにダンジョンに入る、みんなのヒーローじゃないの?

 アタシの憧れていた冒険者は、【忍者】は、こんな……。


「メグちゃっ、イヤッ!ウッ……」


 ヒナがさっきの薬品男に薬を嗅がされる。

 助けなきゃいけないのに、足に力が入らない……。

 誰か……。


『ゴゴゴ……』


「うひょー、柔らけぇ。メッチャいい匂いするー」


 アタシはどうなってもいい。

 だから、ヒナだけは……。


『ゴゴゴゴ……』


「おいおい、後に……。何の音だ?おい、見てこい」


(神様……。どうか、どうかヒナだけは助けて下さい!)


 跪いたまま祈る……。


『ゴゴゴゴゴ……』


「へいへ……。なっ!?水だー!!」


「なんだ?水?おいっ、ヤバいぞ。逃げっ」


 バシャーンっと、通路から水が流れてきたと思った次の瞬間にはもう水の中にいた。

 そのまま洗濯機のように小部屋の中でグルグルと流される……。

 息が……、

 いや、それよりもヒナだ、ヒナは?

 いたっ!

 激流に揉まれながらも、なんとかヒナの方へと手を伸ばす。


(お願い、届いて……)




「ひ、な……」


 目を覚ますとそこには太陽があった。

 どうやら16階層まで流されたようだ。

 辺りにいる冒険者が大騒ぎをしていてそのことに気が付いた。

 さっきの男達はいないようで安堵する。

 そして右手には確かな感触。

 ヒナだ。

 眠ったままだけど、ちゃんと生きてる。

 よかった……。


「神様、ありがとう。ありがとうございます……」


 涙が溢れる。



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