第18話 結果オーライ

『おい、アイツ……』


『この前の奴か……』


『一人だぞ。どうする?』


『バーカ、揉め事起こすなって言われてるだろ』


『わかる、アイツはヤバイ。やめとこう』


 14階層から15階層へと降りる階段の部屋。

 ボスが倒されてセーフティエリアとなっているのその場所に、ガラの悪い冒険者が屯していた。

 なんとかローズの皆さんです。

 ついてない、と思ったのも束の間、何故かそいつらが左右に割れて道が出来た。

 まだ俺のことをイガの忍者だと思い込んでいるらしい。


(まあ通してもらえるならそれに越したことはない)


 そそくさと階段を下りる。

 【水魔法使い】のジョブを得た後、まだ時間があったので14階層のジョブ部屋を周回してスキルポイント稼いだ。

 そして覚えた初の魔法スキル【ドリンクウォーター】。

 飲料水を作り出すスキルだね。

 なんと1ポイントで覚えることが出来るので、試しに取ってみることにしたのだ。

 他のスキルはポイントが足りないので後日4階層のジョブ部屋を周回して覚えようじゃないか。

 そして15階層にはその【ドリンクウォーター】のテストの為にやってきた。

 15階層は人がほとんどいないらしいからね。

 もし出力が強すぎて水柱が上がっても、ここなら誰にも見られないだろうという考えだ。


『カチッ』


「ひょえっ」


 どこからともなく飛んできた矢を左手がキャッチする。

 危ねぇ。

 15階層は人がいないのはこの罠の存在だ。

 この階層は罠が多いらしいので、人が寄り付かないのだとか。

 俺もさっさと……。


『カチッ』


 スキルのテストを済ませて……。


『カチッ』


 踏み過ぎじゃない?

 もうすでに矢が3本も飛んできたんですが?


「うーん」


 さっき音が鳴った辺りを踏んでみるが、もう矢は飛んでこない。

 無限に矢が手に入るかと思ったけど、一回キリのようだ。

 残念。

 しかも利用しようと思った瞬間、もう罠を踏まなくなると言う……。

 ついてない……、のか?



名前:斎藤 春道

ジョブ:【水魔法使い】【商人】

Lv:9999

HP:120823/149985

MP:109989/199980

腕力:12998

耐久:12998

敏捷:14998

魔力:19998

スキル:【SP換金】【ドリンクウォーター】



 現在のステータスはこんな感じ、魔力がほぼ2万になった他、腕力とかも上がっているので帰りに【商人】に戻しておきたいところだね……。


『な、何かいる……。この道はダメッ。戻ろう』


『何かってなんだ?』


『わかんない。でもヤバいヤツ。私達よりもずっと強いと思う』


 おっと、正面の方向から誰か来たみたいだ。

 こっちに向かってくると言うことは地上に帰るパーティだろう。

 会話から察するに近くに強いモンスターがいるようだ。

 耳を澄ませてみるが、わかるのは前方に5人、一人が女の子ってことだけ……。

 女の子は斥候なのかな?

 【気配察知】というスキルがあると聞くし、それでモンスターの存在がわかるのかもしれない。


『おい、確か15階層ここのフィールドボスって見つかってなかったよな?』


『スキルオーブが出れば金になるんじゃないか?ナルミの弟が助かるかも!』


『待て、聞いてなかったのか?俺達よりも強いんだぞ?命あっての物種だ。撤退するぞ。いいな、ナルミ?』


『うん。私はこんなところで死ねない。弟の病気が治るまでは……』


 なにやら事情のありそうなパーティーだったが引き返していった。

 フィールドボスか、俺も気を付けないと……。


『カチッ』


「おっと」


 上から丸太が降ってきたのを何とか避ける。

 いや、さっきまで上に何もかったよね?

 兎に角、さっさとスキルのテストをして、俺も脱出しよう。


『キャーッ』


 メインストリートから逸れてかなり奥に入ったところで、遠くから悲鳴のような声が聞こえた気がした。


「誰か罠でも踏んだのか?」


 気にはなったが、行っていいものかも迷う。

 ただ転んだだけとかかもしれないし、逆にさっきのフィールドボスに襲われたとかいう可能性もある……。

 でもこの階は入り組んでいて場所もわからないしなぁ。

 まあもう一度何か聞こえたらそっちの方に行ってみるか……。


「まずはスキルの練習をしておこうか」


 そう言えば、お腹空いたきた。

 さっき昼ご飯を食べたばかりだけど……。

 少しは紛れるかな?

 そう思って、大量の水をイメージしてしまったのが悪かったのかもしれない……。


「うまい水うまい水っと。行くぞ、【ドリンクウォーター】!」


 生み出される大量の水。

 ジェット噴射のように俺は後ろの壁に叩きつけられた。


「ガボッガボッガボッ」


 こうはならんだろ……。

 何とか踏ん張ってたえるが、如何せん水の量が多い。

 これ、いつまで水が出続けるんだ?

 流れに逆らおうとしたところで、水が発生しているのとは別の通路からも回り込んだ水が流れてきた。


(うっ。息が……、続かない……)


 完全に頭まで水の中に浸かってもうどうしようもなくなり、流れてきたゴブリンやら何やらと一緒に流されていく……。

 ウオータースライダーのようにメインストリートまで戻され、一気に16階層へと続くの階段の部屋へ。

 逃げ惑う冒険者達。

 セーフティーエリアとはいったい……。

 そして階段を滑り降りて、16階層に出たところでようやく自由に動ける程度まで水嵩が下がった。

 16階層は開けたフィールドだからね。

 先に階段を駆け下りていた冒険者達が、流れてくる冒険者を救出する。

 最後に女の子が二人流れ来たところで、ようやく水の流れが収まった……。


(ヤベェ。やっちまった……)


 震える。

 今のところ死んでる人はいないみたいだけど……。

 最後に流されきた女の子達二人が目を覚まさない。


「あの人達にやられました!薬を使われて目を覚まさないんです!誰か、ソイツ等を捕まえて!」


 ひぇっ、と思ったけど、起きた女の子が指差したのは俺じゃなかった。

 アイツ等は……、さっき14階層にいた、なんとかローズ!


「チッ」


 逃げる男達。

 でもダンジョンの奥の方に?

 上で何が起こったのかは俺以外にはわからないし、危険だと判断して奥に逃げたのかな?

 袋の鼠ってヤツじゃない?

 でも誰も追わない。

 会話を聞くかぎり、アイツ等は高レベルで追い掛けてもどうにもならないらしい。

 後は警察に任せようとのことだった。

 俺にも捕まえるのは無理だね。

 パーンってなったら大変だし。


『おい、それ、スキルオーブじゃないか?』


『マジで?どこだどこだ?』


『宝箱も流れてきたぞ。隠し部屋があったんじゃねえか?』


『中身ポーションだ。やったぜ!』


『探せ探せ!ゴブリンの魔石も取ったもん勝ちだぞ!』


 っていうか皆さんもうお祭り状態。

 15階層から色々流れてきたらしい。

 その中にフィールドボスの死体もあったらしく、スキルオーブが見つかったようだ。

 手に入れたのはさっきの病気の弟がいる女の子のようだ。

 みんなが拍手をしている。

 ええ話しやー、で終わっておかない?





「で、なんであんなことをしでかしたんだ?」


 ダンジョンを出たのはいいが、警察に連れてこられて取り調べ中だ。

 どうやら監視カメラに俺が脇道に入っていく様子が映っていたらしく、しかもそちらから水が溢れてきたので、犯人扱いですよ。

 いや、犯人なんだけど……。

 それを地上の方で確認していたようで、ダンジョンを出た時点で確保されたのだ。


「わ、わざとじゃないんです」


 ほんと、あんなことになるとは誰も思わないでしょ?


「嘘つけ!いかにもやりそうな顔をしとるわっ!」


 美人刑事に詰められる。

 なんかこの人、圧強くない?

 理不尽に怒られてるような気がするし……。

 ついてない俺としてはよくあるパターンなんだが、今回は冤罪じゃないという過去最大のピンチだったりする。


「失礼します。平松警部、協会が被害届を取り下げました。フィールドボスが設置した罠を踏んだだけで、事件性もなければ故意でもないという判断の様です」


 イケメンの若い刑事が取調室に入ってきた。

 これは後から聞いた話だが、あのフィールドボスはゴブリンスカウトという種類のモンスターで、ソイツの仕掛けた罠を俺が踏むことによってあの大洪水が起こったという記録が正式に残ったらしい。

 まったく、ゴブリンスカウトは困った奴だぜ。


「いや、でもコイツ、明らかに怪しいぞ?ブラッドローズと繋がりがあるかもしれないし、もう少し調べた方がいい」


「本人も反省しているようですし、協会の方でもカメラ等の賠償も請求しないそうです。被害に遭った冒険者達もあのお祭り騒ぎで寧ろ感謝しているようですし、ブラッドローズの犯罪を防いでくれた訳でもあります。これ以上の拘留は難しいですね」


 おお?結果オーライで無罪?

 ブラッドローズの皆さんが悪事を働こうとしていたお陰で助かったみたいだ。

 最後に流されてきた女の子二人を襲おうとしてたみたいだったからな。

 そこにあの大洪水で、二人は助かったっと。

 水に浸かってぶっ壊れた監視カメラの請求もなしか……。

 電線だけは無事だったのが幸いだ。

 いや、ホントごめん。


「納得いかん。アイツ等はまだまだ余罪があるぞ。掘れば必ず出てくる」


 逃げた奴等はなんとブラッドローズのリーダーの堺が自ら捕まえて、地上まで連れて来たと言う。

 しかし今回の犯行については概ね認めているが、クランとは無関係なパーティ単位での犯行だと主張しているようだ。


「そうだとしてもこの人は無関係ですね。さっさと返してそちらの捜査に集中しましょう」


「うーん。コイツは絶対何か隠してるんだよなぁ。私の勘がそう言っているんだ……」


 気のせい、気のせい。

 この後、身元引け請け人として俺のことを迎えに来た親に会社をリストラされたこともバレて散々な一日となった。

 まあ千葉の新居の方の保証人になってくれたし、結果オーライかな?



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