第15話 ★正義の冒険者【朝日恵】その1

SIDE:朝日恵あさひめぐみ(人気ダンジョン配信者)

※主人公以外の三人称視点となります。


 時は遡り、本部閉鎖前、本部ダンジョン32階層にて……。


「カット。オッケーでーす」


「カメラ止まった?ねえ、はこれっきりにしてよね!」


 生配信が終了するのと同時にプロデューサーに突っ掛かる。

 こういうの、と言うのは所謂のことである。

 さっきまでやっていた生配信中にスキルオーブが出た、が、これは真っ赤な嘘。

 事前に用意していたスキルオーブを取り出して、たった今出たかのように見せかけただけである。

 通常のモンスターからスキルオーブがドロップする確率は天文学的な数値だといわれている。

 出る訳がないのだ。


「またその話?いつもやってることっしょ?」


 軽い口調でプロデューサーが返してくる。

 それが問題なんでしょ!


「だからもうやめてって言ってるの!」


「いやいや、これがの人気の秘密っしょ。他と同じ配信してたらすぐ飽きられて埋もれていくだけだよ?この小さな奇跡の積み重ねでアマリリスはってことで人気になったんだから」


 アマリリスはアタシが所属する5人組のダンジョン配信者グループのことだ。

 ダンジョン関連の動画での国内年間総再生数1位を2年連続、おそらく今年もなので3年連続受賞することになる人気グループ、アタシはそのメンバーのとして活動してる。

 人気グループとは言ってもその実態はこんなものだけどね。

 ヤラセ、仕込み、スポンサーの意向……、もうウンザリだ。


「何が小さな奇跡よ。今回のはやり過ぎ。スキルオーブが出たなら協会への報告も必要でしょ?間違ったドロップの記録が残るんだよ?」


 冒険者協会ではモンスターからのドロップ情報を集めている。

 動画として公開してしまった以上、報告は避けて通れないのだ。


「大丈夫、大丈夫。【鑑定】じゃあどこで出たとかわかんないから。それに真似したって出る訳ないし。それに今回のことはケーコも納得してたでしょ?終わってからそんなことを言われてもねぇ」


 そうだ……。

 アタシは冒険者として上に行きたい。

 今回のこともメンバーのシノブに前から欲しいと思っていたスキルのオーブだったから渋々了承したのだ。

 でも、これで準備は出来た。

 だからこれでヤラセも最後だ。


「じゃあもういいでしょ?アタシ達、もう全員二十歳を越えたんだから。31階層のボス部屋に挑戦してもいいよね?いつ行くの?」


 16歳でこの世界に飛び込んで5年。

 アタシももう21歳、一番年下のメイコも先月二十歳になった。

 今までは二十歳になるまではと止められてきた31階層のボス部屋。

 それにようやく挑戦できる。


『アマリリスは冒険者としては二流』


 最近はそんな声も増えてきた。

 5年経っても未だに30階層付近でモタモタしているのでは当然だ。

 素質ある冒険者なら30階層までは2年で到達する。

 5年あれば50階層まで行っていてもおかしくない。

 確かにアタシは弱い、でもそれは今日までのアタシの話。

 31階層で【忍者】さえ手に入れば……。


「いやー、それなんだけどさー。スポンサーが反対してるんだよねぇ。君らはもう国民的なアイドル配信者な訳よ。危ないことはさせるなって言ってきててさー。もし誰か死にでもしたら大事だからね。それにみんなが【忍者】になっちゃったら、ランコの個性が死んじゃうじゃん?」


「は?ふざけんな!約束が違うでしょ!」


 思わず掴みかかろうとするのをグッと堪える。

 アタシのレベルは35、プロデューサーはいいところ20前後だろう。

 ここまで差があると怪我では済まない。


「ケイちゃん、落ち着いて!」


 メンバーのヨーコがアタシを落ち着かせようと間に割って入る。

 我に返って辺りを見回す。

 メイコはヤレヤレと肩を竦めていて、シノブはオロオロしている。

 ランコは我関せずと武器の手入れをしていて、スタッフもそんな感じでこちらを見ようとはしない。

 護衛の人達は腕を組んでニヤニヤしている。


「ケーコちゃん、この話はダンジョンから出てからにしましょ?ね?プロデューサーさんもそれでいいですよね?ここを出たらケーコちゃんのお話を聞いてくださいね」


 マネちゃん……。

 アタシを止めようとするのはマネージャーとヨーコくらい。

 ヨーコのである、サファイアキャットのエリザベスでさえ欠伸をしている。

 たぶんアタシの話を聞いてくれるのもこの二人だけなんだろう……。


「はいはい、話だけなら聞きますよ。いくらでもね。まあ俺の意見どうこうっていう話でもないから、無駄だけど」


 やっぱり。


「えっ?」


 それは誰の声だっったのか?

 アタシだったのか、いち早く異常に気が付いたランコだったのかもしれない……。

 もう一言言ってやろうと一歩を踏み出した瞬間、アタシはバランスが取れなくなった。


(なにこれ?地震なの?ダンジョンで?)


「キャーッ」


 シノブが女の子みたいな悲鳴を上げる。

 あ、女の子だった。


「ケイちゃん!エリ、おいで!」


「みんな落ち着いて、床に伏せて頭を守ってください!」


 ヨーコに抱き着かれて動けなくなったが、マネちゃんの指示にしたがって二人とも地面に膝を付く。


「チッ。なんだったんだ。とりあえず31階層のセーフティエリアまで戻るぞ!斥候は先行しろ!」


 揺れが収まると護衛チームのリーダーが支持を出し始める。


「ひぇええ。お、俺達はどうすれば」


「ランコを殿にしてついて来い!地上との連絡はぁ!?」


 撤退は正しい判断だ。

 今の地震がモンスターにどんな影響を与えたかわからない。


「あ、待った待った。先頭はアマリリスが行くっ!配信、配信するぞ。アマリリス準備しろ!」


「こんな時になに言ってやがる!」


「こんな時だからだ!お前たちは護衛なんだから俺達を守ってろ!これは数字が稼げるぞー!ネットは繋がるな?ヨシッ!タイトルもサムネもどうでもいい。兎に角始めろ!」


 落ち着きを取り戻したプロデューサーが生放送の準備を急がせる。

 商機を逃がさないところだけは流石と言える。


「枠取れました。行けます!3、2、1、スタート!」


 急に振られるがそれでも5年もやってきたのだ。

 任せなさい。


「今、緊急で回しています。アタシ達は今32階層にいますが先程大きな揺れに見舞われました」


 アタシから。

 アタシは背中に背負った大きな剣を使う【大剣士】をメインジョブにしている。

 アタッカーと盾役を兼ねる、このパーティーの斬り込み隊長だったりする。


「アタクシ達は無事ですわー!」


 メイコ。

 金髪のツインテールを巻いた、所謂縦ロールと呼ばれる髪型をしたお嬢様キャラ。

 キャラというか実際に実家はすごいお金持ちらしいね。

 まあ年収ならアタシ達も負けてないけど。

 今のジョブは【風魔法使い】だったかな?

 色んな属性の魔法使いジョブを一通りこなしているので、魔法スキルは豊富なはずだ。


「エリも無事でーす!」


 ヨーコ、とエリザべス。

 ヨーコは【魔物使い】と言う大変珍しいジョブ持ちで、モンスターを【テイム】して仲間にすることが出来る。

 エリことエリザベスはヨーコの従魔でサファイアキャットと言う青くて綺麗な猫のことだ。

 モンスターだけど、そのまま猫を大きくしたような性格で、アマリリスのマスコット的な存在でもある。

 今はヨーコの大きな山の間に挟まれて苦しそうだ。

 震度10と言うコメントが乱れ飛ぶ。

 もげてしまえ。


「コメント、外は震度1だったって」


 ランコ。

 レベル1の時点で【忍者】のジョブを持っていた、所謂『ダンジョンに選ばし者』と言うヤツだ。

 ダンジョン内では後ろでまとめているが、黒髪のロングでその日本人形の様な容姿も相まってアマリリスでは、いや、日本のダンジョン配信者の中でも人気ナンバーワンの美人配信者である。

 その実力も【忍者】と言うジョブとは関係なしに、戦闘センスと言う面でもアタシを遥かに凌駕する。

 正直、嫉妬するくらい強い……。


「外、無事なの?よかったー。あっ……、僕達はこれから31階層のセーフティエリアに向かって、そこで態勢を立て直してから脱出を試みるつもりだよ。僕の活躍、見逃さないでね!」


 そしてシノブ。

 見た目は男装の麗人で女性のファンが多い。

 でも実はヘタレで少女っぽい趣味をしているのは、もう視聴者にもバレている。

 武器は槍だけど、【薙刀士】と言うこれまたレアなジョブを持っている。


「ではアマリリスのダンジョン生配信……」


「「「「スタートー」」」」


「にゃん♪」


 この5人と一匹でアマリリス。

 いずれ配信界だけでなく、冒険者業界の中でも天下を取る。

 ……そう信じていた時もあった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る