第13話 それはヨガ

「やっと1か……」


 無心で岩飛蝗を叩き続けること数時間。

 昼休憩もしたが5時を回ってようやくだ。

 ステータス画面のスキルの所をタッチすると現在のスキルポイントと、覚えられるスキルの一覧の画面に切り替わる。



スキルポイント:1.00


【契約書作成】:5

【計算】:2

【操車】:2

【SP換金】:2



 【契約書作成】だけがポイント5必要で、それ以外の獲得ポイントが2のようだ。

 お目当の【SP換金】は一番下にあって必要ポイントは2。

 これを明日もやればスキルを覚えられる訳か……。

 最初にスキルポイントを見た時点で0.00だったから嫌な予感がしていたんだけどね。

 小数第2位までしか表示されにないので、1回ボス部屋に入っただけでは数字が動かなかった。

 ボス岩飛蝗は1匹が0.001スキルポイントくらいなのだろう。

 一回に5匹なので、0.005。

 2回でステータスの数字に変動があって0.01になったからね。

 と言うことは約200回もボス部屋をクリアしたことになる。

 いや、長かった。

 もうボス部屋の壁がボコボコのベコベコですよ。

 魔石を回収しないでこれだからね。

 普通ならもっと掛かるのか……。

 スキルを覚えるのは大変だってことはわかった。

 そりゃ、新井さんもレベル上げをお勧めするよ……。


『ピロロン♪』


 携帯がなる。

 メッセージだ。


『無事ですか?定時なので上がりますね』


 噂をすれば新井さん。

 5時過ぎちゃったからね。

 暗くなってきたし、俺も帰ろう。


(お疲れさまでした。こちら現在4階層、今から戻ります。また明日)


 っと、送信。


『ピロロン♪』


『お気をつけて。また明日』


 すぐ返ってきた!

 もう一回返信しておこう。


『新井さんも』


 楽しい。

 冒険者になって良かった。





「おはようございます。春道さん」


「おはようございます。新井さん」


 今日も同じパターンで始発でやってきて、冒険の準備。

 新井さんに挨拶してスタートだ。


「昨日はどうでした?」


「いやー、スキルを覚えるのって大変なんですね。まだまだポイントが足りないですよ」


 もう1日だけ粘ろうかな?


「当たり前です。そんなに簡単にスキルが手に入ったら誰も苦労しませんよ。皆さんレベル上げを優先で、スキルの方は順次ですね。春道さんも11階層まで辿り着く頃には2ポイントくらいは貯まっているはずですよ」


 11階層か……。

 そこから戦闘職のジョブが出るんだったか。

 もう今日行けば2まで貯まるかな?


「日帰りでいける範囲って……」


「よう、睦美。今から入ダンするぜ」


 どこまでですかと聞こうとしたところで、後ろから団体さんがやってきた。


「これは堺さん。おはようございます」


 新井さんが立ち上がって頭を下げる。

 ダンジョンに入ってきたのは結構な人数で、仮面をつけていたりして中々に奇抜なファッションの人達が多い。

 新井さんに堺と呼ばれた男もド派手な真っ赤な鎧を着て、手には同じく赤のフルフェイスの兜を持っている。


『ウェーイ、トモちゃん元気?』


 隣の受付……、買取カウンターは2個あって、新井さんの他にもう一人女の子が座っているのだが、一団から出てきた別の男がそちらにも声を掛けた。


「アンタ、見ない顔だな?本部から来たのか?」


「え?あ、はい」


 隣の受付を見ていたら堺と呼ばれた男が俺にも声を掛けてきた。

 思わず生返事を返してしまったが、1日しかいなかったけど本部から来たのは確かなので嘘は言っていない。


「本部でどれ程のモンだんったか知らないが、千葉は俺達『ブラッドローズ』が仕切ってるんだ。好き勝手にはやらせねぇ。覚えときな」


 なんか凄まれた……。

 越智さんがなら、この人は暴走族って感じだろうか?


「堺さん、そういうのは……」


「おっと。別に揉め事を起こそうって訳じゃないぜ?仲良くやるさ。じゃあな、おっさん」


 新井さんに窘められると、堺は過ぎ去った一団の最後尾について行ってしまった。


「なんです?今の人達」


「『ブラッドローズ』と言う千葉で一番大きなクランです。堺さんはそのリーダーになりますね」


 クランって言うのは複数のパーティーが集まってできる冒険者のチームだったか。

 でも千葉で一番って確か評判が悪いんじゃなかったか……。


「なんで俺に?」


「本部のダンジョンが閉鎖されて『伊賀』の人達がウチに来てるみたいなんですよ。それでピリピリしてるみたいで、春道さんのことを『伊賀』のメンバーだと勘違いしたみたいですね」


 まさかの人違い!


「イガ?」


 ってなんぞ?

 あのすごいポーズをする体操?

 それはヨーガ……。


「え?『伊賀忍者隊』、知らないんですか?『甲賀忍軍』と並んで日本の二大クランの一つですよ?」


 『ブラッドローズ』も大概だと思ったが、『伊賀』に『甲賀』か……。

 日本の上位冒険者はみんなジョブが【忍者】だって言うからそこから名付けたんだろうけどね。


「すいません、この間までダンジョンとは無縁の生活をしていたもので……。でもいいんですか?協会としてはああいうのを取り締まらなくても」


「さっきの通り、私達、協会の人間には愛想がいいんですよ。皆さん、ここを通る際には声を掛けてくれますし。それにで問題を起こしたって話も聞きませんしね。ただ縄張り意識みたいなのが強くて、別の支部から来た冒険者さん達にはあの通りなんですよ」


 なるほど、自分達の存在を脅かすような冒険者に対してだけ嫌がらせをしている訳か……。


「奥に行かなければ大丈夫ってことですね」


「はい。もし何かあった場合は初心者だってことを伝えて、すぐに私に連絡してください。『伊賀』の人じゃないってわかれば何もしてこないはずですから。あ、でも今は行かない方がいいですよ。追いついちゃったらまた絡まれるかもしれません。少しここでお話してからにしましょう」


 思わぬ幸運。

 どうしてしまったんだ俺の運。

 新井さんは海外旅行に行きたいそうなのだが、レベルが30を超えているので簡単にがビザが下りない上に入国審査でも足止めされるんだそうだ。

 俺は海外旅行にも行ったことがないし、パスポートも持ってないんだよね、と言う話を1時間近くもしてしまった。

 そうかぁ、レベルが高いと海外旅行は無理なのか……。





『無事ですか?今日もお先に上がらせてもらいます』


「5時か……、俺も帰ろ。おっと、返信返信っと」


 今日も結局4階層に来てしまった。

 ジョブ部屋の壁は一晩で直っていたけど、またボロボロにしてしまった。

 金属バットももう限界なので新しいのが必要だろう……。

 いや出費ヤバいよね。

 でもその甲斐あってか、スキルポイントは2を超えた。


スキルポイント:2.08


 帰り道を進みながらさっそくスキルを獲得してみる。



名前:斎藤 春道

ジョブ:【商人】

Lv:9999

HP:109989/109989

MP:109989/109989

腕力:10998

耐久:10998

敏捷:10998

魔力:10998

スキル:【SP換金】



「あれ?ダンジョンコインって1枚15万くらいなんだっけ?明日からもここでスキルポイントを稼いだら……」


 日給15万円と言うことにならないか?

 4階層の時点で?

 もしかして……、やらかしてます?

 2分に一回ボス部屋を出入りしてるし、普通の人には無理か?

 5人いればできそうだけど、その場合はスキルポイントも5等分される。

 1日の儲けは3万になるけど、これだけの激務なら妥当な気もする……。

 明日いきなりダンジョンコインを出したりしたら変な疑いが掛かりそうだな。

 なんとかローズのこともあるし、目立たないこと、それが大事だろう。



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