第9話 ジョブシステム
「いってらっしゃーい!わからないことがあったらメッセージアプリで聞いてくださいね」
昼飯に噂の【料理】スキルの屋台を堪能した後、買取カウンターの新井さんにまた声を掛けられた。
千葉ダンジョンの特性や、おすすめの狩場など色々教えてもらった。
しかも連絡先まで……。
(新井さん優しいなぁ。美人だし)
振り返るとまた小さく手を振ってくれた。
俺も小さく振り返して頭を下げる。
ちょうど昼休憩が終わる時間で説明を聞いている間も何人も後ろを通ったけど、その人たちをこうやって見送ることはなかった。
(俺にだけ優しいのか?)
初対面の俺にここまでよくしてくれる理由がわからんぞ。
どうしようドキドキしてきた。
まさか俺のことを?
(いや、バカなことを考えるんじゃない。いやいや、でも万が一ってことも。いやいやいや……)
そんな馬鹿なことを考えているうちに2階層へと繋がる階段のある部屋に到着してしまう。
人通りの多いメインストリートと呼ばれる道を歩いて来たので、ゴブリンと遭遇することもなかった。
開けっ放しの扉に入る、フェンスで仕切られた向こうからジリジリと電気音が聞こえる。
魔道具で作り出した電気を変圧しているのだろう。
12しかないダンジョンで10%の電気を作っているのだとしたらここでも日本の近い1%の電気を作っていることになる。
(こんな小さい設備ですごいな)
道中のメインストリートで天井を這っていたケーブルはぶっとかったけどね。
ゴブリンは天井に届かないから切られる心配はないそうだ。
電気の他にインターネットの光回線なども地下に向かって通っている。
フリーwifiで使い放題。
本部では電話回線も通っているらしいけど千葉には無いそうだ。
なので地上との連絡手段はインターネットを利用したメッセージアプリを利用するのが主流となっている。
さっき新井さんと交換したヤツだね。
「うぉおお、これがダンジョンか……」
発電設備で手狭になっているボス部屋を抜けて長い階段を下りれば、そこは文字通りの別世界……。
空があるのだ。
「眩しっ」
太陽もある。
千葉の2階層は野外のフィールドになっており、外の日の出日の入りに合わせて昼夜もあるらしい。
信じられない話だが、ダンジョンではこれが普通らしい。
長い階段だったが、高さで言ったら30メートルも下りてないだろう。
だが空はどこまでも続いているように見える。
ダンジョンの階段は時空を歪めて別世界に連れていくワープ装置なのだと言われて早数十年……。
学者たちが必死に研究しているらしいが、未だにその詳細は誰にも解き明かせていない。
ちなみに地球ではダンジョンは地下の1階分しか存在しない。
その下の階層は地球上に存在しないのだ。
他にあるのは地下に向かって途中で途切れている階段と、地上に伸びている洞窟だけ。
日本ではこの洞窟の入口に冒険者協会の各支部が建っている。
「おっ、戦ってる。モンスターは……、犬かぁ」
この2階層は草原エリアなので視界を遮る程の草木は生えていない。
遠くに若い5人組がドーベルマンっぽいモンスターと戦っているのがわかる。
それにしても犬かぁ。
実家で犬を飼ってるから戦いたくないモンスターだな。
「戦闘になりませんように……」
3階層へと続く舗装されている道を進んで行く。
野外フィールド型の階層ではこうして次の階に向かってコンクリートの道が敷かれていて、その下にさっきの電気のケーブルが通ってるみたいだ。
少しいくと鉄製の太い柱が立っていて、カメラとwifiアンテナと思しきものがついている。
メインストリートにはこうして定点でカメラもついているので、外よりもダンジョンの方が犯罪も起こりにくいと言われているね。
まあメインストリートから大きく外れちゃうとネットにも繋がらなくなるみたいだけど……。
「テント?キャンプか?」
祈りが通じたのか、それとも先にいた冒険者が倒してくれたお陰なのか、ドーベルマンとは戦闘にならないまま階段のある部屋が見えてきた。
その扉の前に沢山のテントが設置してあるのでキャンプでもしているのかと思ったが、テントを出入りしているのは身なりの良くない人たちだった。
ホームレスだ。
しかし扉の外に居たらあのドーベルマンに襲われるんじゃないかと思いつつも、ボス部屋の扉を潜って理由を知る。
中にはいっぱいのダンボールハウス。
なるほど、外に居たのは本部のダンジョンから来たホームレスなのだろう。
これって治安的に大丈夫なのか?
「次の階はジョブ部屋も見ておきたいな」
ダンボールハウスの間を抜けて、3階層へと続く階段を下りる。
『ジョブシステム』。
ステータス画面にジョブと言う欄があって各階層にあるボス部屋を突破することでその欄にジョブを入れることが出来る。
「【スーテタス】」
名前:斎藤 春道
ジョブ:なし
Lv:9999
HP:99990/99990
MP:99990/99990
腕力:9999
耐久:9999
敏捷:9999
魔力:9999
スキル:なし
はい。
今の俺は無職ですね。
失礼な、まだ無職じゃないわい。
ふと思ったけど、冒険者って職業を聞かれた時なんて名乗るんだろう?
『職業は冒険者です』
キリッ!
「無理過ぎる……」
兎に角、このジョブを持っているとそのジョブに対応した『スキル』を覚えることが出来る。
このスキルがダンジョン攻略の鍵になってくるのだ。
奥に行けば行くほど、深い階層の方がより強いジョブが出るというが、浅い階層のジョブでも一度そのジョブに就いて覚えておいた方がいいスキルと言うものも存在する。
新井さんが教えてくれた初心者がまず取るべきスキルというのが3階層の【商人】で覚えられる【SP換金】である。
【SP換金】のSPはスキルポイントだね。
スキルポイントをダンジョンコインと言われる金貨に換えられるスキルとなる。
大事なスキルポイントを金貨に換えて売るんですか?と聞く俺に新井さんはこう答えた。
『その逆も出来るんです』
換えるだけでなく、戻せる、と。
なんの意味があるのか……。
まずダンジョンコインと言うのはダンジョンの宝箱からも得られる。
宝箱は年に一回、年明けにボスと共に復活するのだとか。
つまりこのスキルがあれば、宝箱からもスキルポイントが得られると言うことだね。
(まあリポップした宝箱の出現位置はランダムらしいから俺には見つけられそうにないけど……)
そこはしょうがないね。
だが【SP換金】の最大の特長は別にある。
それは……。
『ステータス画面の中にしか存在しなかったポイントを、現実世界へと取り出すことが出来るんです』
新井さんにこう言われたけどそれでも俺はピンと来なかった……。
バカでごめんね。
『その作り出したダンジョンコインを他の人とやり取りできるんですよ』
最後まで説明してくれた新井さんは優しいね。
【SP換金】とは他人からスキルポイントを貰える、あるいは上げることも出来る超便利スキルなのだ。
ちなみに冒険者協会でも買取しているそうです。
なんとお値段1枚15万円だとか。
スキルポイント1でですよ?
貰えるスキルポイントはモンスターごとに違う。
ゴブリンだと1000匹以上だけど、奥に行けば行くほど貰える量は増える。
特にボスは多くて1匹で1スキルポイントなんてヤツもいて、そのボス部屋は連日大盛況なんだとか。
スキルポイントをダンジョンコインに換えて売るのを専門にしてる冒険者もいるらしい。
「一人ではボス部屋に入るなって言われたんだけどなぁ」
ジョブ部屋のボスの強さは、その階層のレベルのメンバー5人いればクリアできるくらい……。
ここだったらレベル3が5人である。
でも俺、レベル9999なんだよなぁ。
行くなよ?絶対行くなよ?
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