第6話 200億の男はホームレス?

『パァーンッ』


『グシャッ』


 物凄い破裂音と共にゴブリンの上半身が吹き飛ぶ。

 うん、ダメだね。

 例のデコピンをダンジョン内で試しているのだが、如何せん威力が強すぎる。

 まあ外の10倍だからね。

 しかも音が鳴ってるのは俺の手元だ。

 まるで拳銃……、いや、ショットガンか。


もダメか……」


 ゴブリンの体内にあったも魔石砕けている。

 今回割ってしまったが、この魔石というのが冒険者の主な飯のタネとなるアイテムである。

 ダンジョンでは『魔道具』という覚えていないスキルを使うことの出来る、不思議なアイテムが見つかることがある。

 この魔道具には使用者のMPを使用するタイプと、モンスターから得られる魔石を燃料に動くタイプがあるのだ。

 そして20年程前に電気を生み出すスキル、【雷魔法】が使える魔道具が発見されたことにより、世界の電気事情は激変することとなった。

 見つかった魔道具はもちろん魔石を燃料とするタイプ。

 【魔道具師】という、すでに存在する魔道具を劣化コピーして作成できるジョブが存在するので、それはコピーのコピー、そのまたコピーという形で瞬く間に世界中に広がり、人類全体が魔石から電気を作る術を得ることとなった。

 もちろんそれまでも火を起こせる魔道具や、水を生み出す魔道具などでなんとか電気を作り出そうとしてきたが、魔道具ダンジョンの中でしか使えないからね。

 地上世界の技術よりも効率的に発電とはいかなかったのである。

 だがその電気魔法の魔道具は魔石を交換する機械を置くだけでほとんどスペースを取らずに、直接電気を作り出すことが出来た。

 当然日本でも即採用。

 あれよあれよという間に現在使用されている電力の約10%をこの魔石発電で賄ってしまっている。

 日本の10%だからね。

 小さい国だったらそのまま魔石だけで電力が賄えるかもしれない。


(まあ、その分魔石を産出しないといけいないんだが……)


 そこで冒険者の出番ですよ。

 それまで日本ではダンジョンに入るのはほとんどが自衛隊員だったり、科学者、あるいはモンスターの素材から利益を求める企業の先兵だったりしたのだが、冒険者協会が魔石の買取を始めたことにより広く一般人からも冒険者になる者達が現れたのだ。

 魔石というのはモンスターのエネルギーの源。

 強いモンスターから得られる魔石なら、その分多くのエネルギーが込められているとされている。

 このゴブリンの魔石は割れてなければ100円程で買い取りをしてもらえるが、30階層に出てくるモンスターの魔石ならなんと1個で1万円の値がつくという。

 上位層の月収は100万を越え、トップの冒険者達はその他にも企業との契約や依頼により年収1億を超える者も少なくない。

 冒険者とはそういう夢のある職業なのだ。


(俺もこの力を制御できるようになれば億プレイヤーも夢ではないのでは?)


 そんな淡い期待を持ってしまう。

 だって、今トップの冒険者はレベル50くらいなんだぞ?

 その200倍強いと考えたら……。


(200億!)


 やべぇ、震える。

 ダメだ、落ち着け、地面が割れる可能性がある。

 深呼吸だ、深呼吸。

 ちょっと次の仕事を見つけるまでの遊びぐらいに思ってたけど、これは本格的に冒険者になっても良いかもしれない。


『キャッ、風が……』


『ダンジョンにスカート履いてくるからだろ』


『しっ!』


『シロ?』


『あれ?1階って風吹くんだっけ?』


(おや、誰か来たか?)


 少し離れているだろうか?

 話し声がして足音も聞こえる。

 5人、か?

 なんかすごく耳が良くなってる気がする。

 これもステータスの影響なのかな?

 集中したら、息遣いまで聞こえる。

 心音も……。

 女の子が1人いるな……。

 息を殺してこちらに近づいてくる。

 何事だ?


「あ、あの、すいません。さっきすごい音がしませんでしたか?」


 薄暗い洞窟のようなダンジョンの中、お互いの視界の範囲に入ったところで若い男が声を掛けてきた。


「あー、聞こえ……ましたね。あっちの方だと思います」


 なるほど、さっきの爆音が気になって様子を窺いに来たようだ。

 だが、今5人組が来た方向とは反対の方を指さしてしらばっくれる。


「そ、そうですか……。失礼しました」


「お、おい」


「いいからっ!行くぞ!」


 俺の足元に落ちてる上半身の無いゴブリンに気が付いて何かを察したようだが、そのまま俺の指差した方向に足早に進んで行く。


『絶対あの人だよ』


、爆弾かなんかか?』


『それ普通に捕まるぞ。スキルだろ』


『高位の冒険者が1階でスキルの練習とかか?』


『いいなぁ。俺もスキルさえあればなぁ』


 いいえ、初心者のデコピンです。

 彼等は十分に離れたところでホッと一息ついて話始めたけど、全部聞こえてるんだよなぁ。

 やっぱり耳が良くなってるのは間違いない。

 しかし千葉は人が少ないって聞いたから来たんだけど、意外と多いね。

 1階層とは言え、次の階に続くメインストリートを外れた所でも結構すれ違うのだ。


(みんな考えることは一緒か)


 本部のダンジョンが閉鎖されているので、こっちに流れてきたのかもしれない。

 人が多いってことは今みたいに俺が何かしてるって気が付くヤツが出てくるだろうな……。

 ここで重大な問題に気が付く。


(レベルって隠した方がいいのか?)


 レベル50だ60だって騒いでるところに9999だもんな。

 厄介ごとになるのは目に見えている。

 まして俺は世界一ついていないことを自称する男。

 いいように利用されて、馬車馬のごとく働かされるに違いない。

 後輩の言っていた通り、ブラックな職場から開放されたのはラッキーだと考えるべきだ。

 なのにそれ以上のブラックになりそうなところに態々飛び込む必要はないだろう。


(決めた、コソコソやろう)


 200億を稼ぐ勢いで派手にやったら目立つことは間違いない。

 引退とか老後もなく働かされるだろう。

 なら目立たないように小銭を稼いでいくべきだろう。

 それがいい。

 ある程度稼いだらダンジョンから離れるのもいいだろう。

 まあその前に力加減を覚えて、モンスターから魔石を回収できるようにならないとな。





「またゴブリンの魔石ですか?じゃあ、ライセンスを……。あ、失礼しました。初心者の方だったんですね。私てっきり……。申し訳ありません。すぐに換金しますね」


 ん?

 ダンジョンの出入り口に設置されている買い取りカウンターに来たのだが、そこに座っていた協会の女性職員に滅茶苦茶嫌な顔をされた。

 でも俺が初心者だとわかったら急に優しくなったぞ?

 まあいいけどね。

 女の子に冷たくされるのは慣れてるのだ。

 なんと言ってもついてませんから。


(何かあれば真っ先に疑われる位置に立ってることが多いものでね。本当についてない……)


 それはさておき、午前中いっぱい頑張ってなんとか魔石を割らずに10個ほどゲットすることに成功した。

 デコピンに拘らずに、金属バットで頭だけを吹っ飛ばす作戦を思いついたのだ。

 20年も前の話だが、元野球少年なのでバットの扱いは慣れている。

 なれた動作なら加減が利くので、ゴブリンの頭を吹っ飛ばすだけですんだのだ。

 ……加減、利いてるか?


「10個で1000円ですね。ありがとうございましたー。またご利用ください」


 さっきと打って変わって、すごい笑顔。

 しかもかなりの美人さんだ。

 細身で少し肩幅が広い。

 座っていてもスタイルの良さがわかるモデルみたいなお姉さんである。

 そんな美人に愛想良くされたので、つい話しかけてしまう。


「ゴブリンの魔石ってマズかったですか?別のモンスターの魔石にした方がいいんでしょうか?」


 最初に嫌な顔をしたのは出したのが、ゴブリンの魔石だったからだ。

 俺の顔を見てではないはず……。


「あっ、そういう訳じゃないんです。実は……」


 お姉さんは当たりを見回して俺の耳元に近づく。


(あ、いい匂い)


 これはステータスの補正で鼻が良くなっているせい。

 決して俺がクンカクンカした訳ではないと断言しておく。


「昨日から本部のダンジョンが閉鎖されてるじゃないですか?中にいたホームレスの人達が、こっちのダンジョンに来てるんですよ。あの人達、ゴブリンの魔石しか持ってこないんです。それで、その……、本当にごめんなさい!違い……、ますよね?」


 ダンジョンの気候は年中変わらない。

 つまり夏でも冬でも温度が変わらないのだ。

 しかもライセンスを持ってさえいれば誰も入れる。

 逮捕歴があるとライセンスは取れないらしいけど、それ以外ならホームレスでも冒険者になれるのだ。

 で、各ダンジョンの2階層のセーフティエリア辺りはホームレスのたまり場になってるとかなんとか。

 1階層のセイフティエリアは魔石発電所があるので入れないから、2階層に集まってるみたいだね。

 しかもそいつ等、奥に行って、何年たっても1階層に戻ってゴブリンを狩って日銭を稼ぐだけらしいのだ。

 それで昨日の地震のせいで締め出された本部のホームレス達が千葉に押し寄せているらしい。

 1階に人が多い訳だよ。

 え?

 俺、ホームレスに間違えられたの?

 しかもこんな美人に?

 ついてない……。



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