第4話 世界一の(ついていない)冒険者の誕生
(ダメだ今度こそ死んだ……)
そうだな……、俺みたいについてない奴がダンジョンなんて命の危険のある場所に来ていいはずもなかったんだ。
父ちゃん、母ちゃん、ハチ(犬)、ごめん……。
「……ん?あれ?」
何ともないぞ?
HPは……。
HP:21/99980
増えてる!
あれ?
HP:21→22→23→24
(どんどん増えてるぞ、なんでだ?あっ、そうか、自然回復ってやつだ!)
ケガしてなければ回復していくんだっけ?
レベルアップした時、HPは最大HPが上がった分はすぐに戻るってさっきの講習の時にもらった資料に書いてあったな。
レベルアップする直前のHPが90%ならレベルが上がった後の最大HPの90%まで回復するし、100%残ってたなら全回復するとかなんとか……。
レベルアップした場合……、か。
つまり俺もレベルアップしたってことなのか?
名前:斎藤 春道
ジョブ:なし
Lv:9998
HP:39/99980
MP:10/99980
腕力:9998
耐久:9998
敏捷:9998
魔力:9998
スキル:なし
「フェッ?」
9998?
あれ?
さっきまで9999だったような?
見間違いか?
何が起こってる?
徐々にレベルが下がっていくとか?
そうだよな、いきなりレベルが9999とかゲームみたいな数字にはならないだろうし、もしかしたら一瞬だけレベルが上がって苦しくなる罠とか、そういうのを踏んだのかもしれない。
しかし、浅い階層にはまず罠はありませんから大丈夫です、見たいなこと言ってなかった?
まあ命の危険のある罠じゃないから大丈夫という意味で言ったのか、協会側が想定する以上に俺の運が悪かったのか……。
(……間違いなく後者です、どうもありがとうございました)
むしろ俺が悪いまであるよね。
はいはい、すいませんね。
やっぱり冒険者は諦めた方が良さそうだ……。
「大丈夫ですか?」
立ち止まっていた俺を心配して女子高生が戻ってきて声を掛けてくれる。
可愛いだけじゃなくて優し……。
『大丈夫?』
あっ……。
この子……。
そうだ、いや、そっか……。
嫌なことを思い出したな……。
「おいおい、どうした?へとかふとか、素っ頓狂な声を上げてると思ったら立ち止まっちまって。置いてかれるぞ?」
ドス男も戻ってきた。
うーん、こっちはカタギには優しいとかそういう筋の人っぽいな。
確かに『ふえー』なんて許されるのはかわいい女の子だけ。
いい歳したおっさんが口から出す言葉じゃないな。
「すいません、もう大丈夫です。ちょっと躓いただけなので」
もう平気だ。
体が熱いのも無くなったし、あとはダンジョンを出るだけ。
「あ、ここの地面、凹んでますもんね。足元には注意してたつもりですけど全然気が付かなかったです」
「なんだこれ?足跡か?強ぇ冒険者が思いっきり踏み込んだとかなんかか?壁まで割れてんじゃん。へー、レベル上がったらこんなことも出来る様になるんだな」
ホントだ。
地面に開いた穴には靴の裏の形がついている。
2回目になんか踏んだと思ったのは、この穴に落ちただけだったか。
まったく、迷惑な冒険者もいたもんだぜ。
ただいいキッカケになったのか、それともお互いに初ダンジョンで何事もなかったことに気が緩んだのか、2人とはダンジョンの入口に戻るまでの間に会話が弾んだ。
「そう言えば名乗ってなかったな俺は越智ってんだ。
ドス男の名前は越智さんか……。
顔は怖いけど、20代後半、30まで言ってなさそうな感じだ。
俺よりは年下っぽいけど、『さん』付けで呼んで敬語を使ってしまう。
だって怖いんだもん。
見かけても俺の方から声を掛けるのは無理です。
「私は
今時珍しい黒髪のストレートで、目鼻立ちも良く美人。
しかしながら仕草はかわいらしくて、学校ではさぞモテるんだろうなという印象を受ける。
俺みたいなおっさんや越智さんみたいな強面とも普通に会話してるし、コミュニケーション能力も高いようだ。
でも佐藤か……、やっぱ違うか……。
「へー、高校生か。ん?高校生?高校生ってダンジョン入って大丈夫なんだっけ?」
今まで女子高生と心の中で呼んでたけど、よくよく考えるとどこの高校も普通はダンジョンに入るのを校則で禁止しているはずだ。
法的には15歳以上なら誰でもライセンスを取れることになっているけど、特別な理由がない限りは学校がそれを許さないのだ。
魔石の買取なんかでお金が入るし手軽なアルバイトになるのだが、アルバイト自体を禁止してる学校も多いしね。
まあ俺も大学を出てからはダンジョンの話を聞く機会もめっきり減ったからね。
今どうなっているのかは正直わからない。
テレビを付けると10代のアイドルが動画配信の為にダンジョンに行ってるみたいな話もしていたし、俺が知らない間にOKになった可能性もある。
「えっと……、その……、学校には、内緒、です……」
尻すぼみに真実を明かされる。
やっぱりダメだったか。
「おいおい兄さん、野暮なこと言うなや。ダンジョンなんて後ろ暗いことがある奴が来る場所だろ?俺にみたいにな」
そうだね。
俺ももうすぐクビになるとはいえ、一応まだあの会社には席を置いている身。
社則違反をしているんだ。
思い返せば俺も高校の時に学校に内緒で免許を取って父親の車を乗り回してたもんだ。
免許取った初日に擦って怒られたのは良い思い出、……いや良くない思い出だった。
「そうですね。実は俺も会社で冒険者になるの禁止されてるんですよ。だから内緒で頼むな?あ、俺、斎藤春道ね」
「あ、はい。……ありがとうございます?」
学校にバラされたくなかったらわかるよね?みたいな展開はないので期待していた人は帰ってどうぞです。
「お?そろそろ出口か?やっと娑婆の空気を吸えるな。まあ俺はすぐにまたダンジョンに入ってレベル上げをするつもりだけど。兄さん達はどうすんだ?」
越智さんはさっそくレベル上げか。
ステータスというのは外の世界でも少しだけ効果があるらしい。
レベル30くらいまで上がれば外でも格闘家並みに強くなれるんだそうで、この道の人達は
そんなコメントを返しづらい話を帰り道に教えてもらった。
「私は今日はライセンスを取りにきただけなので、もう帰ろうと思ってます。どこか私みたいなのでも入れてくれるクランを探して、ダンジョンに入るのはそれからですね」
これだけ可愛ければ引く手数多だろう。
でも今度は可愛すぎて別の心配が出て来るよね。
変な男には引っ掛からないように気を付けてもらいたい。
ちなみにダンジョンにはボス部屋と言うものがあって、そこでジョブが得られたりするらしいのだが、その部屋には人数制限があるのだ。
それが5人で、冒険者が5人集まるとそれを1パーティーと数える。
クランと言うのは複数のパーティーが集まってダンジョンを攻略していく集団のことを言うみたいだね。
ジョブが得られるボス部屋のことをジョブ部屋というらしいのだが、その他にも下の階に下りる為の階段を守っているボス部屋、階層ボスの部屋というのもある。
こちらの階層ボスは1年に1回しか復活しないので、一般の冒険者がダンジョンを進む際には5人以上の集団と言うのも珍しくはないらしい。
ただレベルを上げる為の経験値というヤツが5人までは人数割りなのだが、それ以上になると一人増える度に半分になるのだとか。
なので目的の階層まで移動した後はクランであってもやはり5人一組の1パーティー単位で行動するらしい。
まあ基本は5人行動ってことだね。
「兄さんはどうするんだい?」
俺ももう帰ろうと思ってたんだけどね……。
「俺は武器を持ってないのでちょっと近くのお店を回ってみますよ」
Lv:9998
あれから結構経ったがレベルがまだ下がってないのだ……。
︙
︙
「いや、全然モンスターいないじゃん」
地上の冒険者協会に併設されたダンジョン関連のお店を回ること1時間ほど……。
Lv:9998
HP:10053/99980
ダンジョンに戻ってみたけどまだレベルは下がっていない。
一瞬だけレベルが上がる罠じゃなかったのか?
HPも1万を超えてまだ回復中……。
どうなってるのか全く分からない。
とにかく、この数字が本当か試してみることにした。
無手で再びダンジョンに入るのも危険だと思い、結局もう一度ダンジョンを出て槍を買ってきてしまった。
いや昨日、某掲示板で初心者用の武器の相談したんだけどさ、なんかやたらと槍を押してくる人がいたんだよね。
刃筋云々でハンマーとか鈍器みたいなのも初心者にはいいらしいけど、ガチの初心者はモンスターが死んでいるのかどうか分からずに殴り続けて、それがトラウマになってやめていく人もいるんだとか。
だから初回だけは槍にしておけとのことだった。
さっきも講習でゴブリンの死に様を見て青くなっている人が多かったから、それは正解だと言わざる得ない。
(まあ、俺は今日で終わりかもしれないから無駄な出費になるかもしれないけど……)
そう思いつつも、どこか期待している自分がいる。
このステータスの数字が本当だとしたら……。
もしもこのままレベルが下がらないのなら……。
現在、生きている人間の中での最高レベルは60ちょっと。
それも今は現役を引退したお爺さんが一人だけレベル60代らしい。
歴代でも70まで届いた人間はいない。
これは日本だけではなく世界中でだ。
単純に計算しても今の俺はその140倍以上は強いことになる。
だから一回だけ、本当にちょっとだけ試してみようとダンジョンに下りて来たのだが……。
「やっぱいないな。ヒッ!……ってなんだゴブリンの死体かよ」
人型だからね。
暗がりだから誰か倒れてるか思ってドキッとした。
しかし死体があるということは誰かがここを通った直後なのだろう。
モンスターの死体も15分でダンジョンに吸収されちゃうっていうしね。
メインストリートと言われる次の階層に最短で繋がる道には電気が通っていて明かりも灯っている。
この電気の線っていうのは地上から繋がっているのでダンジョンには吸収されないのだとか。
ついでにインターネットに繋がるwifiアンテナまで、その電線に繋げて等間隔で設置してあるのだとか。
最近の冒険者は動画の生配信をするのも日常と化しており、そちらの収益で生計を立てている猛者もいるって言う。
で、その電線が通っているメインストリートを外れるとモンスターがいっぱい出てくるので注意してくださいね、って話だったんだけどね。
全然モンスターがいないのだ。
「まあ別にステータスの確認にモンスターは必要なかったか……、っていた!」
ゴブリンだ!
独り言の最中に角から現れたので声を上げてしまった。
当然こちらに向かってくる。
モンスターっていうのはどうも人間を敵視しているようで、見つかったら問答無用で襲ってくる奴がほとんどなんだとか。
このゴブリンも例に漏れずに怖い顔をして向かってくる。
(大丈夫、落ち着け……)
ゴブリンの手には棍棒とも呼べないような長さの30センチ程の木の棒が握られているが、俺が持っているのは150センチはある槍、しかも新品だ。
リーチの差は十分、しっかり間合いを計って一撃で仕留めてやる。
(今っ!)
ここだ!っと、強く一歩を踏み込んで……。
(なっ、また罠?あっ……)
踏み込んだはずの足が、膝上まで地面にめり込む。
その拍子に突き出した槍が両手からすっぽ抜けて……。
踏み込んだ足が埋まったので、視線が下がってどうなったのかはわからない。
ただすさまじい轟音と揺れを感じる。
ゴブリンに殴られて世界が揺れているように感じているのだろうか?
1階に出てくるゴブリンの強さは人間の子供くらいらしい。
そんなゴブリンにやられる間抜けはいないから、初心者講習も割と緩めだったんだよね。
(まあ間抜けはいた訳だけど……)
もしかしたらゴブリンにやられた伝説の冒険者として歴史に名を刻んだのかもしれない……。
そんな事を考えている内に音も揺れも収まり静かになる。
ゴブリンは……いない?
間抜けもいなかったってことでいいですか?
疑問に思いつつも視線を上げると、正面の壁がとんでもないことになっているのに気付く。
さっきまでこの先は曲がり角、つまり壁だったはずだ。
だが今は道になっている。
何十メートルか先まで抉られたように削られているのだ。
「隠し通路?な訳ないよな……。これ……、俺がやったのか?」
当然思い当たることはある。
ステータスの暴力だ。
歴代最強と言われる冒険者、その一撃の破壊力は戦艦の主砲にも匹敵したんだとかなんとか。
戦艦の主砲って言うのは相手の戦艦を一撃で沈めるくらいの威力があるはず。
巨大な戦艦を一撃で沈められる攻撃の140倍の力……。
軽くすっぽ抜けたなのにこの威力……。
ゴブリンもこれに巻き込まれて消滅したのか?
疑っていたステータスの数値は間違いなく機能しているようだ……。
「これ、ヤバいんじゃないか?このままレベルが下がらなかったら……」
いや、逆に世界一の冒険者になれるんじゃないか?
冒険者のトップ層ってダンジョンでの収入だけでも年1億を超えるとか昨日ネットで見たぞ。
しかもそれだけじゃなくてスポンサーやらなんやらがついて、超大金持ちもいる。
テレビのCMにも出てるくらいだからな……。
「まあそううまくいく訳ないか……」
何せ俺は運がない男だ。
世界一は世界一でも、世界一ついていない冒険者が関の山だろう。
もうレベルも下がってる頃だろうしな。
上げたら下げる。
期待を持たせて裏切る。
寧ろ上げた以上に落とす。
いつものやり口だね。
じゃあ見てみようか。
名前:斎藤 春道
ジョブ:なし
Lv:9999
HP:13538/99990
MP:10/99990
腕力:9999
耐久:9999
敏捷:9999
魔力:9999
スキル:なし
お?まだ戻ってな……。
ん?
んん?
「上がっとる……」
いや、戻ってる、か?
レベル9999って……。
どうなっとる?
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