アマリアの手紙

第3話

アマリアがグレイスからの手紙を開くと感想が書いてあった。



『親愛なるアマリア・ドクトールへ

ウケる

グレイス・リラ・スラディアより』



「一行、三文字! 名前のほうが長いわ」


気がつけば二年の歳月が流れ、送った手紙は十九通になった。

十九人にフラれたことになる。

大体、一人につき一ヶ月と少しの恋だ。

アマリアはその度に大失敗をしでかしたり、妙な言い訳で断られたり、猛ダッシュで逃亡されたりする。

美貌の騎士に恋をした時は、真犯人が捕まるまでストーカーと間違えられて捕まりかけた事もあった。



そして二十通目の手紙。


『親愛なるグレイス・リラ・スラディア様へ

この度は家が決めた相手と婚約する運びになりました事をご報告させていただきます。

私ももう十九歳、父が恋愛結婚は無理だと悟ったようです。

相手の方の見目は個性的ですが、いい人です。安心してください。

次で最後の手紙になりそうです。

アマリア・ドクトールより』



グレイスは最後の一文にショックを受けた。心のどこかでアマリアは嫁に行けないと、たかをくくっていたのかもしれない。


「最後の手紙……」


グレイスはいつの間にかアマリアの人となりに触れて好意を持っているのだと気が付いた。



そして二十一通目の手紙。


「おい、グレイスに女から手紙が来ているらしいぞ」

「こそこそ何やり取りしているのだ?」

「やめてください」


グレイスの異母兄が手紙に気づいて取り上げる。

兄たちは勝手に封を開け、読み始める。



『親愛なるグレイス・リラ・スラディア様へ

これが最後の手紙になるはずでしたが、この度個性的な婚約者と婚約破棄することになりましたのでご報告申し上げます。

(中略)

こうして婚約者は男性が好きだったのです。私との結婚は隠れ蓑だったようですが、すべてを白日のもとにさらされる前に穏便に婚約破棄してくれるそうです。ああ、これは元婚約者の秘密なので誰にも言わないでくださいね。

私はいたって元気に過ごしておりますので安心してください。

むしろ、またイケメンを追いかけられると張り切っております。

アマリア・ドクトールより』



「なんだこれ」

「前の手紙も気になるな」


兄たちは顔を見合わせた。

そして東の離宮のグレイスの部屋へ走って行った。


「兄上様、お待ちください!」


兄たちは離宮の中を探し回り、アマリアから届いたすべての手紙を没収した。



「これは普通に面白いな」



グレイスからアマリアに手紙の返事が届く。

いつもより内容が長めだ。


『親愛なるアマリア・ドクトールへ

アマリアの手紙が不仲の異母兄たちに見つかり、読まれてしまった。

どうやら手紙の内容が兄たちのツボだったらしく、この度スラディア王国から手記になり出版されることになった。

私は止めることが出来なかった、すまない。

グレイス・リラ・スラディアより』



「ん? んんん? はあぁぁぁ?!」


アマリアは意味がわからなかった。


「なぜ? 出版?」


なぜか手紙が、アマリアの失恋話が隣国中にばらまかれることになっている。

アマリアは震えた。



「お父様! 大変だわー!」


アマリアは父の書斎に駆け込んだ。



「つまり、スラディア王国第三王子に送った手紙が勝手に本になると言うことだね?」

「そうなの! だから――」

「そりゃあ大変だ! アマリアに印税が入るように交渉しなくては! 父さん行ってくるからね!」


父は荷物をまとめて出ていってしまった。


「ちーがーうー!」


取り残されたアマリアは叫んだ。



どんどん話が進んでいく。

姉は補足資料としてアマリアの日記を提出した。


こうして『アリーの失恋記』が完成するのであった。

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