妖精の探索

第2話

待ちに待ったスラディア王国への訪問。隙を見て夜会を抜け出した。

王宮の庭で妖精探しをはじめたアマリア。


「確か、白いバラがたくさん咲いていたのよね」


しかし、白バラは見つからない。


「うーむ」


広くて同じところを回っている気がする。探索は難航していた。



誰かが来る。

アマリアは茂みに隠れた。

白と青の女官服を着た人が通り過ぎて行った。



こっそり覗くと、隠し扉に消えていく。


「あの奥が怪しいわ」


いかにも妖精の園を隠すのに良さそうな場所だ。

明かりが消えてからアマリアは忍び込んだ。


(あ、白いバラ?)


再び射し込んだ月明かりに見えるのはおそらく白いバラだ。

少し先にガゼボがあった。

懐かしさを感じる。


(ここは……)


誰かがいる。

アマリアはこそっと覗き見た。



「!!」


ガゼボにはランプの灯りに照らされた男性がいた。

その造形美にアマリアは息を飲んだ。

幼い頃にバラの妖精と出会った衝撃を軽く超えていった。


「妖精さん……?」


思わず声が出た。



男の人は驚いてこちらを見た。ランプの灯りをこちらに向ける。


「誰だ?」

「昔、会った者です。覚えていませんか?」

「いいや。わからない。何の用?」

「私にかけた呪いを解いてほしいのです」

「呪い?」



少しの沈黙が流れた。



「とぼけないで妖精さん。昔、私にかけたでしょう」

「最初に言っておくけれど、私は妖精ではないよ」

「え?」

「どんな呪いなの?」


アマリアは今までの十一年間の経緯を話した。



話を聞き終えた男性は額に手を置き震えている。笑いをこらえているようだ。


「もう! こっちは大真面目に話しているのに~」

「私が妖精ではないと言うことは、呪いなんかではなく君はただのイケメン好きの面食いだね」



アマリアの表情が無になった。


「そんなぁ」

「君の話はなかなか面白かった。もう夜も遅いから帰りなさい」

「ええっ」


気がつけば月が高く昇っていた。


「責任取ってください!」

「何の?」


思わず出た言葉なのでアマリアも何のだろうと内心で思う。


「面食いになったのは君の趣向の問題だよね」


(確かにこの人のせいじゃない……のか?)


「でも、要因と言いますか、原因と言うか……因果関係はありますから見届ける必要はあると思います」


アマリアは食い下がった。


「見届ける?」

「私がお嫁に行くまでです!」

「うーん、そうか。じゃあ手紙を書いて報告して」

「宛て先は?」

「スラディア王国の東の離宮、グレイス・リラ・スラディアだ」


名前を聞いてアマリアは首を傾げた。

グレイスは微笑んだ。





グレイスは結婚の報告の手紙を書けという意味で言ったのだが、アマリアは男にフラれる度に手紙を送ってきた。


『親愛なるグレイス・リラ・スラディア様へ

今回は見目麗しき男爵子息に恋をした私ですが、また玉砕しました事をご報告申し上げます。

(中略)

しかし、どうやら私がライバル意識を燃やしていた令嬢は男爵令息様の妹様だったのです。

こうしてこの度、綺麗なスライディング土下座をすることになりました。

でも不敬などの罪には問われず、いたって元気に過ごしております。

アマリア・ドクトールより』


読んでみると内容は思ったより面白い。


グレイスは時々、返事を書いた。

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