淡い失恋の思い出
第1話
アマリアは現在、十七歳。
ふと思い出す事。
芝生の広場に白いテーブルセット。淡い色調にそろえられたそれらは女の子のおままごとのために用意されたものだろう。
アマリアはその時、六歳。商家に生まれ、それなりに恵まれた環境で育った。
「手のシワでその人の性格や運命がわかるの?」
「面白そうね~」
双子の姉たちは他の国から伝わる手相占いで盛り上がっていた。
六歳になったばかりのアマリアは、そんな手のシワのことより王宮を探検したい。
はじめて来た隣国の王宮だ。
本を覗き込み、盛り上がっている姉たちの目を盗んで茂みを進んでいく。
途中で蝶々がいたので追いかける。
灰色の猫が壁の穴を通っていった。
アマリアもそこを通る。
壁の向こうには、立派な白いバラがたくさん咲いていた。
「わあ、ステキ」
白いバラの向こうには薄紫のバラ、ピンクのバラ。どれも淡くて可憐だ。
白い綺麗な造りのガゼボがある。
(誰かいる)
銀の髪に月の光のような瞳の色。
さっき見たバラを忘れるくらい美しい。
彼はこちらに気が付いて立ち上がる。
「どこからここへ?!」
「ラーステーゼから」
「そうか……異国の子か……」
「そうなの。あなたはバラの妖精さん?」
アマリアは思い込みが激しい。
少しの沈黙が流れた。
「……そうだよ。ここで会ったことは誰にも言わないでね」
彼は一輪のバラを手で折り、アマリアの髪飾りにした。
微笑んだ顔は言葉では言い表せないくらい魅力的だった。
この日、アマリアはバラの妖精に恋をした。
アマリアが妖精を見たのは最初で最後、この時だけだ。
当然その恋は叶うこともなく、今では夢だったのか現実だったのかわからない。
妖精との約束を守って誰にも言っていない。心の中だけの思い出だ。
淡い失恋の思い出から十一年が経ち、アマリアは十七歳になる。
お見合い相手の釣書をみて無表情になる。
「はああ、誰を見てもときめかないのよね」
「アマリアのくせに理想が高いわね」
「人は見た目じゃないわ。それにアマリアに選ぶ権利はないのよ」
「姉様ひどい。目が肥えているのがそんなにいけないの?」
「ただのイケメン好きなだけじゃない」
「面食いアマリア!」
アマリアはラーステーゼで一番の美男子だと言われる公爵子息にフラれたばかりだ。
話しかけてわかったが同じ学園にいたのに認知もされていなかった、しかも恋人がいて、とりつく島がないとはこのことだ。すごく派手に玉砕した。
パーティー後、友達全員腹を抱えて笑っていた。
これがアマリアの日常だ。肉食令嬢とまで言われた。
妖精と出会った弊害がこんな風に出るとは思わなんだ。
このままだと婚期はズルズルと遅れるだろう。
(これは妖精のイタズラ? それとも呪い? 何とかしなくては! もう一度バラの妖精に会わなくてはいけないわ)
アマリアは決心した。
アマリアは思い込みが激しい。
父は商人で昔スラディア王国に行ったのは行商の挨拶回りだった。
アマリアは父の書斎を訪ねた。
「スラディアに行く機会はないかしら?」
「おお、今度行くから一緒に来るかい? あの国は治安が良いからね」
父は娘に激甘だった。
「行きます! お父様!」
アマリアは心の中で拳を突き上げた。
「お父様、アマリアだけずるい!」
「私も行きたい」
書斎のドアから覗いていた姉たちが抗議する。
「セリーヌとリーゼルも来ればいい」
「やったー」
「ありがとう、お父様」
「王宮のパーティーに出席するから準備しておくよ」
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