第18話 覚醒
直感で理解した。ここは隔離反射。
思考が流れていく。景色が移ろい行く。
いいや、制御出来る。
実際にそう考えれば、そう考えた通りになる。
「流石ネイちゃんだね。こんなに早く隔離反射って気づいて制御するなんて。」
最終決戦だ。ここでエルトリアとの未来を決める。
「……もう誤魔化さなくて良いよ。全部、ネイちゃんの思い通りなんでしょ?」
「答え合わせをした方が良いかな?さっきまでの世界、全部ネイちゃんの隔離反射でしょ。『エルトリア』と結ばれたい。そんな思いで作った世界。」
「本当のエルトリアとは、もう出会えない。だからこんなところで自分を慰めてた。」
「…………なんで気づいたの?」
「気づくよ。好きな人のことだから。」
「…………」
「元の世界には戻らないの?本当の君は隔離反射を降りるなんて簡単でしょ?」
「……トリアの居ない世界なんて、帰りたくない。」
「なんで居ないって決め付けるの?」
「……トリアは事故に巻き込まれたの。私のせいで、彼女は隔離反射に入ってしまって……。トリアは、隔離反射から出られる程反射のことを知らなかった。だから……もう……。」
「……私は君の思っていた、隔離反射から抜け出せるエルトリアだから、本当のエルトリアとは違うのかもしれない。だけど……多分本当のエルトリアも、君に会うために何とかして抜け出そうとしてると思うよ。」
「だけど……無理なものは無理じゃない。」
「なんで信じてあげないの?」
「だって……だって……!」
「……ネイちゃん。私にも、私達にも心はあるの。君の脳内を移動することは出来ない。だけど、ちゃんと心はあって、君と一緒に居たって思うの。」
「私は君のことが好きなように作られた。だけど、私が君を説得しようとしたのは私の意思。だから、私は私の力で隔離反射まで君を誘導した。」
「……私が現実から逃げても、貴女のような犠牲者が増えるだけ……?」
「そう。もう、二人や三人ぐらい居るんじゃない?」
「貴女の前に……三人……。」
「……もう増やさないでね?」
「だけど……現実は……」
「駄目。ちゃんと帰って。あんまりここに長居したらおかしくなっちゃうよ?」
「……私は……本当はおかしくなりに来たの。」
「それをやめて。君は今すぐ戻るべきだよ。こんなのはもう終わりにしよう。」
「……お願い。エルトリアは、私が帰ったら、そこに居るのよね?」
「居る。絶対に居る。だって、私なら何がなんでも戻るもん。本当のエルトリアなら、絶対に戻ってるよ。」
「…………ありがとう。」
「向こうでも元気にやってね。」
「えぇ。約束するわ。」
「それじゃあ……また群反射で。」
「今度こそ……離さないわ。」
「ふふっ、じゃあね。」
「えぇ。さよなら。」
ネイはナイフで胸を突いて死んだ。
「……さて、どうしようかな、これから。」
「まぁ、選択肢は一つしかないんだけどさ……。」
「……エルトリア。ネイちゃんをよろしくね。」
エルトリアも、ナイフで胸を突いた。
死んだが、次の隔離反射に行くことはなかった。
ただ死体のみが残り、それは腐ることもなくそこに存在したままだった。
Dエルトリア 完
幾度となく、ネイは自殺を繰り返した。
隔離反射に飲まれない。そんなこと、ネイからすれば朝飯前だった。
数百〜数千回。隔離反射から出るために必要な自殺数。
三人目のエルトリアを思い出す。
とても優しかった。最後まで、私に寄り添ってくれた。
一緒に居たかった。でも、本当のエルトリアに会いたかった。
どっちを選べば良いのか分からなかった。
ただ、何故か、あの時私は自殺した。
もう答えはあのときに出ていたのか。
四人目に思いを馳せる。
私の背中を押してくれた。
私に、勇気の翼を授けてくれた。
もしかしたら、全部私がそうして欲しかったから、隔離反射が見せてくれたのだろうか。
思えば、辻褄が合わない様な気がする。
三回目。何故私は告白したのか。監禁されて、恐ろしかったはずなのに。
何故あんなにもすぐ反射について納得したのか。そしてあの速度で会得できたのか。
時間感覚も合わない気がする。要所要所の記憶しか残っていない。
四回目もだ。一回目、二回目から、おかしかった。
隔離反射の論理性というのも、結局自分だけならばこんなにも弱々しいのか。
どれがエルトリアの本心だったのか。いや、あれは全部私だったのだ。
私が私にしたかったことを、エルトリアという皮を使ってやっていたのだ。
本当は、エルトリアを失ったショックを、誰かに慰めて欲しかったのだ。
もう、大丈夫だ。私は立ち直った。
エルトリア。どうか、どうかあと少しだけ待ってくれ。
愚かな私が、それでも貴女に会いに行く。
もう千回は死んでいる。あと少し、あと少しだ。
私は、元の世界に——
「…………ここは?」
知らない天井。真っ白な天井。柔らかな陽の光がカーテン越しに伝わってくる。
手を持ち上げる。何か管がついている。ここは……病院?
「ネイさ〜ん、今カーテン開けますよ〜……って、ネイさん!?意識が戻ってますか!?」
知らない人が入ってくる。恐らく看護師だろうか。
「……よく分からないけれど、こうやって話せるぐらいには意識がありますよ。」
「ちょっ、あのっ、すぐ呼んできますね!!!」
……何も分からないまま、誰かを呼びに行くと言いどこかへ行ってしまった。
私は……ネイ・クローウェル。私は……学生。反射学について学んでいる。そして……
「ッ!?トリア!?!?」
動悸がする。意識が飛んでしまいそうだ。思い出すことを頭が拒否している。
ダメだ、思い出せ。逃げてはいけない。誰かにそう言われた。そんな気がするのだ。
「ネイさん!?意識が回復したんですね!?……ッ!いけない!すぐに鎮静剤を!」
何かを腕に打たれた。意識が微睡む。
トリア……トリア……この名前だけは忘れてはいけない。私の一番大切な人。他に何も替えようがない、唯一無二の存在。トリア……。
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