第12話 博物

……一日中、エルトリアを出し抜く方法を考えていた。


何故か、今の私には反射のことがよく分かる。


反射によって未来は確定している。その未来を変えようとしても、その行動を含めた未来を反射は確定させている。


未来を変えるのが不可能なら、未来を無くしてしまえば良い。


独反射は群反射によってその論理性を保っている。


ならば、その接続を外せば?独反射のみの世界とは?


完全に論理性が破綻し、自らの思考 経験 未来から成る世界が出来上がる。


その世界に、エルトリアを引きずり込む。


今はまだ反射を操り切れていない……一ヶ月以内に、必ず。



「……ふふっ、隔離反射に気づいちゃったか……。まぁ……暫くは放置で良いかな。」





「博物館に、着いたぞ〜〜!!!!」


「思ってたより遠かったわね……四十分ぐらいかかったかしら?」


「あんまり重たいお土産とか買うとしんどそうだね……ま、帰りのことは一旦忘れて楽しもう!!」


「ふふっ、そうね。しかし……かなり大きいわね。一日で回り切れるかしら……。」


「ま、時間はい〜っぱいあるんだし、回り切れなかったときはまた今度来れば良いよ!」


「それもそうね。じゃ、じっくり楽しみましょうか。」


「うん!そうしよう!!」



「これは……恒星系のモデルかしら?」


中央に大きな球体と、その周りに小さな球体が八個並んでいる。


「ほんとだ!私達が住んでるのが……内側から三つ目?」


「えぇ。この小さな球体の中に私達が居ると考えると……なんだか自分がちっぽけな存在に思えるわね。」


「……あれ?そういえば反射論って宇宙の存在を否定してなかったっけ?」


「いや、あれが否定してるのは独反射の宇宙の否定で、群反射においては否定していなかったわよ。」


「あ〜そういえばそっか!関係無しに普通に忘れちゃってた……えへへ。」


「あっちにあるのは……何かしら?これ。」


先程と同じく中央に大きな球体と、外には十数個の小さな球体が並んでいる。


「え〜っと、どれどれ?今の人類が作れる最大の恒星系だって。」


「へぇ……こんなに大きな物が作れるのね。そういえば科学のことは全然知らなかったわね。」


「私も科学は全然知らないや……反射は分かんなくても科学は分かるし、この機会に科学について勉強しようかな?」


「あら、良いじゃない。もしかしたら科学と反射で何かシナジーがあるかもしれないし。」


「確かに!またあの図書館行かないとね!」


「ふふっ、なんだか……未来の予定が埋まるって楽しいわね。」


「なんというか……心が満たされるって感じ!えへへ、未来が楽しみって嬉しいなぁ……。」



「すっご〜い!こんなのが昔に居たんだ!!」


大型の骨格標本の前でトリアがはしゃぐ。


「なんというか……壮観ね。全長十メートルはあるんじゃないかしら。」


「えっと……えっ!?最大二十〜三十メートルという説もある。だって!!」


「三十メートル……同じ生き物とは思えない程大きいわね。」


「へぇ……こんなに大きいのに主食は小魚やプランクトンだったんだって。争いとかはしなかったみたい。」


「こんなに大きいのに……温厚な性格だったのね。」


「すごいなぁ……あっ!あっちにも色々あるよ!」


「ほんとね。これは……鳥?」


「……翼なくない?」


「翼はないけれど……説明には鳥の仲間ってあるわよ。」


「う〜ん……あっ!あの手が翼なんじゃない?ちょっと大きいし!」


「確かに……でも、あれじゃあ飛べないんじゃない?」


「……飛ばない鳥とか?」


「そんなの居るのかしら……あっ、説明に飛ばない鳥って書いてあったわ。……へぇ。他にも飛ばない鳥が昔は居たらしいわね。」


「飛ばない鳥って……まぁ昔ならありえたのかな。」


「昔は今より自然環境が優しかったって言うものね。だからさっきみたいな大型の動物も居たんじゃない?」


「なるほど!流石ネイちゃんは賢い!!」


そう言いながらトリアはネイに抱きつく。


「もうっ……まぁ人が居ないから良いけれど……。」





「いや〜色々見たね!特に量子論周りはとっても面白かった!!」


「かなり難解な内容だったけれど……それでもかなり分かりやすく書いてくれてたわね。」


「うん!頑張ってここまで歩いて来た甲斐あったよ!!」


「さて……お土産の忘れ物とかもない?」


「うん!完璧おーけー!」


「じゃ、帰りましょうか。ここはまた来たいわね。」


「そうだね!!今度は科学の知識いっぱい身につけてネイちゃんに全部教えちゃうからね!!」


「ふふっ、楽しみにしてるわね。」





「……エルトリア。一つ聞かせてちょうだい。」


「ん?どうしたの?って、ま、まだ立ち上がらない方が良いよ!まだ傷も塞がってないし……」


「どうせ眼しか傷ついてないんだからそんなことは良いの。それより……貴女、反射の記憶を消すつもりよね?」


「……何で分かったの?」


「簡単な話よ。貴女が反射を操れなくなったら、私は二度とこの世界から出られなくなる。私から群反射に働きかけることは出来ないようになっているから。」


「思ったより賢いね〜ネイちゃんは。共有戻ってからやろうと思ってたけど……もうすぐにでもやった方が良いかな?」


「そう言うと思ったわ。だから……交渉しましょう。勿論、貴女にも利益があるようにしたわ。」


「へぇ……交渉。一応聞いてみようか。どういう内容?」


「一ヶ月。私の脳と思考を操作する以外の何をしても良い。私はそれに一切の文句を言わない。その代わり、一ヶ月経つまで貴女は反射の記憶を無くさないで。」


「何をしても良い……それは、本当に何しても良いんだね?例えば……内臓を引き抜いても。」


「えぇ。それを貴女がしたいと思ったならすれば良いわ。」


「……私がネイちゃんにあんまり酷いことが出来ないってのが分かった上での交渉だね。中々ずるいなぁ……。」


「それで、どう?私はその間一切の反抗をしないわよ。……貴女が反抗された方が嬉しいならそうするけれど。」


「…………乗った。その交渉を受けようか。……でも、良いの?私が約束を反故にする可能性もあるよ?」


「……貴方はしないでしょう。その点に関しては信頼しているわ。」


「おろ、どういう理屈で信頼してくれてるのか気になるところだけど……まぁ良いや。じゃあ、その契約は今からって事で良い?」


「えぇ。それで良いわよ。」


「分かった。それじゃあ早速ネイちゃんのこと好きにさせてもらうね。そうだなぁ……とりあえず……上と下、どっちも全部脱いでよ。」


「はぁ……早速なのね。」

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