第11話 眼球
「ネイちゃんとの共有が深まってきたし……そろそろかな。」
「そろそろって……その手に持ってる物は?」
「ん、ちょっと色々やる為にね〜そこでゆっくりしてて良いよ。」
エルトリアは長く先が尖った……千枚通しの様なものを手に持ちながら何かを物色している。
物騒な物を手に持ちながら「そろそろ」だなんてまたしても物騒な発言を聞いたものだから、ネイはやや身体を強ばらせる。
「あとは……まぁ魔法でなんとかなるか。」
目当ての物は見つかったらしい。エルトリアはネイに近づく。
「それじゃあ……これからネイちゃんの目玉潰しちゃうね。大丈夫。私の目玉も潰すから。」
エルトリアは拘束魔法を発動させながらそう言った。
「な、何を言って——むぐっ!?」
ネイの反抗を意に介さず口にガムテープを貼り付け、さらに魔法でそれが剥がれないよう固定する。
念入りに腕、脚、首を拘束し、身動きの取れないようにした。
「消毒は持った……ガーゼも持った……魔法にも問題はない……あぁ、あとあれと——」
ネイはエルトリアの独り言を聞いている余裕もなく、必死に手足を動かそうと抵抗する。
クローウェル家は代々魔法に秀でてきた家系だが、それは今役に立たないらしい。
「——さて、ネイちゃん。そんな怯えなくて大丈夫だよ。なんとか上手にやってみるからさ。それに……案外便利かもしれないよ?言ってたじゃん。物事はやってみなきゃ分からないって。」
「あんまり喋ってても怖いのが長くなっちゃうだけか。じゃ、早速始めちゃうね……。」
これは何かの悪夢なのだろうか。私が素っ気ない態度をしたばかりにこんな仕打ちを受けているのだろうか。
左眼に銀の鋭利な棒が映る。光を反射して先端は真っ白に輝いている。
「嫌だ。許してくれ。」エルトリアに向けたのか、あるいは神に向けたのか、そんなメッセージは声にもならず儚く脳裏に消え行く。
「——!!————!!!!」
一体何を伝えようとしているのか、こちらには一切伝わらない。
エルトリアは意に介さずその銀の鋭利な棒をネイに向ける。
ネイの抵抗の声はますます大きくなる。意に介されることはない。
拘束から抜け出そうと身体に力を込める。抜け出せることはない。
光を反射した真っ白なそれは私の左眼に近づいてきて——
「読み……切っ……た。」
「えっ!?反射論読み切った!?」
「えぇ……。本当に長かったわ……。」
「すごい!!すごいよ!!!お疲れ様〜!!!!」
膨大かつ難解な本を読み切り消耗したネイにエルトリアが抱きつく。
「ところで……反射を操れるようになった気はしないのだけれど?」
「うん。あくまで反射の基礎ってだけで実践とはまた別だからね……ネイちゃんあったかい……。」
「……ということは、あそこに積み上がってる本達も読まないといけないの?」
「まぁそうだね。あれ全部読んだあと、ひたすら反射を掴む感じを訓練するしかないかな……。」
「まだまだ先は長そうね……。」
「ま、のんびりやれば良いよ!」
「それもそうね。ちなみに……次に読む本のオススメはある?」
「次のオススメかぁ……う〜ん、『夢と現実の揺らぎ』とかどうかな?内容は覚えてないけど……なんか良かったはず!」
「あっ、でもその前に反射論の復習した方が良いかも!」
「反射論の復習をしつつ、次はその本に取り掛かるのが良さそうね。ありがとう、トリア。」
「なんでも頼っちゃってよ!」
——ネイは床に臥せていた。
左半分の視界を失った状態で、何かを思考することもなく、ただ意識を揺蕩わせていた。
「ネイちゃん。ご飯置いとくね。」
置かれた飯にも目を向けず、ネイはただ床に臥せていた。
ふと、手を伸ばしてその手を見つめる。
親指 人差し指 中指 薬指 小指
五本の指が生えている。
爪も伸びてきただろうか。そろそろ切らねば。そう思ったが、果たしてこの部屋に爪切りはあるのだろうか。
少しの思考をした後、再び何かを考えようとするのを辞め、また意識を揺蕩わせた。
やがて唯一見えていた右半分も閉じ、再び夢の世界へと戻った。
「ネ〜イちゃん!たまには息抜きに遊びに行かない??」
「……確かに、最近は少し根を詰めすぎていたわね。良いわ。どこへ行くの?」
「博物館なんてどう?確か歩いて二十分ぐらいの距離にあったはずだよ!」
「博物館……良いわね。確かにそこなら従業員が居なくても楽しめそう。行きましょうか。」
「ほんと!?じゃあ明日行こっか!!」
「それじゃあ……今日はキリの良いところまで進めましょうか。えっと……メテーと論理的反射はイコールじゃなくって……」
「……あれ?ということはもし反射が乱れたら……」
「……いや、そんなことが起きるはずはないわね。さて、次は……」
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