第9話 閑暇
「ネイちゃん、大丈夫?なんだかうなされてたみたいだけど……。」
「……なんだか悪い夢を見ていた様だわ。でも大丈夫。もう平気よ。」
「そっか……無理しないでね。」
「まだ外は暗いわね……もう少し寝ましょうか。起こしたみたいで悪かったわね。」
「ううん、大丈夫。そうだね……もう少し寝よっか。」
「……外に出て良いの?」
「うん。ネイちゃんも外に出れた方が良いでしょ?」
「それはそうだけど……いや、何も言うべきじゃないわね。良いわ。行きましょうか。」
「よし来た!デートだね、えへへ。」
「……はぁ。」
「……実際に見せられると驚くものね。」
「……それにしては反応薄くない?せっかく頑張って川の名前変えたり色変えたりしたのに……。」
「別に……元からこれぐらい出来ると察してただけよ。目の当たりにするとそれでも少しは驚いたけれど。」
「むぅ……反応薄くてつまらない……なんとかして驚かせたい……!」
「……私を驚かせて何か得するの?」
「私がちょっと嬉しい!」
「……そう。よく分からないわ。」
「そんな事言ってられるのも今のうちだよ!こうなったら……」
エルトリアが一歩近づいてくる。
一体何をする気なのだろうか……体を強ばらせていると、不意に唇に柔らかい感触が伝わる。
キスをされた。
「ど、どうだ!少しは驚いたでしょ!」
「……これで誰が驚くの?てっきり刺されでもするのかと思っていたのに……拍子抜けじゃない。」
「えっ……き、キスだよ?少しはびっくりしない?」
「別に口と口が触れ合っただけじゃない。」
「なっ、つ、強い……。」
「それで?他に何か私を驚かせる手段はあるの?」
「うぅ……まいりました……。」
「はぁ……少しは私に真新しいものを——」
「——ア」
「トリア」
「うみゅう……?」
「朝よ。起きないと……キスするわよ。」
「ん……トリアはまだ寝てます……。」
「はぁ……。」
柔らかな音が響く。
「ほら、起きなさい。もうご飯出来てるのよ。」
「んぅ……起こして……。」
「私はトリアのお母さんじゃないのよ……まったく……。」
やや愚痴りながら、ネイはトリアの伸ばされた手を引っ張る。
「ぎゅっ……えへへ、ネイちゃんあったかい……。」
引っ張られた勢いでネイに抱きつき、その身体の温かさを堪能する。
「もう……。」
やや呆れた顔を浮かべながら、ネイはトリアをそっと撫でる。
朝のこの流れはもう何度目かも数えられない程だ。
「……よし!ネイちゃん成分補給完了!」
「いつも言ってるそれなんなの?」
「ん〜?ネイちゃん成分はネイちゃん成分だよ!」
「……聞いた私が悪かったわ。」
「ふわぁ……それにしても……」
トリアは自分の今居る部屋を見回す。その視線はどこか懐かしんでいる様にも見えた。
「ん〜やっぱなんでもない!ご飯食べよ!!!」
「なにその気になる途切れ方……まぁいいわ。ご飯用意するわね。」
「ネイちゃんの朝ごはん!朝はこれがないとね!」
「ふふっ、今日も期待して良いわよ。」
「ふぅ……さて、今日は何しよっか!」
「そうね……そろそろ何か真新しいことがやってみたいわ。こういう平和な日々も良いのだけれど……何か変化が欲しくなってしまうのよね。」
「真新しいことかぁ……う〜ん……。」
今、この世界はトリアが群反射との繋がりをある程度絶ち、且つトリアは己の反射を操る力を封じている。
その為、遊ぶところはあってもそれを管理する人は居ない。遊ぶところまで行こうにも距離があり、交通機関は使えない。
言わば閉園後の遊園地といった様相だ。一ヶ月もあれば飽きてしまうのも無理は無いだろう。
「私が反射操れる状態だったら色々出来たんだけど……やっぱ早計だったかなぁあの判断。」
「まぁ、過ぎたことを悔やんでいてもしょうがないわ。何か考えてみましょうか。」
「なにか……なにかないのか〜!」
「……しりとりでもする?」
「……十分持てば良い方じゃない?それ」
「そうよね……。」
「でも、口だけで出来る遊びみたいなのは良いアイデアかもね!特別な物は要らないし……!」
「あとは……外で何か出来ないか試してみるとか?……あっ!本とかってあるのかしら?」
「本……どうだろ、何かそこら辺をいじった記憶はないけど……見てみないと分かんないね。」
「じゃあ今日は本屋に行ってみない?……というかすぐ近くに図書館あったわね。そこに行ってみましょうか。」
「図書館!良いね!!確かに本あったら年単位で暇しなさそうだね……行こう!!」
「すご〜い!!本がこんなに沢山!!!」
「流石に多いわね……。」
視界に入るだけでも数千冊はありそうな光景。さらに視界に入っていない本に、別の階層にある本。合計したら十万以上はありそうか。
「こんなにあったら……百年ぐらい暇しないんじゃない?……あっ!これ子どもの頃読んでた本だ!」
「……反射論?それは……独反射とかの反射?」
「そう!懐かしいなぁ……これ読んでから反射について色々調べるようになってこうなったんだよね。」
「へぇ……もう一回これ読んだらまた色々出来るようになるんじゃない?」
「いや……私はもう二度と反射についての知識は得られないようになったんだ。そこに関する脳をごっそり削ったからね……。あっ!ネイちゃんが習得したら?」
「……私が?そうね……アリかもしれないわね。」
「でしょ!じゃあこれ持ち帰ろっか!他にも色々探そう!」
「何か気になるジャンルとかは目星つけてるの?」
「ん〜完全ノープラン!色々見て気になったやつから見ていこう!」
「ふふっ、了解。これだけあったら面白そうな本もいっぱいありそうね。」
「うん!……あっ!これとかどう?戦前の頃の——」
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