第7話 交際

「着いた〜!名前の知らない川!」


「ウェニズ川よ……この辺に住んでるんじゃないの?」


「住んでたけど知らなかった……興味のないことは忘れるタイプでね!」


「はぁ……ところで、説明の続きをするんじゃなかったの?」


「ん〜そうだね。この辺なら分かりやすいかな……」


「……何をしているの?」


「ん〜?いま私の独反射を書き換えてるの。群反射と独反射についてもう少し分かりやすく説明出来そうだからさ。」


「……この場合、貴女の独反射が私にとっての群反射という認識で良いかしら?」


「おっ、凄いねぇネイちゃん。完全にその通りだよ。」


「よしっと……じゃ、ネイちゃん。そこにさっきまであった川のこと覚えてる?」


「……え?川?何を言っているの……?」


「ふふっ、じゃあこうしたら分かる?」


「……川、あるわね。」


「その川の名前なんだっけ?」


「キタミ川……?」


「……はい、その川の名前なんだっけ?」


「…………ウェニズ川。」


「ふふっ、これが群反射を変えるっていうこと。じゃあ次は……はい。この川は何色に見える?」


「……青。」


「そうだね。じゃあこの川は何色だと思う?」


「……赤。」


「この川の名前ってなんだっけ?」


「……ウェニズ川。」


「この川の名前なんだと思う?」


「……キタミ川。」


「……何が起きているの?」


「これが独反射を変えるっていうこと。分かりやすくする為に五感とか記憶とかは正常にしたけどね。」


「概ね分かったかな?群反射は世界そのものを変える。独反射は個人だけを変える。感覚的に分かったでしょ?」


「えぇ。嫌という程分かったわ。」


「ふふっ、実は私って凄いのも分かった?」


「薄々感じていたけれど、正直言って化け物よね貴女……。」


「なっ、化け物!?う、う〜ん……確かにそうかも……?」


「ところで……貴女はさっきの五感や記憶も変えられたのよね?それをしたら、群反射を変えられたときと同じように私は見えていたの?」


「うん。そうなるね。ネイちゃんの視点からは完全に川は赤いもので、名前はキタミ川になってたね。」


「……恐ろしいわね。」


「そう?嫌な物とか消せるから便利だよ!」


「便利って……その力があれば、犯罪とかし放題じゃないの?」


「ん〜やろうと思えばなんでも出来るね。それこそ王様を殺すのだって簡単だと思うよ?」


「……なんでそれを私を監禁する為に……。」


「だって〜ネイちゃんのこと大好きになっちゃったんだもん!一目見た瞬間にビビっと来たよね!」


「はぁ……ん?待ってちょうだい?貴女もしかしてずっと私の反射を操作してないかしら?」


「ん?なんで?」


「だって……貴女に好かれるのを悪くないと私は思っているのよ。そんなの有り得ないじゃない。貴女が何かしているんじゃないの?」


「えっ……いや……何の話?何もしてないんだけど……。」


「……えっ?」


「私はありのままのネイちゃんが好きだから何も操作してないよ。…………ほんとだ。今ネイちゃんの感情見たらこれ……私のこと好きじゃない?」


「なっ、好きだなんて……有り得るはずないじゃない!?だって私は貴女に監禁されてるのよ!?」


「えぇ……私も正直引いてるよ。ネイちゃんってもしかしてドMだったりするの?」


「そんな訳ないじゃない!!あ、あれじゃないの?貴女と共有してるせいで……みたいな!」


「あ〜どうだろう……その場合私が私のこと好きじゃないといけないんだけど、別に私ってそんなに自分のこと好きじゃないし……あと別にまだ共有は完全じゃないし……。」


「……共有は完全じゃないって?」


「あぁ。まだ私とネイちゃんはそんなに……というかほとんど共有出来てないの。」


「私が意識すればある程度感覚を共有出来たりするんだけど、逆に意識しないとお互いまだ別々の思考だね。」


「暫くしたらどんどん共有が深まると思うけどね。」


「つまり……共有云々も関係ない?」


「そうだね。……いや、私もネイちゃんが私に惚れてるとか信じられないし、ちょっと真面目に原因考えるべきだね……。」


「ちょっと色々考えてみるから、ネイちゃんも何か心当たりないか考えててくれない?」


「え、えぇ。分かったわ……。」


……いつ頃からこんな想いがあったのか考えましょう。まず初めて会ったとき……その辺の人と同じ程度としか考えてなかった。


監禁されたと気づいたとき……正直怖いと思っていた。これから何をされるんだってパニックになっていた。


次目が覚めてカップ麺を渡されたとき……思ったより怖くない。それどころか少し優しいとさえ思った。……雲行きが怪しくなってきた。


カップ麺を食べ終わって色々説明されたとき…………ここ?いや、そうだとして何故?


「あ〜ネイちゃん?少し思ったのがさ……訳の分からない状況で頼れる相手が私しか居なかったってのが原因なんじゃないかな……って思ってさ。」


「あぁ……大いに有り得るわね。」


なるほど。それなら好きになったタイミングにも頷ける。


「でも……どうしよう?私を好きになっちゃったのって何かの間違いじゃん?だけど好きにならなくなるって難しいし……。」


……私が彼女を好きになったのは私が原因。私が本当に彼女のことを好きになった……。


「……正直、私は貴女のことが好きなままでも良いと思っているわ。」


「……なんで?自分で言うのもなんだけど、ネイちゃんのこと監禁してるし……ネイちゃんの生殺与奪も握ってるし……。」


確かに。そう言われてみればなんて可笑しな感情を抱いているのだろうか。それでも……


「さぁ?好きになっちゃったんだもの。貴女がどんな人で、私に何をしようと、私は貴女のことが好きだわ。」


「……エルトリア。私と付き合ってくれない?」


「なっ!?そっ、そんなの……お、おかしいよ!ネイちゃん?冷静になって?君に酷いことしたんだよ私?ネイちゃんを騙して監禁して、そう!私ほんとはこれからいっぱいネイちゃんに酷いことする予定だったんだよ!?ネイちゃんを逃がさないように私の脳を潰して逃げ方を誰も知らなくして、その痛みは全部ネイちゃんに共有されるシステムだったの!ねぇ?私こんな酷いんだよ!?落ち着いて考えてよ!」


「ふふっ、どれだけ貴女が酷い人なのか聞かされても、貴女のことが好きな気持ちが一切揺らがないわ。」


「ねぇ……エルトリア。好き。私は貴女のことが好き。」


「なっ、ネイ……ちゃん?ちょっとおかしいよ?落ち着いた方が……」


「逃げないで。私の目を見て。私の想いを聞いて。」


「うぅ……いや、だって、私は……」


「良いの。貴女が私に何をしようとしていても良い。どんな酷いことをしようとしていても良い。」


「ねぇ、エルトリア。これから共有が深まっていくのよね?貴女とこれから酸いも甘いも共有出来るのよね?」


「あぅ……そ、そうだよ。でもっ……!」


「貴女が私に痛いことをしても、それは貴女も痛むのよね?」


「そうだよ!そうだけど!」


「なら良いわ。貴女と一緒に感じられるなら、痛みも悲しみも良い。貴女と共に在れるなら、なんでも。」


「……」


「ねぇ、エルトリア。私の手を取って。私の隣に居て。貴女の世界の住人じゃなくて、同じ世界の住人になりたいの。」


「……ほんとに、良いの?もう、戻れないよ……?」


「ふふっ、もうとっくのとうに戻れないわよ。だから、貴女と一緒に進むしかないの。」


「……私のこと、ずっと好きで居てくれる?」


「勿論よ。私から告白しておいて、振るだなんて有り得ないわ。」


「……ネイ……ちゃん。私、許されても良いの?」


「えぇ。他でもない私がそう言ってるの。他に誰の許しが要るの?」


「……冷静さを失ってるとかじゃないの?私から見ても、ちょっとおかしいよ?」


「そうね。自分でも冷静じゃないと思うわ。おかしいとも思うわ。だけれど、それだけ貴女のことが好きなの。貴女への想いがもう止められないの。」


「エルトリア。私の目を見て。私の手を取って。一緒に……このよく分からない変な世界を、共に歩みましょう?」


「……本当の本当に良いんだね?」


「嘘じゃ、ないんだよね?」


「えぇ。クローウェル家の名に誓っても良いわ。」





「……後悔させないでね?」

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