第4話 食事

「うぅ……ここは……あぁ。」


「あっ、目が覚めた?おはよう。ネイちゃん。」


「はぁ……悪い夢じゃなかったのね。」


「おろ?もしかして記憶ある感じ?」


「えぇ。残念ながら。」


「ほんと!?えぇっと……ご飯とか食べられそうかな?」


「ご飯ってのは……その手に持ってるカップ麺のこと?」


「そう!ほんとは手料理にしたかったんだけど、私って料理下手でね……ネイちゃんに美味しくない料理食べさせる訳には行かなかったからさ。」


「……はぁ。まぁいいわ。せっかくなら頂こうかしら。」


「あらら、だいぶ落ち着いてる感じだね?……やっぱ大事なところは覚えてなかったりする?」


「自分に足枷が付いててパニックになって気を失ったところまで全部覚えてるわよ。なんだか気を失ってる間にどうでも良くなったみたい。それなりに落ち着いていると自負しているわ。……まぁ、単に諦めただけかもしれないけれど。」


「う〜ん……ほんとに大丈夫かなぁ……。」


実際、気を失っている間に何か心変わりでもしたのか、精神はかなり安定している。


というより、気を失う直前が冷静ではなさすぎた。まぁ無理もないだろう。突然知らない場所に居て、訳の分からないことを言われて、その上足枷までつけられていた。平静を保っていられなかった。


……少し落ち着いてまた部屋を見渡す。


脱出出来そうなところは……あのドアしかなさそうか。この部屋には窓がない。地下にでもあるのか、あるいはそもそも窓がない部屋なのか……。


「あぁ、あのドアは内側から鍵なしで開けられないから脱出出来ないよ。」


「……そういえば私の考えていることは分かるのだったわね。」


「そう。君が何か画期的な脱出方法を思いついても、それは私にも共有されてるから実行は不可能だよ。」


厄介極まりない……しかし、このまま大人しく監禁されている訳には行かないだろう。……まずはその共有とやらを無くす方法を見つけるのが先か。


「あぁ、それに関しても対策はする予定だよ。今はまだしないけどね。それと……どうせここから脱出しても君は何も出来ないよ?」


「……何も出来ない?」


「そう。今ネイちゃんはこの世界に存在していなかったことになってるからね。そういう風に私がしたんだ。」


「……どういうこと?」


「わかんなくても良いよ。というか、説明しても多分わかんないし。」


「さて、そろそろお湯沸いたかな?カップ麺作ってくるから待っててね〜。」


……情報を整理しよう。


まず、私は今エルトリアと名乗る存在から監禁されている。


その理由は私のことが好きだから。


彼女には今私の五感 感情 思考が全て伝わっている。……それは今考えていることも。


そして、恐らく彼女の五感 感情 思考も将来的に私に伝わるようになる。これは気を失う前に、彼女が自分の手をカッターで切ったのでわかった。


これらは何故か?どうやら私と彼女の脳は結合されているかららしい。


……しかし、私の頭は昔と変わらず重たいまま。頭を少し叩いても中が空洞である気がしない。


それは彼女も変わらないだろう。脳のない身体がどうやって動くのか。


彼女は『群反射』と『独反射』という言葉を使っており、前者をみんなの世界、後者を自分の世界と言っていた。


そして私達はこの後者を共有したらしい。


独反射の共有と脳の結合。これは同じことを指していると考えて良さそうか。


『反射』とはなんだろうか。少なくとも、今まで生きてきて見聞きしたことはないはずだ。


……妙な既視感を覚えなくもないが、恐らくは気の所為だろう。


そういえば、告白されたとき、『脳の反射を共有してください』と言われたはずだ。


独反射とはつまり脳の反射ということだろうか?


そうであるなら群反射とは……群れた脳、つまりは複数の脳の反射?


分からない。そもそも反射が何であるのか分からない以上、考えていても不毛だろう。


……まずは反射が何か探るべきか……。


「カップ麺出来たよ〜。食べたら少しは反射の正体について掴めるんじゃない?」


……彼女と対話するだけ無駄な気もしてきた。どうせ考えていることは伝わっているのだ。一々口に出す必要もないだろう。


「え〜!私はネイちゃんのかわいい声が聞きたいのに……。まぁいいや、ささっ、食べちゃって。毒とか入れてないから安心して食べて良いよ。」


……そういえば毒が入ってる可能性を考えていなかった。平和ボケというやつだろうか。


「ふふっ、油断してるネイちゃんもかわいいね……あっそうだ!あ〜んしてあげよっか?」


「……必要ないわ。」


「あっ!喋ってくれた!えへへ、嬉しいな……口の中火傷しないようにね?」


……一応忠告通り麺を冷ましてから食べる。


……美味い。カップ麺とはこんなにも美味しいものだっただろうか。


「ね、これ美味しいよね〜。私もお気に入りなんだ!私の好きなものをネイちゃんも好きになってくれそうで嬉しいよ……!」


……やかましい声は無視で良いだろう。


「ご飯食べてるネイちゃんもかわいいね……ネイちゃんはお上品な育ちだから麺を啜るんじゃなくてお箸で掴んで口まで運ぶんだね……細かい所作が素敵だね……それに汁が跳ねないようにゆっくり食べてる……一度に口に入れる量も少ないんだね。カップ麺もこんなにお上品に食べられると思ってなくてびっくりしてるよ!おっ、ネイちゃんは食べながらスープも飲むタイプなんだね……ネイちゃんはスープ飲み干す派かな?それとも残す派かな?ネイちゃんみたいなスタイリッシュな子はやっぱり体型に気を使ってスープは飲まないのかなぁ……でもでもネイちゃんはスープも飲み干さないと失礼みたいな教育を受けてるかもしれない!これは中々分からないなぁ……。というか、今後のネイちゃんの健康の為に料理出来るようにならないとね!それか、私がご飯を買ってきてネイちゃんに料理をしてもらう……えへへ、とっても素敵だなぁ。うん!これが良いや。ネイちゃんのご飯を毎日食べられるなんて素敵だね……はっ!そういえばネイちゃんって苦手な食べ物とかある?どうやってネイちゃんと共有反射するかってことだけ考えててその辺のこと調べるの忘れてたよ……私としたことがうっかりしちゃった!でもでも今まで見てきた感じだと何でもよく食べるよね。お肉も野菜も魚も食べてたし……実はなんでも食べれたりする?あっでも辛いもの食べてるところは見たことないな……カレーとかは甘口の方が良いのかな?……ふふっ、辛いものが苦手なネイちゃんもかわいいねぇ……あっ!ところでネイちゃんは——」


「あの、いい加減うるさいのだけれど……私が食べ終わるまで黙っててくれる?」


「あぅ……ごめんなさい……。」

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