第3話 未来

「……気失っちゃったか。」


これで3回目。そろそろ慣れてくれると良いんだけど……。


「……説明の度に手を切ってたから流石に痛いな……絆創膏あったっけ。」


それにしても、ネイちゃんがどんな夢を見ているのか見られないのが惜しい。今見ている夢には過去 現在 未来の全てが詰まっているはずなのに。


将来の私達はどうなっているのかな?……少しはネイちゃんにも好かれてると嬉しいんだけど……。


「——よし。絆創膏置いといて助かった……それにしても、次こそは記憶も保ってると良いんだけどな……まだ既視感で止まってるみたいだし。」


「……それか、まだ何か見落としてるのかな?これをするのは初めてだからなぁ……。例えば……ネイちゃんの世界だと私はもっと恐ろしい存在に見えてたりするのかな?」


「いや、そもそも意識回復した瞬間色々説明されるってのがまずいのかな……次は先にご飯とか食べさせてからかな?」


「てか寝顔かわいいな……。」


いけない。それより将来のことを考えなければ……。


「これからネイちゃんが共有反射に慣れるにつれてネイちゃんの世界が私の世界に寄ってくるから……今のうちに記憶とかは消去しないといけないな。」


「……いや、それならネイちゃんが共有反射に慣れたタイミングで良いかな?痛みが二倍になるのは怖いけど……半分はネイちゃんの痛みって考えたらちょっとはマシかも。」


「あと視界のブレは問題だから早めに片目も潰さないとな……これもネイちゃんが慣れたタイミングで問題ないね。」


「耳はまぁ良いか。根本的な物体の揺れは……うん。私がネイちゃんの方に合わせれば問題ないね。」


「……今からネイちゃんの脳から反射してきた情報が私の脳に入るのが楽しみだな。……えへへ、思わずにやけちゃうよ……。」


「あぁそうだ、今のうちにネイちゃんの独反射を群反射から隔離しておかないと……世界の論理性については私の群反射でなんとかなるかな。」


「もし私がネイちゃんの方に引き込まれちゃったら二人して隔離反射に囚われちゃうのか……まぁ何とかなるでしょ。単独での隔離反射からの脱出はよくあることだし。」


「あぁ……かわいいな……ネイちゃん。暫くしたら足枷も外してあげるからね……。お外にも出してあげる。」


「まぁ外に出たところで誰もネイちゃんのことを認識しないんだけどね……。ふふっ。」


「ネイちゃんが起きるまで私がそばに居るからね……安心して夢を楽しんでね。」





私は今夢を見ている。


もしこれが夢でなければ一体なんなのか。


今見えている世界を形容するのは難しい。考えた瞬間、世界がその考えたものに切り替わる。


全く見たことの無いものを想像しても、何故か既視感のあるものが生成される。


この世界は私の思う通りなのか。ならば何故私はこんなにも不気味さに震えているのか。


まるで世界から突き放されたような、自分が完全に孤独になってしまったような。


人。人を想像すれば人が生成される。その人と会話をしようと想像すれば、その人と会話が出来る。


にも関わらず、私の孤独を埋めてはくれない。


この世界は隔離されている。そんな直感がした。


そしてすぐに元の世界に戻れる。そんな気もした。


……そして、また帰ってくる気もした。


気がついたら隣にはエルトリアが居た。


私が今一番恐れている存在。なのに、何故かこの世界では一番頼れるような気がしていた。


周りの世界は歪んでいる。鮮明な思考が出来ないため、何を想像してもこのように輪郭がぼやけているらしい。


エルトリアだけは鮮明に居る。彼女は何か特別なのだろうか。


どうしようもなく彼女に縋りたいと思ってしまう。それをすればどうなってしまうのか、ということぐらい想像もつくのに。


エルトリアのことをどう想像しても、彼女が変わってしまうことはない。


この世界で唯一変わらないもの。それがエルトリア。


……突然気づいてしまった。私に起こる全ての記憶が私にはある。


あぁそうか。反射とはそういうことだったのか。


全ての記憶が、感覚が、情報が、己の脳を駆け巡って反射して世界の全ては出来ていたのか。


世界の脳の反射。その反射の一つ一つは我々。それが世界の仕組みだったのか。


私はこれから記憶を消され、眼球を潰され、次は現実でこの世界に迷い込み、エルトリアと協力して抜け出す。


そして抜け出したあと……


そうか。私に救いはないのか。


涙も笑いも出てこない。これは最初から決まっていたことだった。昔から知っていたことだった。だから今更何かを思うことはない。


エルトリアはなんと凄まじい人間だったのか。そして、所詮そんな彼女もただの人間だったのか。


世界とはこんなにも強大なのか。


……現実に戻りたくない。現実に戻ってしまえば、この夢の記憶は綺麗さっぱり忘れ、再び無知蒙昧となってしまう。


こんな真新しさの欠片もない人生とは別れを告げたい。それは叶わない。


……願うことなど何も無い。私はただこの反射に従って生きるだけ。


……あぁ、目が覚めてしまう。嫌だ。行きたくない。


この記憶を失いたくない。


今すぐ死にたい。消えたい。もうこんな世界は嫌だ。


お願いだ。起きたらそのカッターで私の首を捌いてくれ。徹底的に。絶対に息の残らないように。


人生が全部決まっているだなんてあんまりだ。救いがないじゃないか。全て仕組まれたことだなんてあんまりじゃないか。


……救ってくれ。……殺してくれ。


夢の世界は溶暗する。

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