第2話 共有

「うぅ……ここは……」


「あっ、目が覚めた?おはよう。ネイちゃん。」


「貴女は……エルトリア……さん?」


「呼び捨てで良いよ。疑問形なのは……口調のことかな?こっちが素だよ。ネイちゃんを騙すには気弱そうな喋り方の方が良いかなぁ〜って思ってね。」


騙す……何やら気になる発言が聞こえてきたけれど、とりあえず辺りを二三度見回す。どことなく見覚えのある景色。それと……さっきの事のように思い起こされるあれはなんだったのだろうか。


まるで脳がグチャグチャに溶けてしまうような……思い出しただけで身震いする。


「……ここはどこなの?貴女は私に何をしたの?」


「う〜ん……そうだね、答えてあげよっか。まず、ここは私の家。」


ここは彼女の家らしい。何故妙な既視感を感じるのだろうか。……綺麗な部屋だとか考えている場合じゃないだろう。


「あはは、綺麗な部屋だなんて……まぁ、気に入って貰えたなら幸いかな。ここが暫くネイちゃんの過ごす部屋だしね。」


「……待って、何故考えていることが分かったの?口に出ていたかしら?」


「あぁ、それはネイちゃんに何をしたのかってのと共通する話だね。安心して、ちゃんと説明するよ。でもその前に……」


突然エルトリアに抱擁される。彼女の長い髪から漂う香りがどういう訳かやたらと脳を刺激する。


「なっ、いきなりなにを……!」


「えへへ、ずっとネイちゃんとこうして触れ合いたかったんだ……どう?私の身体あったかいでしょ……だって、ネイちゃんの温もりも一緒にネイちゃんは感じてる訳だからね……。」


「……どういうことなの?」


「えっとね〜どこから説明すれば良いのかな……まず、私とネイちゃんの脳は結合されました。だから、お互いの五感も思考も感情も筒抜けです。……といっても、ネイちゃんはまだ慣れてないから私のことは何も分かんないだろうけどね。」


……何を言っているのか分からず脳がフリーズする。五感も思考も感情も筒抜け……一体何を言っているの?


呆然としている私を置いて、エルトリアは話を進める。


「私達の世界は群反射ってのと独反射ってやつから出来ててね……まぁ、みんなの世界と自分の世界って認識で良いよ。私達はこの自分の世界を共有したんだ。」


「だから、私達が見ているもの、感じたもの、考えたもの、全部私達が共有してるの。例えば——」


「痛っ!?」


「——今私は自分の手をカッターで切りました。どう?ネイちゃんも痛んだでしょ?こんな感じで、私達の感覚は共有されてるの。」


「今ネイちゃんはこの共有されてる感覚に慣れてないから分かんないと思うけど……私にはネイちゃんの視界も思考も全部分かるよ。今訳が分かんなくなって何も考えられてないこともね……ふふっ。」


微笑を浮かべながらエルトリアは抱きしめていた手を離した。


全く思考がまとまらない。一体彼女は何を言っているの?そんなこと現実に起こりうるはずが……いや、じゃあさっきの痛みはなんなの?……何か仕組まれた可能性も?


「ふふっ、すぐには受け入れられないよね……まぁ良いや、どうせすぐ受け入れざるを得られなくなるよ。」


「……な、何故私を狙ったの?」


「何故?決まってるじゃんか!ネイちゃん、君が好きだからだよ……。ずっと君と一つになりたかったんだ……!君は気弱な子に弱くて、真新しいことが好き。自分に理解の出来ないものが好き。押しに弱くて無理矢理グイグイ来られると受け入れちゃう。多少のデメリットなら無視して突撃しちゃう。……ふふっ、一年以上ネイちゃんのことを見ていたんだ。これぐらいは何もしなくても分かるよ。初めて君を見たときから私の心はずっっっと君に囚われていたよ。絶対に君を私のモノにしたい。絶対に君を離したくない。でも君は勉強に忙しいみたいだったから大変だったなぁ……。別に無理矢理共有しても良かったんだけど、合意を得られた方が簡単だったからね。最後脳の結合って言っちゃったときはどうしよう……って思ったけどネイちゃんがチョロいかわいい子で良かったよ!あぁ、それにしてもネイちゃん君は本当にかわいいなぁその瞳も唇も——」


「も、もう分かったから!とりあえず……私はこれからどうなるの?」


「——あぁ……まだ語り尽くせてないのに……。ネイちゃんがこれからどうなるかって?どうにもならないよ。ずっとここで私と一緒に暮らすだけ。」


「……ずっと?」


「そう。ずっと。……あれ、もしかしてまだ足枷に気づいてない?」


「足……枷?」


自分の足を動かそうとしてみる。……動かない。鎖で繋がれている。


……まさか。悪い考えが頭の中に湧いて出てくる。監禁された?ここから出られない?学校は?いやそもそも命は?


「ふふっ、気づかないことあるんだ……おかしいな、ネイちゃんとは反射を共有しているはずなのに分からなかったよ……。ネイちゃんは本当にかわいい子だねぇ……。」


「なっ、これは何よ!?外してっ!!!」


「やっと状況が把握出来たみたいだね。ご明察の通り、私はネイちゃんを監禁したよ。そして、その足枷が外されることもないよ。本当は手錠もしたかったんだけどね……ちょっと可哀想だったからさ。」


「わ、私をどうする気なの!?お願いっ!まだ死にたくな——」


「ほらほら落ち着いて、大丈夫ですよ……私が着いてますからね……ほら……また私が抱きしめてあげますから……。」


何故か彼女に抱きしめられたことで言い様のない安心感に包まれる。なんだかふわふわしていて……暖かくて……包まれるようで……


「ふわふわ……ふふっ、ネイちゃんは語彙もかわいいね……大丈夫ですよ……おやすみして良いからね……。」


駄目……また意識が飛ぶ……私は……私は……


「おやすみなさい、ネイちゃん。」

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