変わってしまった日常

第17話

ある日を境にイェルガーが変わってしまった。

隙あるごとに可愛い、キレイ、好きだ、愛しているとか言ってくる。本当に心臓に悪い。

セイラは落ちてなるものかと踏ん張っていた。


「はぁ、しんどい……」


昼間にはイェルガーは仕事でいないので楽だ。

家に帰ってくるとセイラを口説くような行動をとる。頭でも打ったのか。勘違いしそうになる。


「本当の夫婦になる発言あたりからかなぁ、様子がおかしい」

自分から言ったが、軽々しく言うものじゃないなと思った。

相変わらず、表情はないけど言葉攻めがすごい。距離も近い。自分の顔面の威力わかっていない、タチが悪い。


ウソはつくけど、真面目なイェルガーは人前以外でも愛妻家を演じるようになった。寝室でもセイラにベタベタするようになった。


「落ちそうだわ……」


自分だけが好きになるのは嫌だった。先に落ちてなるものかと堪えているのだった。



そろそろ部屋に帰ってくる時間になる。

セイラはそわそわした。

深呼吸して心の中でカウントダウンもする。


(3・2・1)


「セイラ! 今帰ってきたぞ」

イェルガーはセイラの側まで行き、後ろから抱き締めた。

「おかえりなさいませ」

イェルガーが耳元で囁きはじめた。

「セイラ、今日も可愛いな……」


(ひょぇぇぇー!)

耳を甘噛みしだした。

「はうぁ……」

(いやぁぁ! 変な声出た!)

「可愛い」

明日まで心臓がもたないかもしれない。

なんかお腹の辺りが痛い。

羞恥でいたたまれなくなり顔を両手で隠す。


それから肩を手で押して向かい合うようにされた。


「どうした?」

「……恥ずかしさで、死にそう」

「そうかっ」

なぜか楽しそうな「そうか」が返ってきた。


イェルガーがセイラを再び抱き締める。

そのあと、手やら首やら顔に軽いキスされる。

これが数日続いて慣れそうで慣れない。


(「どうした?」は、こっちのセリフだよ!)


十六日目、セイラは羞恥心からイェルガーを目一杯殴ってしまった。

イェルガーがセイラの服のボタンを外しはじめた時、右の拳が顔にクリティカルヒットした。


夫から貞操を守るという訳のわからない状態になった。誰に操をたてているのかさっぱりわからないが、セイラは守り抜いた。


イェルガーの左頬はしばらく腫れていた。

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