イェルガー視点2

第16話

「はあ……。奥方に好かれたい?」


アレストが呆れたように言った。


「君達は上手くいっていると思っていたけど?」

アレストは五歳下の友人だ。だけど、貴族で珍しく恋愛結婚して今でも仲睦まじい。


イェルガーは表面上のことをあらかた話していた。



「うーん……奥方が君に情があるだけ奇跡だと思うけどね。君、本人の意思を無視して無理矢理結婚したし。それで充分じゃないか」

温和で情に厚い彼が突き放しにかかってきた。


「……そこをなんとかできないものか」

「それ以上が欲しくなったんだ。女嫌いだった君にしてはますます良い傾向だ」

うーむ、と考えている。


「頼む」


「そうだなぁ。謝罪を求めてくるなら謝れば良いし、好意を言葉で伝えたことはあるかい?好きとか、愛しているとか」


そこでイェルガーはハッとした、セイラは実際に土下座しろなんて言ったことがない。そして芝居の中でしか好意を示していなかった。


「今まで謝罪を求められた事が無いし……そういう言葉を言っても真に受けてくれない……」

「謝ったこともないの、ひどくない? というか、イェルガーみたいなのに口説かれて落ちない女性がいたんだね、驚いた」

「確かにひどいな」

「まぁ、いろいろやってみなよ」

「ああ、恩にきる」


思い返せば思い返すほど過去の自分は確かにひどかった。

セイラは金で動かされる女じゃないことは、わかっている。

しかも、今までの事でだいぶ拗れている。


最後まで落ちないのはセイラの小さな抵抗で仕返しなのかもしれない。


(覚悟しておけよ、絶対に落としてやる)


イェルガーは心の中だけで闘志を燃やした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る