イェルガー視点(回想)

第15話

セイラを知ったのは第五王女の婚約者をお披露目するパーティーだった。第五王女は一時期、俺にご執心のようだったが諦めて違う男に乗りかえた。

実に賢明な判断だ。勝手に好かれて勝手に嫌われるのはいつもの事だから気にしないのだが、王女に挨拶すると明らかに邪険にしてきた。このパーティーに呼んだのも当てつけのようだった。

とりあえず最低限の事だけ済ませて、人目につかないところでぼーっとしていた。



偶然、セイドリックとその他の話が耳に入った。

『もう目覚めない可能性が高いらしい。背中の傷も酷いらしくて、僕は嫌だったが婚約は破棄するしかないと言われた……』

『あのセイラが? 想像もできないな』

『でもセイドリックお前、事故より前にジュリエンナに会ってなかったか?』

『会うくらい浮気じゃないだろう?』

『出た! 優柔不断。どうせ新しい婚約者候補だろ?』

談笑する声が遠のいて行った。


それからセイラの事を調べ、女避けにするために動いた。

眠っている間のセイラは消え去りそうなくらいの儚さがある少女だった。


見舞いの時は、まぁ目覚めてほしくはなかったが、一方で、どんな瞳の色をしているのか、どんな風に笑うのか少し興味はあった。


目覚めたセイラは俺を殴るとか土下座させたいとか、それで済むならそうしてやっても良いが、どこか少年のような子供っぽさがあった。



宝石やドレスなど物を求める事もなく、バカなのか素直なのか俺の言うことをよく聞き、非常にコントロールしやすかった。

俺に関わる女は二種類、執着してくる女、鑑賞用にしている女。


『誰かしら? この顔の良いお兄さん』


セイラはどちらかと言うと後者だった。


『煩悩を追い出しているのです』


どこか俺に落ちないように一線引いているようだった。


誰かを酷く恨むこともなく、無理矢理結婚したこともあまり気にせずケロッとしていた。

それどころか嘘に付き合って、ほいほい言うことを聞いた。

追い出されたくないだけだろうが、こちらとしては都合が良かった。こんなにうまく行くものかと拍子抜けした。



でもセイラは俺に怯えているわけでも惚れているわけでもない。


『本当の夫婦になれば嘘つかなくて済みますよ?』


そう言い出した時は驚いた。最初に嫌われるように突き放したはずなのに、全然効いてないようだった。

都合の良い幻聴かと思ったくらいだ。


よくよく聞けば夫婦について自分で意味を理解していない感じだったが……。


いつの間にかセイラを好ましく思うようになっていた。殴るだの土下座だの、名前を呼べば喜ぶ所とか、お金では買えないモノを求めてくるのが、財と顔しか取り柄がない俺には、特に良く見えた。


今日もセイラを見つめても、にらめっこだと思い変顔で返してくる。


一線は引かれたままだ。

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