役作りは大変

第9話

本物の夫婦になると思ったのだけどもう籍は入れているし、「本物って何?」と考える。


九時五分イェルガーが来た。


「さあ、おいで」


セイラは両手を広げそう言った。


「なんだ? 遊んでほしいのか?」

「まぁ、そんなところです」


「夫婦?」

壁の「さとり」のと書かれた紙の下に「夫婦」という紙が貼ってあった。


「本当の夫婦になればウソつかなくて済みますよ?」

「却下、余計な気は回さなくていい」

「そうですか、名案だと思ったんですがね……」


セイラは「夫婦」の紙を剥がして、ぐしゃぐしゃにした。

セイラは目標を立てても光速で諦めが早い。夫婦という目標は一瞬で消えた。


「ふーむ」


さらっと流したが元婚約者の事もあるし、もしかしたら彼女を偲びながら一生過ごすという事なのかもしれない。


(アレでも真面目だし、あり得る)


セイラの中でイェルガーの設定を増やしてみた。

元婚約者を救えなかった彼は、ずっと自分を責め続けているとか、盛り込んでみる。


(うん、それなら仕方ないなぁと思えてきた)


ぼやっと考えていたらイェルガーがすぐ近くにいた、本当に近い。


「ウソが辛いのか」

「まぁ……すすんでつきにいくのは変かと、バレたら面倒ですし」

「そうか」


(相変わらず興味が無さそうだな。自分のことだぞ)


「ならば……本当の夫婦ってなんだ? 山猿の姫はそんなに俺のこと好いてはいないだろう?」

「うっ! そうかもしれない」

ウソに付き合うくらいの情はある。けっこうイェルガーの事考える日もあるけど、共犯者的な何かだ。


「だったら、このまま続けるしかない」

「ですね」


簡単に論破された。

秒速で諦めてセイラはイェルガーから離れ、ぼすっとベッドに勢いよく座った。


部屋にノックの音が響く。返事をすると執事がやって来たようだ。


「旦那様、申し訳ありません」

「いや、今行く。ではセイラ、おやすみ」


セイラはにこやかに手を振った。

九時三十八分、役作りは大変だなと思ってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る