目覚めて数ヶ月

第8話

目覚めて早数ヶ月。

セイラは目覚めなければ良かったのかもしれないけど、もう遅い。


庭に準備されたお茶会の席に座っていたセイラ。

イェルガーの母、カトリーナが来るのだ。


「本日は来てくださりありがとうございます。初にお目にかかります。セイラです」

合っているかわからない挨拶とお辞儀をした。


(ああ、もっと真面目に勉強すれば良かったわ、婆や)


「まあ、そんなに改まらなくて良いのよ。私はカトリーナよ。息子共々よろしくね、セイラさん」

「いえ、お義母様に何か失礼をしてはいけません。それに緊張するなというのは無理でございます。お義母様」

動きはガチガチになっているが、口だけは身体より動いた。

自分の言葉遣いが合っているのだろうか不安になるセイラ。


カトリーナはなんとなくイェルガーに顔の作りだけよく似ていたけれど、イェルガーと違ってニコニコしていた。


(カトリーナ様めちゃくちゃキレイ、語彙力ごめん)


「ふふふ。ひとまず、座りましょう」

「はい!」

「じゃあ、今日はイェルガーと貴女の話を聞きたいから、がっつり話しましょう」

そう言うとカトリーナはセイラの両手を握った。


(がっつり? カトリーナ様ってもしかしてこちら側の人間? 仲間のニオイがするわ!)


もちろんカトリーナがセイラに合わせているのだろうが、そこまで気づけないセイラだった。


「確か、パーティーの時に貴女を見かけたと言っていたわ」

「そうです! でもその時はお話をしていませんが、あんなに目立つ人は他にいないので、遠くから見ていました」

「そうなの? 貴女もイェルガーを見てどう思っていたの?」

「正直、お家柄も立派ですし大変麗しいので遠い存在でした」

「目の保養と言うわけね、わかるわ~」

「その時は、その、正直そうでございます……」


(すみません。影も形も知りませんでした)

違う意味で申し訳なさそうにしていた。


「ふふふ。正直者ね」

「いえ、申し訳ないです」


(本当にごめんなさい、ウソまみれです)


罪悪感に潰れそうになった。


「あの子が結婚をしたいと言った時、すごく心配したのだけど、貴女が目覚めて本当に良かったわ」

「そうですかね……私はこんなだし眠り姫の時のほうが好きなんじゃないかと不安だらけです」

ウソに本当の事を織りまぜると良いらしい。これは半分ウソ。


(いかん、カトリーナ様が話づらくなる方向性だったかもしれない)




「あらあら。王子様の登場のようよ」


後ろを振り返るとイェルガーがいる。

びっくりするから足音を立ててほしい。だが、タイミングは悪くないと思うセイラ。


「母上、ご無沙汰しております。元気にしていましたか?」

だが驚いた、大好きな母上の前のはずなのに表情があまりない。元々こういう人なのだろうか。


「ええ。手紙で伝えた通りよ。セイラさんをお借りしているわ」

「返してくれるなら、お好きなだけ貸し出しますよ」

真顔で言っている。愛妻家キャラはどうしたよと思うセイラ。


イェルガーも席に座り、それから三人で話をした。

相変わらずウソまみれの話もあった。イェルガーがなんの恥ずかしげもなく愛のセリフを言えば、むず痒くなった。これは良いウソと言いきかせ、自分をごまかした。


カトリーナは終始楽しそうに淑女の笑みとは別にニコニコしていた。


だけどセイラは思った。

本物の夫婦になれば問題なくなるのではないかと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る