結婚の理由
第7話
真夜中、喉が渇いて目が覚める。
ベッドの枕元にある電気をつける。
「うあああああ!!」
セイラが驚く。薄暗い中に人影があった。イェルガーだった。めちゃくちゃ怖い。
「なによ?!」
心臓がバクバクする。
「驚いた顔が特におもしろいな」
イェルガーは少し、ほんの少し笑っているようだった。
「驚かすためにいたの、怖い!」
「いや、見舞いだ」
「こんな時間に?」
「仕事が忙しい時はこのくらいの時間に来ていた」
つまり、昨日もその前の日も来たということだろう。わざわざ寝顔を見に来ていたというのか、どこまでも忠実に設定を守っている。涙ぐましい努力だ。もちろんセイラにはできない。
「なんでそこまでするの?」
「そうだな。今後のために教えとかないとな……」
イェルガーは何か逡巡している。
「結婚も愛妻家のフリも……母のためだ。親孝行の一環だな」
聞けばこの家は公爵家なのだそうだ。
イェルガーの母・カトリーナは公爵家に釣り合わない身分の女性だったらしい。
非常に肩身の狭い思いをして過ごして来た。だが、公爵はカトリーナをそれは大切にしたらしい。それを見てイェルガーは育った。
カトリーナは息子にもそうなってほしいと望んでいた。
しかし、イェルガーは元婚約者が他の女性に大きな傷を負わされ、彼女は自殺してしまったことから女性と関わらない事にした。
公爵が亡くなってからカトリーナは憔悴した。爵位を次いだイェルガーは周囲に結婚を勧められたがどうも気が乗らず、そうしているうちにセイラの存在を知ったのだという。
ずっと家に置いとけばなんのトラブルにもならないし、眠ったままの女ならば、自分とめんどうなことにもならないだろうと思った。
セイラと結婚をしたいと周囲を説得し、裏で手を回した。
最初は寝たきりの女が相手だと母はがっかりしていたようだが、何度も説得した。そうしたら今では理解しようとしてくれている。
そう淡々と話すイェルガーにやっぱり表情はなかった。
セイラは同情していいのかもわからなかったし、イェルガーに何と言って良いのかわからなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます