主観

@Shining3301

第1話

 私にはいつも一緒にいる友達がいます。名前はAと言います。かなり長い時間を一緒に過ごしているのですが、私には友達が残念ながら彼くらいしかいません。ちなみに私は男です。Aも男です。Aは結構ぐいぐいいくタイプの性格でした。そのおかげか、彼には年齢問わずたくさんの友達がいました。とは言いつつも私たちは高校生でそんなに世間など知らない箱の世界で生きています。どんなときでも後ろから黙ってついていくような私と、先陣を切り開いていくようなAとのまったくの対称性には誰もが驚くことでしょう。私も驚きです。出会いはあちらが話しかけてきて普通に話していたら普通に楽しく話ができて、それ以降彼も定期的に話しかけてきてくれるのでした。私は自分から前に行くような人ではないのですが、やらなければならないのでしたら当然やるような人です。話しかけられたら普通に話す程度ですけど、それが良い感じに彼にマッチしたのでしょうか。

 私とAが話していたりすると、彼の友達らしき人が私を置き去りにして話しかけてくることがあります。しかし、それ以上に多いのが二人で話すこともなくただ二人でいるときに話しかけてくる人です。彼もクールダウンが必要なときが多いようで、静かに過ごすことも多くありました。そのようなときに他の人がAに話しかけてくることです。こうは言うものの、Aから他の人たちに話しかけることのほうが圧倒的でした。私といるときでもそのようなことは多くありました。そうなると私は蚊帳の外に強制的に追い出されることになるのです。

 私はそのときの時間がなんとも言えない、不思議な空間で彼らの話を見ては聞いているのです。主観と客観、主観にはある種の支配的な現象が、二人称視点が意外とそれらに当てはまらないことを観察しているのでした。

 いつもと同じようにAと一緒にいました。特に話すこともなかったのですが、なんとなく一緒にいました。そうすると、誰かがAに話しかけてきました。見覚えがないのでおそらく別クラスの人なのでしょうが、違和感なく教室の人間に紛れ込んでいました。どうやら放課後に遊びに行こうとかなんとかと話していました。私は蚊帳の外なので、当然誘われることはありませんでした。というか、そもそも誘われても知らない人がいるようなところに割って入るような肝は持ち合わせていません。なので誘われようが当然断るのですが、Aもそれをわかっているようで最初から私を誘うことはありませんでした。どこへ行くのか、話の内容を聞くのはともかくとしてAのあの楽しそうな表情を前面に押し出した笑い方と話し方は不思議な癖がどこかに潜在しているようでした。話はよくあるものですが、何故か華があるようにも思えました。言葉の節々が魚のように激しく動くような躍動感を覚えるようでした。彼らはおそらく普通に話しているのでしょうが、私には、それはもう今からのことをすべてを投げ出してさっさと遊びに行ってしまうような力強さを感じさせました。そして遊びに満足したら最後にご飯を食べに行くというのはもはや典型的なプレートなのでしょうか。そのままラーメンにでも行かないかと言う話になっていました。しかし、先ほどと違ってAは少し困ったような顔をしていました。どうやらお金が少し厳しいと言っているのですが、苦しい顔をしているものの普通に笑顔でした。困ったなぁというような感じを出しながらもなんとかいけるようにとかなんとか言っていました。やはり言葉はイキイキしていました。それにとても楽しそうに話していまして、先ほどの話し始めよりも声が若干大きいようにも聞こえました。もはや大きく膨らんだ空間の中には彼ら二人で他に入れる余地はどうやらないように思えました。

 結局、そこらへんで話が終わってAの友達らしき人物はさようならをしました。するとAはマジ金ねぇとかなんとか言っていました。それでも節々に楽しさが乗っかっているのはどうしてでしょうか。気持ちが高ぶるというものは本人には自覚されているのでしょうか。自分のことは自分が一番よく分かっているのだという言葉は頻繁に聞くように思えますが、私には意外とそのようには思えません。なぜなら、一人称視点は他と全くことなる、もはや独立したものであり、学ばなければその本質や真実を見極めることが不可能のように思えるからです。そして、二人称視点と三人称視点はどちらも客観の範疇に収まることができうるものであることが、以外と人間関係においてとても重要なコトのように思えてくるのです。

 全く別の日、当然のように二人でいました。そういえばAには私以外にもたくさんの友達がいるのですが、私の感覚ではなぜか私といることが多いように思えます。彼にとっては友達のようなものなのかもしれませんが、実のところ、いわゆる広く浅くという大学に入りたての浮ついた大学生が友達を作ろうとたくさんの人に話しかけては、最初はよかったものの時間が経つと俗にいうよっ友が大量発生してしまうような状態なのでしょうか、と考えたりもしてみました。しかし、それには本人がどう考えているのか知りませんから、なんとも言えません。そういえばAは、最近彼女がほしいとかなんとか言っていたような気がします。適当に二人で歩いているとき、おそらくAの友達であろう異性の友達がいました。Aはそそくさと彼女のに話しかけていきました。他の友達がそばにいるのに突然空気のような存在として扱うのはいかがなものなのかと何回も思いすぎたせいでもはやこれが普通であることをしっかり認識しておりました。そういえばAは彼女がほしいと言うと同時に、気になる人がいるとか言っていました。それが一体誰なのかという質問をしていないので残念ながら誰なのかは知りませんが、もしかしたらもしかするかもしれません。私は黙って隔離された一人の密閉空間で二人を見守っていました。

 というか、話しかけた瞬間からAの顔が若干緩んでいるように見えました。最近絡みあんまりなかったから今日あたりどっか二人で遊びにいかねとかなんとか言っていました。彼女にとっては突然すぎて困惑してるように見えましたが、若干眉が下がっているように見えました。当事者にしか分からない感情や理解というのは確かに存在すると思います。しかし、同時に当事者には理解が遅れてしまうようなコトもあると思われます。私はそれのすべてについてある程度は知っているつもりでした。なので、その時点でなんとなく今の状況を察することができたのです。Aは飯とかなんとか言っていました。しかしAもAでだいぶ最初の発言が考えられているものであることも同時に思いました。あるいは全く考えていなくて無意識に言っていたのかもしれません。具体的には、最初に確定事項を増やすような条件設定がことをうまく運ばせるための位置づけではないのかと思われました。しかし、彼女は思った反応を返していませんでした。しっかり地べたに脚を携えて踏み潰していました。うーんと考え込んでいるのに対して、Aはあれこれといろんなコトを提案していました。私はおそらく忘れることができないことを目の当たりにしました。あるいは彼がそのような性格で、あまり引き下がることを知らなかったからかもしれません。若干無理にでもいこうというAの誘いに対して、彼女のグレーな対応を気にせず食い下がるような対応に、苦虫を口いっぱいに含んで噛みつぶすこともせずに一気飲みしたかのような彼女の表情に、私はたじろぐような何かを覚えました。このとき初めてある程度からすべてを理解するに至りました。ある意味神の視点を手に入れたと言っても良いかもしれません。そのような状況でAはしっかりと話していました。しかし彼女はその後も曖昧な様子を見せ続けて、ようやく理解したのか、結局その話はなしになってしまったようでした。特に私からAに話すこともなかったので、よそから土足で入り込んできたバカすぎる気まずさにおもしろいなぁとか考えながらついていきました。そもそもAは私が後ろにいることの存在に気づいてるのかすら怪しいところではあるのですが、いずれにせよ残念な結果となったことに代わりはなかったのです。

 しかし、こうもすると私も人と話すことがますます恐怖の対象になり得てくるのでした。あんなもの、そう言っては失礼かもしれませんが、目の前で見せられたりでもしたら、いちいち考えてしまう視点を増やしては気疲れして反省して、みたいなことになりかねないからです。とは言いつつも、他の人の顔色を窺いながら話す方が気疲れするものであることは容易に理解できるものです。黒歴史を作れない人が一番中途半端な人間になっているという言葉も存外間違っているものでもなく、なんなら今の私に一番突き刺さるような言葉でもありました。まるでしっかり片手に持たれている鋭利なナイフを、しっかり私に突き刺してくるようなものであると言っても過言ではないでしょう。トライアンドエラーほど人間を成長させる流れもないでしょう。Aはまさしくそれを体現してるのです。そしてその枚毎に反省がなされるのであればなお良いとされるでしょう。一長一短であることを理解してはいるものの、人間関係においては、あるいは人としての成長においては、全く違うことも重々承知のつもりです。しかしそこまで理解しているというのに、未だに成長の兆しすら見えない私はもはやきれいに中途半端であることに、とうとうついに嫌気がさしてくるのでした。

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