2‐2 科学
市役所の一角、生活援護課の面談室、そのような場所がわざわざあつらえてあるくらいには、この町は金を持っているというわけで。生活保護の受給、支給についても寛容なのかも知れないが、それにしても、はなから受給する気の無い千里に対して、説明のために時間を割いてくれるのは、変と言えば変だった。
「何か、ご不明点などございますか?ええ、もう本当に、何でもどうぞ」
なんなのだろうか、この行き過ぎたまでの対応の良さは。千里はただただ職員の話を聞いている。するとある時、部屋の外が賑わっているようだった。
「ああ……少々お待ちください」
すると、急に職員の顔色が悪くなる。
「一応、説明は今終わりましたので、お帰りいただいても結構ですよ」
不機嫌、という表現がうってつけなように、雑な対応が急に起こったのを感じた。
どういうわけだろうか。そう思いながら、暇を持て余したために千里は部屋から外に出てみる。すると。
役所の利用者、来訪者は粗方帰ったようで、そこに新たに、先ほど居なかった若い女の姿があった。
どうやらこの騒がしさというのは、その女に起因して起こっているらしい。
「……えっ?」
千里はまた驚いた事があった。それは。
あの人、見た事がある。しかし一方で、記憶の中の人物像とは、若干異なっている雰囲気があった。
確か。
「
千里は、誰に向ける訳でもなく、空中に向けてその女の名前を呼んでみた。すると、その女はそれが聞こえたらしく、こちらに一瞬視線を向けた。
その後、ごく僅かな時間こちらを見て、鈴という女は千里から目を離した。
尖っていた。その視線、その眼光は。というのも、鈴と千里は、大学の同級生だったのだ。千里は鈴を大してきにかけていなかった。特別関わりがあった訳でもない。だからこそ今、ひときわ大きな存在感を与える鈴について、千里は困惑するのであった。
あんなに、尖った人だったかな。
まるでその変貌は、ただのイエスマンが、意志を持った人間になったかのようだった。
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