1-2 誰のせい

近代の日本に於いて、精神疾患というのは、非常に身近であり、かつ脅威となる存在に至っている。毎年のように流行り言葉がテレビで流れ、やれ、親がいけないだとか、職場がいけないだとか、社会がいけないだとか。基本的に誰かのせいにする発想で、そういう議論は繰り広げられる。

 しかし、こう考える事もできるのだ。今の時代に合っていない自分がいけないと。もちろん、こういう他責的な議論は、大体は不毛で、なかなか好ましいものではない。誰のせいにしたって仕方が無い。それもそれで間違っていない。しかし、それでも敢えて責任の所在を探し、改善策を求めるのならば、最も変えうる、変わりうるのは自分自身ではないのか?

「少なくとも、父さんはそう考えた」

 二十八歳。普通より遅いかも知れないが、決してあり得なくはない独り立ちの時。千里せんりというその少女は、精神的には間違いなく少女であった。

 変われるのは自分だけだから、制御できるのは自分の体だけだから、千里は二十八歳まで実家で英才教育を受け、万全の状態で社会に飛び出す事になった。

 その二十八年間の千里の半生について、どこまでが自由な意志で、どこまでが親の采配なのかは定かではない。

 とはいえ、父は自分を可愛がってくれた。食育、勉学、運動、技術、生きる為のスキルを丁寧に叩き込まれたのもそうだが、千里が今から社会に出るに当たり、四千万円という預金を入れた銀行口座を譲り渡してくれた。不動産や貴金属ではなく、現金が四千万。単純な資本金である。

「さて、どうしたものか」

 千里はまず、百万円くらい、散財をしてみることにした。

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