幕間

 皇暦八〇〇年頃に実⽤化された「魔導⽯」。それのもたらすエネルギーによって、⼈類の技術レベルは⾶躍的に⾼まった。一方で魔導⽯の原石は強い力を秘め、周囲の電子機器を狂わせる。そのため、採掘作業は長らく被差別階層「モス」による⼈⼒採掘に頼っていた。


 魔導⽯を実⽤化した、J・カルマン博⼠の⼯場から発展した超巨⼤企業、「カルマン魔導ホールディングス」は魔導⽯の産出量拡大のために、⾼濃度の魔導瘴気下でも動作する新しい駆動機械を発表。⻑らく手作業に頼っていた現状に⼀⽯を投じた。


 皇暦九九八年。ついに人型魔導石採掘機械「セルウス」の量産化に成功したカルマン社は、巨額の資⾦を元に、⼤規模な鉱山開発事業を開始。当初こそ順調な滑り出しだった量産化計画だったが、稼働開始から数年後、突如として各地の「セルウス」が⼀⻫に暴⾛し始める。その数、およそ数千体。後に「ミレニアム・レクイエム」と呼ばれるこの事故は、周辺住⺠を含む数万⼈の死者を出す史上最悪の事件として⼈々の記憶に深く刻まれることとなった。事故から数⼗年経った今もなお、各地の鉱山周辺にはセルウスが残存し、民間人の立ち入りが制限されている。また同時に、各地で深刻な魔導石の供給不足が起こることとなった。


 開発を主導したカルマン社は事故に対する責任として、⾃律駆動型機械の制圧を⽬的とした警備部⾨の設⽴を発表。伝統的な我が国の職業選択制度とは異なる、人種や門地に囚われない採⽤⽅針は、とりわけ被差別階層の人間にとって、親の仕事に縛られず⽣きる、新たな選択肢として⼀筋の希望を与えるものだった。



鋼芒こうぼう社編集部『蒸気のその先へ ~カルマン魔導HDの躍進と勲功~』 第四章「解放された者たち」より 

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