女子校一時限目、第一次世界大戦

呉立輪綱

第1話「西部戦線、異状なし」

2016年4月5日


フランスのある森


静けさが響き渡り、背が高く、白くしわのかかったようにつかれたような見た目の木、ヨーロッパハコヤナギの森だ。


狐や兎がひっそりと穴倉の中に


狐の親子はまるまるとマフラーのように丸め込んで母ぎつねはまだこっくりと眠る子ぎつねの耳を舐めると子ぎつねは目を覚まして次は母ぎつねのあごの下をなめるとそこに兄弟ぎつねが入り込んで舐めあいっこがはじまる。そっぽかされた母ぎつねは兄弟でバカやってるそばで寝始める。




すると、子ぎつねたちに穴倉の上を歩く歩く山オオカミの足音が聞こえれば泣く子も黙るようにその場で突っ伏した。


山オオカミは兎の飛び跳ねる足跡の具合をみて、すぐ下にきつねがいたとまでは分からなかったが、オオカミにとってはなんとなく兎よりも大きな生き物の巣が近くにあることは知っていた。


だがオオカミは誇り高かった。


最初から兎が獲物。迷わず兎の足跡を、鼻と目でくんくん、ぎょろぎょろ、と一度狙った獲物を追って足をいそくさと坂をかけあがる。すると、地面に鼻を突き付けていたオオカミは変わったように、首をのばし、山オオカミが丘からこちらへと睨む。


山オオカミごときの目ではみえないほど遠い。


だが山オオカミごときには全てがみえていたのだろう。


はるか…


そのはるか…西に。


そのはるか西を目指すとベルギーの、ソンムという土地にくる。


大地の土は煙たいからか白く濁にごったような色でひどくぬかりこんで小麦と赤いヒナゲシの混じった泥となっていた。それに付け加え、ぬかるみすぎて地面を見降ろせば軍靴の跡でいっぱいだ。


この軍靴は、東に向かおうとしていた。が、途中でいろんな方角に歩き出したり、しまいにはもはや靴の跡とは言えないようなめちゃくちゃの跡もある。砲弾が落ちてクレーターに泥水がたれ流れ、一歩間違えればその名の通り泥沼。


そして、東西には、いくつもの軍服を着た、女子生徒がしばらくのたうちまわったような跡を残してくたばった、ほどよく散らばめられた死体のカーペットが敷かれていた。


そして、西に向かうと腕にはイギリス国旗のワッペンが付いた、つばのあるブロディヘルメットをはめた、女子生徒兵で溢れ、東に向かうと腕には旧ドイツ帝国の国旗のワッペンと、頭を半球包み込むようなシュタールヘルムをはめた女子生徒で溢あふれる。


地面の色そっくりな、灰色の軍服をまとい、小柄なまだ16歳の女子生徒が縮こまって死んでみればそれはもう地面と間違えて踏みつけてしまう。


すると、戦場をぐるりと廻る霧の東の向こうから銃口がピカリと雷のように光ると遠くからあの特徴的な、ゴム板を叩くような鈍い銃声がいくらか響く。


ドイツの機関銃はやれ暇つぶしに戦場に置いてきた死体を撃つ。


逆に次ははるか西の霧の中から同じくゴム版を叩くような鈍いイギリスの銃声が響く。


その中にどちらかの狙撃手も参加したらしく、ただ一発ライフルの弾を横穴から吐き出し、地面の泥に落ちる。


そうやって砂でもかけあうような撃ち合いをしているとドイツ側の塹壕の岸に、砲撃による鉄と泥の噴水が、ドイツ女子生徒兵の死体を押し上げ、もといた塹壕を墓穴代わりに突き落とした。


それを皮切りにドイツの塹壕は目を覚まし、女子生徒兵がうろうろ自分の持ち場へと移動する。森は騒ぎ出し、砲撃は雨音のように振り凌ぐ。


だがその中に一人、ライフルを抱えて段差に座る、おびえ切ったドイツ兵の少女を指揮官は抑揚がなく、威圧を張っただけの声で少女の腕をつかんだ。


 指揮官「サシャ、さっさと梯子の前に立て。いますぐ」


と、少女を梯子の前にもってくるとどこかへ行く。


 井垣「サシャさん、」


少女は同じ梯子を前にする井垣の目を見る。


井垣の目配せに気づくと少女は井垣を先に行かせた。井垣は先に梯子を上り、塹壕から頭を出した。するとその瞬間、一瞬に銃弾がドイツ兵を撃ち抜いた。


塹壕の地面に倒れる井垣を見て、少女はすぐさま井垣の肩を揺さぶる。そこにさっきの指揮官が笛をくわえながら戻ってくると笛をとって少女の軍服の襟を引っ張る。


 サシャ「井垣さん!?井垣さん!?」

 指揮官「おいさっさと行け。なにしてる。行けよ」


自分の立場が大切な指揮官は、少女を塹壕から追い出すように梯子に押し付ける。


少女は考えることをやめて、塹壕から出た。


 サシャ「…!?うぅっ…!?」


モタモタしてたら撃たれる。


そう思って血の気が引いた少女は早く塹壕を出ようと焦り、足を梯子にひっかけ、転びかけて、大きく体制を崩した瞬間頭の上を流れ弾がかすった。


それを見て少女は目の前の丸木の影に飛び込むように倒れる。すると、何者かが少女の足首を掴む。


 ニーナ「さっちゃん、さっちゃん、たすけ、お願い」


後ろからニーナの声がしたのでうつぶせのまま体を180度回転させる。


 サシャ「ニーナ…?ニーナ…?」


少女は声をかけながら振り返るとニーナと顔を合わせる。

ニーナは少しでも少女に近寄ろうと体をたぐり寄せた。


 ニーナ「サシャ、サ…」

 サシャ「うぅっ…」


だがそのときニーナは力を込めるばかりに体を起こした途端、背後から飛んできた弾で死んだニーナと対面する。

横たわるニーナを見てサシャは伏せたまま


また180度回転して丸太にもう一度しっかり張り付くとそれの上に照準器のついてないドイツ式狙撃銃を置いて、引き金を引く。


だが薬室に弾が入ってなかった、薬室に弾が入ってなければ引き金を引いても銃弾は発射されないのだ。


それに気づいた少女はボルトを引いて、薬室に弾を入れたその時、丸太の前の地面が砲弾で鉄と土のが吹き上げて、土塊は散って少女の体に降り注いだ。


それに怯え、丸太に一瞬隠れた少女は降りかかってきたのはただの土塊だったことが分かれば再び体制を整えて照準を覗く。


一発、排莢してまた一発と引き金を引くたびに顔に苦痛がにじみ出る。


それを繰り返しているうちに引き金が引けなくなった、固い、故障してしまったのだ。


異常に気付いた少女はボルトを引いたりとライフルをいじる少女のとなりに死体としてなだれ込んだ。


本能と経験でそれがだれかの死体であると気づくとまたおびえるように視界に入れる前に顔をそらす。


使い物にならなくなったライフルを手放すと少女は腰にぶら下げたショベルを、カバーから取り外し、片手に持つ。


少女は悲痛と苦しみ、怒り、なによりも、恐怖が行き交う雄たけびを上げながら丸太から身を出して、走り出す。




 サシャ「ああああああああああああああああああああああああ!!!!」




殴り合いや撃ち合いの鋼鉄の嵐となった丘に少女は駆け、目の前のイギリス兵の少女の胸をショベルで切り裂いた。

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