人形婚【異種/ショート】

彼は優しい人でした。


愛しい人でした。


いつも私に微笑みかけて、『美しい』と言ってくれました。


私はそれが嬉しくて。


嬉しくて。


彼に会うのがたまらなく待ち遠しく感じておりました。


けれど。


彼と会う日は、日に日に数を減らして行きました。


彼は体が悪いのだと言っておりました。


病を患ったとも言っておりました。


それから段々と彼はやつれていきました。


その日、彼は床に入ったまま動かなくなっておりました。


私と同じく色白で、瞑られた瞳は私を見つめてくれません。


あぁ…。


話を掛けても、もう笑ってはくれません。


あぁ……。


微笑みかけても、もう触れてはくれません。


周りで泣き喚く彼の親族達を余所に、彼女だけは静かに私に告げました。


「彼は私の嫁入り前に逝ってしまった…。だから、私の代わりに貴女が彼のお嫁になってあげてね?」


彼の傍らに寝そべられた私は、彼女の寂しげな顔を最後に彼と伴に真っ暗な箱へと閉じ込められました。



次に目を覚ますと私は彼と一緒におりました。


彼は袴を身につけて、花嫁衣装の私を見つめます。


「君が…僕の花嫁になったのか」

「はい」

「…そうか」


頷く私に彼は何かを悟った様に、そっと此方へ手を差し伸べました。


「美しい花嫁よ。僕と一緒に来てくれますか?」

「はい…喜んで」


私は彼と手を取り合って、咲き誇る花道を歩み出しました。






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