愛〜とある博士と女の問診〜【ショート】

「どうしてアナタは彼を殺したのですか?」


博士は目の前の女に告げた。


「彼の事が嫌いでしたか?」


「まさか……」


彼女は泣きながら呟く。


「では、何故殺したのです?」


博士は司法解剖のカルテを見ながら彼女に訊ねる。


「私は彼が大好きだったから」


彼女は顔を覆いながら、静かに言った。


「大好きなのに殺すのですか……?」


博士は首をかしげた。


「はい」


彼女は頷き告げた。


「何故ですか?浮気でもされたのですか?」


博士の質問に彼女は首を横に振る。


「いいえ」


「では、別れ話でもされたのですか?」


「いいえ」


彼女の返答に頭を抱えた博士が告げる。


「はぁ……私には、さっぱり分からない」


やれやれと首を振るう博士に彼女は訊ねた。


「何故分からないのですか……?私は彼を愛していたんですよ?」


「だからです。普通は愛している人を殺しはしないものです」


不思議そうに告げる彼女に、博士は真当な事実だと述べた。


しかし、彼女はそんな博士をクスリと笑う。


「あら、貴方は人を愛した事が無いのですね?」


「はい?」


「だから分からないんですよ……」


彼女はクスクス笑って、けれども冷たい眼差しを目の前の博士に向けていた。


「何を言っているんです?」


博士はそんな彼女を訝しげに見つめる。


「だって、そうでしょう……?」


彼女はそれから詠うように語った。


「人を愛するというのは、その人を欲しいと思う事。人を愛するというのは、その人と一緒になりたいと思う事。人を愛するというのは、その人の全てを知りたいと思う事……」


博士は彼女の話に目を見開き口走る。


「ま、まさか──────」


「えぇ。私は彼を愛していましたから」


彼女は目を伏せて告げた。


「だから、彼を殺したんです」


だって。


「彼の最期を見られないなんて嫌ですもの……!」


彼女は綺麗な涙を流しながら笑っていた。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る