第3話 幼馴染

(誰だよ。こんな時に)


 剛志は大きな苛立ちを覚える中に空気を読まずに声を掛けた人物に鋭く眼光を向ける。既に自身の感情をコントロール出来ずにいた。


 剛志の目に1人の女子生徒が映る。


「富田」


 剛志は1人の女子生徒の名字を呟く。予想外の人物の登場に怒りの感情が瞬時に消える。逆に胸中に僅かな困惑が生まれる。


 富田葵。亜麻色のボブヘアに茶色の瞳を持つ美少女だ。その上、インパクトのある豊満な胸を所持するスタイル抜群の女子生徒でもある。そして、剛志と幼稚園から同じ学校に通う幼馴染でもある。


 幼稚園と小学校の頃、剛志と葵は非常に仲が良かった。頻繁に自宅を行き来する仲であった。


 しかし、中学に進学することで思春期を迎えた上、葵がバレー部に入部したことで一緒に居る時間が極端に減少した。その流れで次第に疎遠に至る。


 高校は同じ学校に進学したが、接点など皆無であった。学校内で1度も会話を会話した経験も無い。そのため、そんな葵が同じクラスとはいえ疎遠の幼馴染の剛志に声を掛けた。その事実に剛志は困惑を覚えるのは当然だろう。


「質問に答えてくれない? 別れたの? 別れてないの? 」


 葵は不満げに剛志に顔を接近させ質問の答えを追及する。


(近いな…)


 剛志は接近する葵を直視できずに、率直な感想を抱く。同時に顔を近付ける意図が不明であった。


「…別れたよ。なに? バカにしたいの? 」


 剛志は疑問を残しながらも、先ほどから継続的に胸中で残る怒りを口調に乗せて葵の要望に答える。急な幼馴染の接近に余り良い未来は想像できなかった。


 何か裏が有るのではないかと。剛志は胸中で葵を疑う。


「そう。それは災難だったわね。大谷夕愛って酷い奴ね」


 葵は剛志の元カノである夕愛の毒を吐く。そして、不思議と剛志の隣の席に腰を下ろす。その席は葵ではなく他人の席である。


「どうしたの? どうして隣に座ったの? 」


 剛志は葵の不可解な行動に怪訝な目を向ける。葵の言動の意図が全く理解できなかった。そのため不気味さから少なからず恐怖心を覚える。


「幼馴染が彼女にフラれて可哀そうだから。仕方ないから、あたしが話し相手になってあげる」


 葵は堂々と豊満な胸の前で両腕を組みながら、剛志に向き合う。


「え? どういうこと? 嫌なら別に無理に構わなくてもいいけど」


 剛志は何処か上から目線の葵の態度が癪に触り、嫌悪感を示すように顔をしかめる。不快感を隠さずに露にする。怒りを内側で鎮めたい願望もあり、正直に葵との会話は求めていない剛志。


「生意気! いいから黙って話し相手になりなさいよ! ! 」


 剛志の反抗的な態度に苛立ちを覚えたのか。葵は眉間に皺を寄せながら怒りを撒き散らす。


 葵の怒りの口調が教室内に行き渡ったのか。教室内に身を置く生徒達の視線が剛志と葵に集中する。


「お、おい。目立ってるぞ」


 クラスメイト達に注目を受けるため、剛志は意図的な小さな声で葵を嗜める。クラスメイトからの注目を受け、フワフワして落ち着かない気分に陥る。


「これ以上注目されたくなかったら黙って、あたしの話し相手になりなさいよ。そうすれば解決するから」


 葵は得意げな顔で剛志を脅す。


「…汚いね」


「あんたが素直に言うこと聞かないから悪いのよ」


 そのまま2人は無言で見つめ合う。その間、謎の緊張感が剛志を襲う。しかし、負けるわけにはいかなかった。そのまま目を逸らさずに視界に葵を収め続けた。

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