第2話 拡散
剛志が夕愛にフラれた次の日の月曜日。
剛志はいつも通り登校した。
剛志は強く帰りたい気分を味わいながらも昇降口から教室に向けて移動する。
夕愛や雅也と遭遇する可能性を危惧しながら内心ビクビクしながら廊下を進む。
もし運悪く遭遇した場合、夕愛にフラれたショックで刻まれた心の傷はより一層に悪化し、昨日から引きずる憂鬱な気分は身体をさらに侵食するだろう。
その悪い未来を無意識に想像してしまい、剛志の気分は悪化する。少なからず吐き気も感じる。
無事に教室前に到着した剛志は静かに後方の戸から入室する。
自身のクラスの教室にも関わらず、今まで経験したこと無い緊張感に苛まれながらも、剛志は席に腰を下ろす。
普段のルーティーンのように学生カバンから教科書やノートを取り出し、机の中に手作業で投入する。
教科書やノートのパッケージを目にして嫌いな授業のことを想像してしまい、より一層に帰宅したい気持ちが増幅する。
剛志は帰宅したい気持ちを抑えるために自身の心と格闘しながら作業のようにルーティーンを継続する。
「ねえねえ。大谷さんのSNS見た」
「うん見た見た」
剛志が朝の学校でのルーティーンを終えたタイミングで、女子2人組が教室に入室する。その2人は仲良さげに会話を交わしながら教室内を進む。
「大谷さん。好きな人が出来たから別れたらしいよ」
「ええ!? そうなんだ。早くない? まだ半年も経ってないよね? 」
「うん。しかも、もう好きな人と付き合ってるみたい。友達に教えて貰ったんだ」
「何それ。印象悪いね。モテる女って感じ」
2人の女子は席に座っても会話を続ける。教室内に身を置く生徒が少数なこともあり、2人の女子の声は剛志まで届く。
「しかもその好きな人が隣のクラスの時谷君らしいの」
雅也の名前が女子1人の口から出る。
雅也の名前を聞くと昨日の出来事が明瞭に脳内で再生され、剛志は憂鬱な気分ながらも怒りを覚える。同時に夕愛にフラれたことで味わった喪失感も知覚する。
「うわぁ~~。そうなんだ~。相手はあのイケメンの時谷君なんだね」
女子の1人は事実を知り、驚嘆の声を漏らす。
「そうなんだよ。それにしても災難だよね彼氏は」
「うん。それはそう思うかな」
剛志は2人の視線を感じる。
その視線に不快感を覚え、視線の根源に目を走らせる。
剛志の視線の先には2人の女子の姿があった。
2人の女子は慈悲の帯びた目で剛志に視線を注ぐ。2人は剛志と目が合うと逃げるように目を逸らし話題を変更して会話を再開する。
(何だよ。気の毒そうな目で俺を見ないでくれよ)
剛志は落ち込んで憂鬱な気分に苛まれながらも、女子2人の非常識な行動がきっかけで怒りの感情が増幅し、雅也だけでなく女子2人に対しても怒りの矛先を向ける。
そんな複雑な感情を剛志が抱く中、1人の女子が教室に入室する。
自身の感情の整理で精一杯なため、剛志は入室の音に気が付かなかった。
一方、その女子は静かに剛志の下まで歩を進める。
「おはよう。いきなりだけど、フラれたって本当なの? 」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます