彼女をイケメンに寝取られた俺は1回別れるが、元カノのことが頭から離れずに、何故かイケメンと付き合いだした彼女が心配になる

白金豪

第1話 別れ

「今日は良い本との出会いが有ったな」


 学校が休みの日曜日の夕方。


 高校2年生の白井剛志はショッピングモールで買い物を済ませ、帰路の途中であった。


 本日は小遣いの日であり、派手に好きな本を衝動買いした。良い本に巡り合え、剛志の気分は上々であった。


「あれ? あれは…」


 剛志が歩行で通路を進む最中に1人の女子の姿を発見する。剛志はその女子を良く知っていた。


 その女子の名前は大谷夕愛。セミロングの黒髪に紺色の瞳。色白の肌を持つ美少女である。美貌から学年でも男子から人気のある女子生徒である。


 そんな女子生徒の夕愛は剛志の彼女である。3ヶ月前に片思いの剛志が勇気を振り絞って告白し、見事に成就した形だ。


 告白の成功から3ヶ月間、喧嘩も一切無く充実した関係を築いていた。


 そんな彼女が1人の男子と共に並んでいた。剛志はその男子に見覚えがあった。


 その男子は隣のクラスでイケメンと名高い時谷雅也であった。


 彼女の夕愛とイケメンの雅也といった接点の不明な2人が仲良さげに会話を交わす姿を目前とし、剛志は動揺を隠せない。同時に先ほどまでの気分の高揚は消滅し、平静さを大いに失う。


 即座に2人が一緒に居る理由を問い質したい。そのような嵐の感情が剛志の胸中を覆うように支配する。


 だがギリギリの所で踏み止まる。もしかしたら偶然に何処かで遭遇して会話を交わして盛り上がった可能性も無きにしも非ずだった。


 剛志は夕愛と雅也を尾行する決意をする。


 2人に発見されないように一定の距離を保持しながら尾行を行う。発見される危険性を危惧するように多大な緊張感と不安を覚えながら上手に物陰を利用する。


 しばらく仲良さげに会話を交わす夕愛と雅也の後方を追跡し続けると、ラブホ街が出現する。


 ラブホがを目下に認識した剛志は嫌な感情と共に最悪な未来を脳内で想像する。


 夕愛と雅也は数回ほど言葉を交わす。会話の内容は剛志には届かない。


 夕愛は恥ずかしそうに頬を赤く染めていた。その事実は剛志の目に明瞭に映った。その瞬間、剛志は少なからず雅也に敗北感を覚える。告白の返事の時以外、剛志は夕

愛のそのような表情を目にした経験は無かった。


 話が1段落したのか。雅也は夕愛の腰に手を回し、光り輝く目の前の1つのラブホの入り口に向かう。


「ちょ、ちょっと待ってよ!! 」


 剛志は我慢の限界を突破し、2人の後方から制止を試みる。


「え!? 剛志君。どうしてここに…」


 突然の彼氏の剛志の登場に驚きを隠せない夕愛。その証拠に彼女の瞳は大きく見開き、口も半開きになる。


「それはこっちの台詞だよ。それにどうして隣のクラスの時谷君と一緒に居るの? 」


 剛志は取り乱す心を無理やり抑えながら理由を追及する。


「はっ。もしかしてお前は夕愛の彼氏か? 」


 雅也は小馬鹿にするように鼻を鳴らして夕愛を名前で呼ぶ。


 他の男に彼女のことを名前で呼ばれ剛志は大きな怒りの感情を覚える。自然と身体中が熱くなる。


「そうだけど。それがどうしたの? 」


 剛志は怒りを内部に留められずに鋭い眼光で雅也を睨み付ける。


 一方、夕愛は居心地悪そうに剛志から視線を逸らす。俯いたまま目を合わせようとしない。


「おい。この彼氏に今から伝えてやれよ。残酷な現実を教えてやれ」


 雅也は意地悪笑みを浮かべ何処か楽し気に夕愛の肩に手を置く。


 この3人の中で唯一余裕な態度を取る雅也に対して剛志はさらなる怒りを覚えると共に少なからず恐怖も感じる。現在の状況では自身よりも雅也の方が人間として上位の存在に思えてしまう。


「あのね…」


 夕愛は何処か逡巡したように目を泳がせた後、頭を左右に振ってから覚悟を決めたように真剣な眼差しで剛志に視線を走らせた。


「バレたなら仕方ないよね。いきなりでごめんだけど。私、剛志君よりも雅也君の方が好きなの。だから今日を持って別れてくれないかな? 」


「え…。今なんて」


 衝撃の言葉に何を告げられた認識できず聞き返す剛志。


「聞こえなかった? 別れて欲しいの。私と剛志君との恋人との関係を終わりにしたいの」


 夕愛は追い打ちを掛けるように補足の説明を加える。


「え…。そんなことって…」


 夕愛の補足の説明で嫌でも別れの言葉と理解できた剛志は力尽きるように首を垂れる。今までの経験したことない絶望感と悲しみが体内を支配する。


「はっはっ。そういうことだ。もういいだろ? 早く中に入ろうぜ! 夕愛! 」


 雅也は催促するように夕愛の分かるようにラブホの入り口を指差す。


「う、うん」


 夕愛は俯きがちに歯切れ悪く返事をする。


「よし。それじゃあな! ラブホ前でフラれた哀れな元カレ君」


 雅也は豪快な高笑いを上げると、夕愛の腰に手を回した状態で彼女と一緒に直近のラブホに足を踏み入れた。


 夕愛と雅也のラブホに入る後ろ姿を剛志はショックのあまり目にすることが出来なかった。

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