第12話  制御の難しさ⁉ 新たな特訓の日々!

 森の魔獣討伐を無事に終えたリリカとステラは、次の任務に備えてさらに魔法のコントロールを高めるための特訓を開始していた。メルヴィルの指導の下、二人は自分たちの魔法の力をもっと正確に、そして安全に扱えるようにするため、厳しい訓練に挑んでいた。一方チャチャの容態が気になっていたリリカはステラを連れてメルヴィルのもとを訪れる。


 リリカとステラは、メルヴィルの魔法研究室に足を運んだ。そこには、リリカの愛猫であったチャチャが横たわっている。その衰弱した姿を見て、リリカの心は締め付けられるような痛みを覚える。


「チャチャ……ごめんね……」


 リリカは小さな声で呟きながら、そっとチャチャの頭を撫でた。だが、チャチャは苦しそうに息をし、彼女の手に反応することもできない。


 メルヴィルは、その様子を冷静に観察していた。チャチャの治療は数日続けられていたが、容体は一向に良くならなかった。むしろ、悪化しているように見えた。


「メルヴィルさん、どうですか?チャチャは…元に戻れますか?」


 リリカの声には切実な思いがこもっていた。彼女の目には涙が浮かび、メルヴィルを見つめていた。しかし、メルヴィルの顔には深刻な表情が浮かんでいる。


「リリカ、正直なところ、チャチャの容体は思わしくないわ…」


 メルヴィルはため息をつきながら、チャチャの額に目をやった。そこには、赤い水晶が輝いている。この水晶は、魔甲虫をはがした傷跡の血が固まり、結晶化したのだという。メルヴィルにも理解しがたい兆候だった。


「額に赤い水晶がまたでき始めているわ…これは、副作用でチャチャの体が再び魔力を蓄積し、魔獣としての本能が目覚めるかもしれない」


 リリカはその言葉を聞いて震えた。魔力の暴走が再び始まり、チャチャが再び制御不能な状態になることを意味していた。


「そんな…じゃあ、もう元には戻れないんですか?」


 リリカは信じられない思いで問いかけたが、メルヴィルは静かに首を横に振った。


「分からないの。額になぜ水晶ができたのか。前例がないのよ。ただ体から少しだけど魔力を感じるの。今のチャチャは、もはや魔獣として生きていくしかないのかも。私たちの治療魔法では、完全に元の猫の姿に戻すことはできないのよ……」


 その言葉に、リリカは打ちひしがれた。彼女にとってチャチャは大切な家族のような存在だった。それが、このような形で変わり果ててしまったことが、どうしても受け入れがたかった。


「でも、何か方法はあるはずです!あんな姿の魔獣になんてさせたくない……」


 リリカは声を上げ、メルヴィルにすがりついた。しかし、メルヴィルの目には深い悲しみが宿っていた。


「リリカ、私も可能な限りのことはやっているわ。だが、チャチャの体はすでに限界なの。額にできる水晶は、きっと魔獣化の最終段階を意味している。このままだと、魔獣として生きていくことを選ばざるを得ないわ」


 メルヴィルの冷静な声に、リリカは何も言い返せなくなった。現実は厳しかった。ステラもリリカの肩に手を置き、そっと寄り添った。


「リリカ…きっと私たちが何かできることがあるわ。諦めないで」


 ステラの優しい声に、リリカは一瞬顔を上げたが、やはり深い悲しみの中に沈んでいった。チャチャが完全に魔獣として生きる道を選ばなければならない現実は、彼女にとって耐えがたいものだった。


「チャチャ……ごめんね……」


 リリカは再びチャチャの頭に手を置き、静かに涙をこぼした。額に輝く水晶が、魔獣化が進んでいることを物語っている。もう後戻りはできないかもしれない。


 メルヴィルはリリカとステラの様子を見守りながら、深い決断を下した。チャチャの治療は今後も続けるが、最悪の事態に備えなければならないと心の中で覚悟を決めていた。


「大丈夫よ、リリカ。チャチャのことはまかせなさい。あなたたちは安心して訓練に集中して」


 その言葉を聞いて、リリカは少し気が楽になった。


「ありがとうございます、メルヴィル様。私も泣いてばかりじゃダメですよね。チャチャのことよろしくお願いします」


 後日、二人は魔法の精度を上げるために、火と水の融合魔法のコントロールを練習し、より高度な技術に挑戦する事になった。リリカは火の魔法を操る手を素早く動かし、ステラは水の魔法でその動きをサポートする。二人の魔法が一体となって美しい調和を見せ、訓練場はキラキラとした光の粒子に包まれていた。


「いい調子よ、二人とも。焦らず、しっかりと感覚を掴んで」


 メルヴィルの声が響く中、リリカとステラはさらに集中力を高めていった。チャチャの順調な回復とメルヴィルのサポートを受けて、二人は不安なく訓練に臨むことができていた。



 「リリカ、火の魔法のコントロールは特に重要よ。発動できても制御できなければ、逆に危険な武器になってしまうわ。」


 メルヴィルは真剣な表情でリリカにアドバイスを送りながら、訓練場での特訓を見守っていた。リリカは何度も火の魔法を発動し、その炎を手元で操ろうとするが、炎はしばしば大きくなりすぎたり、暴走しそうになる。


「ステラ、ごめん!また制御が……!」


 リリカが焦る中、ステラはすぐに水の魔法を使って炎を鎮めた。ステラは冷静にリリカをサポートしながらも、自身の水の魔法の使い方も工夫していた。


「大丈夫、リリカ。焦らないで、ゆっくりでいいからね。私ももっと水の魔法でサポートできるように頑張るから」


 リリカの火の魔法の制御はまだ不安定であり、そのたびに訓練場には緊張が走った。しかし、リリカは諦めなかった。アイドル活動を再開するためには、魔法のコントロールが不可欠だと理解していたからだ。


「メルヴィルさん、もっと練習したいです!私、絶対に火の魔法を完璧にコントロールできるようになります!」


 リリカの強い意志に、メルヴィルは微笑みながら頷いた。


「その意気よ、リリカ。でも無理は禁物。魔法の力は時間をかけて磨いていくものだからね。焦らず、少しずつ進んでいけばいいの」


 特訓の日々が続く中で、リリカとステラはお互いの魔法の長所と短所に改めて向き合っていた。リリカは火の魔法の制御が難しく、炎が大きくなりすぎてしまうことが多かったが、逆にその強大な力を上手く使えれば圧倒的な攻撃力となる可能性があった。


 一方、ステラの水の魔法は安定していたが、攻撃力に欠けるため、リリカの魔法を補完する役割が求められていた。


「リリカ、私たちの魔法って本当に相性がいいよね。火と水で正反対だけど、お互いに補い合える感じがする。」


「そうだね、ステラ。でも、もっと上手く連携できるようになりたいな。私の魔法が暴走したら、またステージに立てなくなっちゃうし…。」


 リリカの言葉にステラは頷き、彼女の肩を軽く叩いた。


「大丈夫、リリカ。私たちなら絶対に乗り越えられるよ。お互いの力を信じて、一緒に成長しよう」


 ある日、特訓中にリリカが再び火の魔法を発動しようとした瞬間、魔法の暴走が起きた。炎が予想以上に広がり、訓練場の周囲に燃え広がってしまった。


「危ない!」


 ステラは即座に水のバリアを展開し、広がる炎を食い止めようとするが、炎の勢いは強く、完全に抑え込むことはできなかった。リリカは必死に炎を鎮めようとするが、うまくいかない。


「リリカ、落ち着いて!魔法の源を感じて、心を静めるの!」


 メルヴィルの指示が飛び、リリカは深呼吸をして心を落ち着かせた。炎の制御を試みると、少しずつだが炎の勢いが収まっていった。リリカは集中力を切らさず、最後まで火の魔法を自分の意志で操りきった。


「できた……!」


 炎が消え、リリカはほっと息をついた。ステラもその様子を見て、リリカの肩を軽く叩いた。


「すごいよ、リリカ!ちゃんとコントロールできたね!」


 リリカは自分の成長を感じ、少しずつだが前進していることに喜びを覚えた。二人は互いに支え合いながら、それぞれの課題を克服していくことを誓い合った。


 特訓の日々を通して、リリカとステラは自分たちの力を信じ、少しずつだが確実に成長していった。魔法のコントロールはまだ完全ではないが、それでも以前よりもはるかに上手く扱えるようになっていた。


「次の任務でも、もっと力を発揮できるように頑張る!」


「うん、リリカ。私たちならきっと乗り越えられるよ。頑張ろうね!」


 リリカとステラの挑戦はまだ続く。彼女たちの成長と決意は、これからの試練に向けて新たな一歩を踏み出す力となった。次なる試練に向けて、リリカとステラは再び特訓に励み続けるのだった――。

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