第11話 森の魔獣討伐⁉ 使命を背負いし猫耳メイド!

 感謝祭での大成功から数日が経ち、リリカとステラは次のステージに向けて練習を続けていた。そんな中、王宮から急な呼び出しがかかり、二人はメルヴィルに呼ばれることとなった。


「メルヴィルさん、何か大事な話があるって……?」


 リリカが少し緊張した面持ちで尋ねると、メルヴィルは真剣な表情で二人に向き直った。


「リリカ、ステラ。これまでのアイドル活動はただのパフォーマンスではなく、実は魔法修行の一環だったのよ」


 二人はその言葉に驚き、思わず顔を見合わせた。アイドル活動を通じて、魔法の力を磨き、多くの人々を魅了することで、彼女たちは自然と魔法の力を高めていたのだ。


「つまり、今までのステージや特訓も全て……?」


 ステラが疑問を投げかけると、メルヴィルは頷きながら続けた。


「そう。実は、あなたたち二人はこの世界で唯一の猫耳メイド魔法使いとして、特別な使命を持っているの。アイドル活動はその力を引き出し、鍛えるための訓練だったのよ」


 リリカは自分たちの役割の大きさを改めて実感し、息を飲んだ。アイドルとしてのステージだけでなく、もっと大きな使命が自分たちに課せられているとは思ってもみなかった。


「じゃあ、私たちの本当の使命って……?」


 メルヴィルは静かに頷き、二人にその真実を告げた。


「あなたたちの使命は、この国の災厄に立ち向かうこと。今回、私からあなた達に直接依頼する事にしたの」


「厄災……依頼って……?」


 リリカが首をかしげる。

 

 メルヴィルは静かに説明を始めた。


「東の森の住人から魔獣の目撃情報が相次いでいるの。その魔獣の討伐が今回の任務よ。王宮直々の依頼なの。私の代役として二人にやってもらうわ」


「メルヴィルさんの代わりだなんて、私たちにつとまるかしら?」


 ステラは不安そうに言った。


 するとメルヴィルは笑顔で答えた。

 

「大丈夫よ。今回の依頼は肩慣らしだと思って。森の魔獣討伐は、あくまでも依頼の一つで、私にとってはたやすい仕事よ。護衛もつけるから、まずは実戦に慣れるつもりで挑んでみて」


 メルヴィルの言葉を聞きながら、リリカは少し考え込んでから意を決して口を開いた。


「メルヴィルさん、私たち、アイドル活動も続けたいんです!ステージに立って、みんなを笑顔にすることが本当に好きだから。魔法使いとしての使命も大事だってわかっているけど、どっちも諦めたくないんです」


 ステラもリリカの言葉に同意し、続けた。


「そうです。私たちはアイドルとしての活動があったからこそ、ここまで頑張ってこれたと思うんです。ファンの皆さんの応援が私たちの力になっているし、その力で魔法の訓練も乗り越えられている気がします」


 メルヴィルは二人の真剣な表情を見つめながら、しばらく考え込んでいたが、やがて穏やかに微笑んだ。


「もちろん、アイドル活動を続けるのはいいわ。しっかり稼いでね。ただし、注意が必要よ。魔法が発動できても、コントロールができないうちはコンサートはダメ。あなたたち、会場を燃やす気?」


 メルヴィルは冗談めかして言いながらも、真剣な目でリリカを見つめた。リリカは少し照れながらも頷いた。


「はい、メルヴィルさん。魔法のコントロールをしっかりできるように頑張ります!そして、もっとみんなを笑顔にできるように、アイドル活動も全力で続けたいです!」


 ステラも同じく決意を新たにし、メルヴィルに感謝の言葉を伝えた。


「ありがとうございます、メルヴィルさん。これからもアイドルとしても魔法使いとしても、どちらの道も全力で取り組みます」


 メルヴィルは二人の熱意に満ちた表情を見て、満足そうに頷いた。


「その意気よ、リリカ、ステラ。あなたたちならきっと両立できるはず。これからも応援しているわ。さあ、魔獣討伐に向けて準備を始めましょう」


 メルヴィルの話を聞きながら、リリカとステラは依頼書を手に取った。依頼書には森の魔獣の詳細が記されており、その危険性についても記載されていた。


「森の魔獣って…結構危険な動物みたいだけど、私たちで大丈夫なのかな?」


 リリカが不安そうに尋ねると、メルヴィルは微笑みながら答えた。


「心配しなくてもいいわ。森の魔獣は、魔法の基本が身についていれば対処できるレベルの敵よ。今回の討伐はあくまで実戦経験を積むための肩慣らし。私にとっては簡単な仕事だから、あなたたちも問題なくこなせるはず」


 ステラも依頼書を見つめながら頷いた。


「でも、護衛がいるってことは、それなりの危険もあるってことですよね?」


「その通り。ただ、あなたたちは特別な存在なの。護衛はあくまでサポート役。最終的にはリリカとステラ、あなたたち二人の力で討伐を成功させることが目的なのよ」


 メルヴィルの言葉に、リリカとステラは決意を新たにした。自分たちが果たすべき役割と、これからの試練に向けた覚悟が必要だと感じたのだ。


「わかりました!私たち、全力でやってみます!」


「うん、リリカ。やるからには全力で挑むよ!」


 森の悪魔討伐に向かう準備をしていると、護衛として現れたのはレオンだった。リリカとステラにとっては久しぶりの再会であり、彼が護衛を務めることに二人は安心感を覚えた。


「レオンさん!久しぶりですね!また会えて嬉しいです」


 リリカが声をかけると、レオンは少し照れながらも微笑んだ。しかし、その視線はステラに向けられていた。レオンは実はステラのファンクラブの会員であり、彼女のステージを何度も見に来ていたのだ。


「ス、ステラ様、今日はよろしくお願いします。あの、実は僕…ステラさんのファンクラブの会員で…ずっと応援しています!」


 レオンは顔を赤らめながら言葉を詰まらせ、ぎこちない態度を見せた。ステラはその様子に気づき、微笑みながら優しく応じた。


「ありがとう、レオンさん。ファンクラブに入ってくれているなんて嬉しいわ。一緒に頑張りましょう!」


 レオンはその言葉にさらに緊張しながらも、決意を固めたように頷いた。護衛としての実力は確かであり、リリカとステラにとっても大きな助けとなるはずだ。


 護衛隊と共に森へと向かうリリカとステラ。森は薄暗く、どこか不穏な空気が漂っていた。リリカとステラは互いに励まし合いながら、森の奥へと進んでいった。やがて視界に現れたのは、巨大な影、まさしく森の悪魔だった。その姿は異形の獣であり、強烈な魔力を放っていた。


 しかし、リリカはその異形の獣を見た瞬間、何か違和感を覚えた。獣の体に浮かび上がる独特な三毛猫の模様、そしてどこかで聞いたことのある鳴き声。それはリリカがこの世界に来る前から連れ添っていた三毛猫、チャチャのものだった。


「チャチャ…?」


 リリカは半信半疑のまま、巨大な獣に近づこうとした。しかし、その瞬間、チャチャはリリカに向かって咆哮し、襲い掛かってきた。リリカはかろうじて身をかわしたが、チャチャの目は鋭く、まるで自分を知らないかのように攻撃的だった。


「チャチャ、どうして…!」


 リリカは必死に呼びかけたが、チャチャは攻撃の手を緩めることなく、再びリリカに向かって猛進してきた。リリカは動揺しながらも、何とか状況を打開しようと頭を巡らせた。


「ステラ!あの子は私の猫、チャチャなの!だけど、なんでこんな姿になっちゃったのか分からない…どうすればいいの?」


 リリカはステラに目を向け、困惑と悲しみが入り混じった表情を浮かべた。ステラは冷静さを保ちつつ、チャチャの様子を観察する。


 すると、二人のやりとりを聞いていたレオンが助言する。


「ステラ様。魔獣化した動物には魔甲虫が寄生しています。いまチャチャの額に付いているのがまさしく魔甲虫です。まだ小さいので痛みは伴いますが、強引にでもはがしてしまえば魔獣化は止められます」


「さすがレオンさん。的確なアドバイスありがと!」


 ステラはレオンにウインクすると 


「リリカ!額の黒い石よ。その黒い石を力いっぱい引きはがして!」


 リリカはステラの言葉に頷き、慎重にチャチャに近づこうとした。しかし、チャチャはリリカを見て再び威嚇の声を上げた。


「落ち着いて、チャチャ。私を思い出して。何とかして元の姿に戻してあげるから……」


 リリカは恐怖を押し殺し、ゆっくりとチャチャに近づくと、チャチャの額に手を伸ばした。そして、冷静さを保ちながら魔甲虫を握ると力の限り引っ張った。


 すると、魔甲虫は剝がれチャチャの額からはどす黒い煙のようなものがふき出した。


「ギャーッス!」


 チャチャが雄叫びをあげた瞬間、体はゆっくりと縮み始め、元の小さな三毛猫の姿に戻った。リリカはすかさずチャチャの体を抱きかかえる。


 チャチャはリリカの腕の中で小さく鳴き、リリカは安堵の表情を浮かべながら、チャチャを優しく抱きしめた。しかし、チャチャは衰弱しており、リリカの腕の中で力なく横たわっていた。


「ゴメンねチャチャ、大丈夫?痛かったよね?」


 リリカの声に応えるように、チャチャは弱々しく目を開けたが、その体は明らかに疲れ果てていた。リリカはチャチャの体をそっと撫で、大粒の涙を流しながらステラに視線を向けた。


「このままだと、チャチャが危ないわ……」


 ステラもリリカと同じようにチャチャの状態を心配していた。


「メルヴィルさんにお願いしましょう。彼女ならなんとかしてくれる」


 二人は急いでメルヴィルの元へと向かい、衰弱したチャチャを託した。メルヴィルはチャチャの状態を見て、すぐに必要な手当てを始めた。


「大丈夫よ、リリカ。私がしっかりとを治してあげるから、安心して」


 メルヴィルの落ち着いた声に、リリカは少しだけ安心した表情を浮かべた。


「ありがとうございます、メルヴィルさん。どうかチャチャを助けてください」


 メルヴィルは頷き、チャチャを優しく抱きかかえながら、その命を救うための治療に取り掛かった。リリカとステラはその様子を見守りながら、チャチャが元気を取り戻すことを祈った。


 こうして、森の魔獣の正体は解明され、リリカとステラは無事に任務を終えたものの、チャチャの回復を心から願う二人であった――。

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