MAGICALIZM

EnieLa

今は亡き彼女の夢/農村エーシャ

「□□□□」


花畑に”彼女”が立っている。

魔女のローブは着ていない。帽子も被っていない。

いつか見た、魔女ではない、女の子な”彼女”。


「□□□□」


夕焼け時。”彼女”の正面が影になっているが、”彼女”の顔がしっかり見えるほどにはまだ光がある。

風が吹く。彼女の綺麗な、サラサラとした茶色の髪の毛が揺らぐ。


「□□□□」


”彼女”の言葉は聞き取れない。だが、その顔はどこか穏やかで、優しくて──そして、懐かしい。


「□□□□」


”彼女”を最後に見たのあの日以来。

今でも思い出せる記憶の中の”彼女”と、目の前の”彼女”がリンクする。

私の目から涙が流れているのがわかる。


私を見て驚き、慌て、そして再度微笑む。

記憶の中の”彼女”も表情がコロコロ変わっていた。



──ルーラン、泣かないで。



最後の最後に聞こえた”彼女”の声は、その夢から覚めても耳にこびりついて離れなかった。



────────────────────────────



王都から遠く離れた、西の農村エーシャ村の近く。

光も差さない森の奥深く、獣も虫も寄り付かない常闇の場所。


そこには一人の魔女が住んでいる。


百年前に起こった魔法戦争によって師であり、友人であり、家族である者を亡くしたその魔女は今の今までそこから出た試しはない。


魔法戦争は既に終結し、魔女たちと教会の和解は済んでいる。

それでもなお、エーシャ村の農民達とそこに駐在している修道女が、今になって森から出てきたその魔女を警戒するのは、やはり恐怖からだろうか。


「答えなさい、魔女。今になってこの農村に出てきた理由を」


人は理解の及ばないものを怖がるものである。

それは何処までも暗い森に対して。そしてそんな森の奥深くに住む魔女に対して。


大魔女ルーランは得体の知れなさという点においてはトップクラスである。

操る魔法も、行動原理も、何もかもわかっていない。

当時の記録に記されているのは、ある魔女の弟子だったということくらいである。


「…」


「……なんとか言ったらどうですか」


これは決して、教会と魔女の対立意識ではない。

修道女はこの農村の一員として、農村の害になる要素を排する義務があるのだ。

ただ、


「墓」


「……墓?」


「墓参りに来た。"彼女"の、墓に」


ルーランは夢を見た。それは初めてのことだった。

故にその夢には意味があると思った。それを知る必要が、あると思った。



†††



農村エーシャは"彼女"の故郷であり、故にこそ、"彼女"はその近くに居場所光も差さない森を作った。

"彼女"の行使した防護魔法のお陰でエーシャ村は他の地域よりも損害を被ることは無かったということもあり、"彼女"は今ではこの村において守り神のような扱いを受けているらしい。


結果として、ルーランは"彼女"の墓参りをすることは出来た。

ルーランが"彼女"と親しい間柄の魔女であるということを駐在している聖職者が知っていたよう。


次の目的──"彼女"についての情報は、


「申し訳ありませんが……魔女さまのことは村の出身であることと、村を守ってくださったことしか……」

「教会側も概ね同じですね。お役に立てず申し訳ありません」


「……そう」


この通り、村を現在取り仕切っているという老人と、村に駐在する聖職者は何も知らないようだった。


「いや…あの方ならあるいは…」


と、思ったら何か心当たりがあるようだ。


「私が村長として取り仕切っているのは、前任が不治の病に患ったからでして。その前任がもしかしたら知っているのでは……と思ったのですが、現在は意識もなく、ずっと床に伏している状態なのです」

「前任の方に関しては教会から、医師と私よりも上位の聖職者が来る予定です」


「不治の病?」


ルーランの聞いたことのないその病は、死血病という病。

血の巡りが悪くなり、体組織が壊死していくもの……だが、治療薬の効果が薄いらしく、悪化していっている、ということらしい。


「もし宜しければ、前任が回復するまで村に滞在していかれませんか。魔女さまのご友人ということであれば、子どもたちもお喜びになるでしょう」


「わかった。暫く世話になる」

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