拓哉は凛先輩に告白する

 春の音楽が店内を包み、花の香りが広がる店。

「なんでここなんだ?」

 拓哉は渋い顔で真矢に言う。また、真矢も渋い顔を浮かべる。

「ここしかないから」

 真矢は怒った声で言い、奥の席に向かって歩く。

 店内はおしゃれな雰囲気が漂っていて、賑やかで繁盛していた。

「話し合う場所が、この店なのか?」

「そうですけど?!」

 俺たちは、どうやったら冴島真矢は勝ちヒロインになれるのか、話をするために良い場所を探してたんだが、まさかこんな店を選ぶなんて。

 窓辺の席に座り、両者ため息を吐く。

「なんで、あんたと協力しないといけないのよ」

「あのな、許す条件についてちゃんと話したよな?」

「ええ、私がリア充になればいいんでしょ?」

「そうだ、それが条件だな、まぁ、今のところ無理だと思うけど」

「はぁ??」

「ほら、こんなすぐに怒る人なんかに彼氏ができるはずないし」

「いい? あんたも振られてるからね?」

 真矢は眉をひそめ、俺に向かって指を指す。

「はいはい」

「はぁ、ほんとこんな奴のどこが良いのかしら」

「うわ、可愛いヒロインが言うセリフやん」

「何? もしかして私が可愛くないって?」

「まぁ、可愛いと思うけど性格が残念だな」

「うわーー、思ってることを口に出すタイプだ!」

「いや、それを言うなら、真矢の方だと思うけど?」

「名前呼ばないでくれるかな?」

「論点をずらすな」

 真矢はかるく舌打ちをし、メニュー表に手を伸ばす。

「それより、なんか頼まない?」

 真矢はメニュー表をペラペラとめくりながら言う。

「そうだな」

 拓哉も横にあるメニュー表を手に取る。






 数時間後、真矢は酔った人のように好きな人の悪口を言っていた。

「でね、私はいつも伝えてるんだよ?」

 ポテトを手に取り、口に運ぶ真矢。

「将来結婚しようね! っていつも言ってるのに」

 悲劇のヒロインのように下を向き、ポテトをツンツンと突く。

「ちなみに、最後に言ったのはいつ?」

「小学6の時」

「それは、あれだな」

「何よ?」

「いや、まぁ、そうだな、今日は遅いし帰るか」

 こいつ、案外天然なのか? ジーと真矢の顔を見つめる。

「そうね、今日は帰りましょ」

「ああ」

 そう言い、俺たちは立ち上がり会計を済ませ店を出た。ちなみに何故か真矢が奢ってくれた。

「じゃ、私はあっちだから」

「おう」

 そして、俺たちは自分の家に向かって歩き出す。

 一度振られても、まだ好き。振られるってどんだけ辛いんだろう。

 好きな人から、一生好きになることが、ないと宣言されたようなもんだ。

 今日の春風はどこ寒く感じた、いつもとは違う風だった。その風はまるで悩み飛ばすほど強く吹き、整えた髪は崩れていく。

 風の鬱陶しさを感じながら、歩く。ちょうど桜の木の下に凛先輩が立っていた。

「どうしてここに??」

「ここで待っていると、拓哉に会える気がしたんだ」

 桜の花が1枚ひらひらと落ちていく。

「好きな人は残り4か月で、できそうなのか?」

 凛は意地悪そうに笑う。

「好きな人できましたよ」

「え?」

 凛は目を丸くする。

 期待と不安を交えながら口を開く。

「凛先輩です」

 今日の春風はどこか暑さを感じた。地球温暖化のせいで暑くなっているのか、それとも、自分の想いを言えたことに暑さを感じているのか。

 でも、これだけはわかる。

 俺は凛先輩が好きだ。


 

 

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