まずは負け女子を勝ち女子にする

 「好きだな」

 

 拓哉は足を組みながら爽やかな声で言う。

 

「えーえーえー」

 

 黄色い悲鳴が教室を包み込み、女子たちは口元を押さえ慌てる。

 

「でも、振られたんだ」

 

 まぁ、嘘だけど。でも、こんなこと言わないとこの状況はどうすることもできないしこれしかないんだよな。

 右手で頭を掻き、余裕な笑みを浮かべる拓哉。

 

「そうだったんだ」

 

 さっきまで騒いでいた女子たちは静かに反省した色を見せる。

 

「そうなんだよ、だからさこの話は終わりにしようぜ」

 

 拓哉は明るい笑顔を向ける。それに納得したかのように女子たちは自分の席に戻って行く。よし、この問題は解決だ――。

 その時、ポケットに入れていたスマホがピコンと音が鳴る。

 

 (早百合)「ありがとう」

 

 (拓哉) 「どういたしまして」

 

(早百合)「なんで助けてくれたの?」

 

(拓哉)「それは、泣きそうになってたから」

 

(早百合)「さすが、ヒーロだね」

 

(拓哉)「それ、やめてくれよ」

 

(早百合)「本当にヒーロだよ」

 

(拓哉)「はいはい、それはどうも」

 

(早百合)「私、昔を思い出したの」

 

(拓哉)「昔?」

 

(早百合)「拓哉との出会いを思い出してたの」

 

(拓哉)「あー、まぁ最初は最悪だったな」

 

(早百合)「そうね。あのね言うの忘れていたけど、体育着の事件覚えてる?」

 

(拓哉)「それは、もちろん、今も根に持ってる」

 

(早百合)「あの時、私に構って欲しかったの、どうやったら構ってもらうか分からなかったのだからあの方法を選んだの」

 

(拓哉)「なんだよその、可愛い理由」

 

(早百合)「あの時は本当にごめんね」

 

(拓哉)「もう、許してるよ」

 

(早百合)「ありがとう」

 

(拓哉)「おう」

 

 文字を打つ終わり、ポケットにスマホを入れようとしたとき、またスマホが鳴る。

 

(早百合)「大好き」

 

「ば」

 

 声が出そうになり急いで止める、そして、早百合の方を向くと意地悪そうに笑っていた。








 放課後。

 

 今日から部活再開か。

 

 手に持った荷物を無理やり鞄に詰め準備を進める。

 

 てか、俺って本当に2年生になったんだな、この1年間が本当に俺を大きく変えたな。過去に向き合ったり、いろんな人と出会ったり、本当俺って運が良いな。

 楽しそうな笑みを浮かべなら拓哉は教室を出る。






 

「私と付き合ってください」

 

 二年生のある教室では愛の告白が行われていた。

 

 綺麗な髪が地面に付く、くらい勢いよく深く頭を下げ、手を伸ばす。

 

「その、気持ちは嬉しいけどごめんなさい」

 

 男は全てを包み込んでしまうほどの優しい声で言う。

 

「だよね」

 

 目に涙を見せ、頬を優しく掻く。

 

「うん、じゃあ部活あるから行くね」

 

 男はこの場を逃げるように教室を出て行く。

 

 一方取り残された女子はしゃがみ込み泣き始める。

 

「す、好きなのに」

 

「なんで――」

 

 悲しい声で言う言葉は重みがありながらも弱さもあった。

 

 (どうすればいいんだよー)

 

 拓哉は忘れて物を取りに来たのに、いつの間にか教室が悲しい場所になっていた。

 

 えーと、この女子は多分振られて泣いてるよな? うん、多分そうだ。

 

 少し開いた扉を細い目で教室を見渡す。うん、まだ泣いてるな。

 

 よし、なんとかしよう。

 

 ガラガラと扉を開け、拓哉はゆっくりと教室の中に入る。音に反応し女子は扉の方を見る。

 

「よ」

 

「なんであんたがここに居るのよ」

 

 てか、待てよ、こいつ俺のことを『あんなやつ』って言ってたやつやん。え、最悪なんですが。

 

「別に、それこそ振られ――」

 

「うるさい、死ね」

 

 わー、えー口悪。多分俺が一番苦手な相手だ。

 

「さっきまで、品のいい女性はどこに消えたんですか?」

 

「はぁぁぁ? もう本当死ね」

 

「そんな酷いことを言えるから振られるんだぞ」

 

「はぁ? あんたも振られたくせに」

 

 振られてません!! はい、俺の勝ちですよ~。とか不毛な争いはよしてこれからどうしようかな。

 

「はいはい、全部俺が悪いですよ」

 

「きも、死ね、カス」

 

「小学生の悪口3連やめてね」

 

「ぷっは」

 

 泣いていた女子はいつの間にか、笑っていた。


「笑う元気があるならもう大丈夫じゃん」

 

「そうだね」

 

 女子はゆっくりと立ち上がり、拓哉に顔を向ける。

 

「今日の朝はごめんなさい」

 

 深く頭を下げながら言う。

 

「許しません」

 

「え?」

 

 頭を勢いよく上げ、拓哉の顔を見つめる。

 

「だって、あんなに馬鹿にされたのに簡単にゆるすなんて、そんなこと俺に出来ないかな」

 

「そうだ、ね」

 

「あ、でも許す条件ならあるよ」

 

「え?」

 

「条件は、お前が幸せになる」

 

「えーと、どういうこと?」

 

「だから、お前が幸せになったら許すよ」

 

「それが、条件?」

 

「うん」

 

 拓哉は手を伸ばす。

 

「さ、条件を呑むか? 吞まないなら許すことは絶対にない」


「えーと、うん、頑張る」

 

 そう言い、女子は拓哉の手を握る。

 

「俺の名前は真治拓哉」

 

「私の名前は冴島真矢」

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