もし春が別れの季節だというなら春は嫌いだ
「凜先輩が好きです」
言葉って言うのは人を傷つけることもある、だけど、それ以上に美しい言葉もある。『好き』とか『愛してる』とか、愛を伝える言葉は美しいと思っている。そんな言葉を俺が言っているのが笑いそうになる。
自分の気持ちを雲のように偽り、誰にでも優しくして、自分の優しさを自負して、人を傷つけないように空気を読んでいる、そんな俺が今凜先輩に告白している。
告白するってことは、後の3人を振らないといけない。多分辛いことになると思っている。だけど、だけど、今自分の気持ちを伝えなことの方がもっと辛いと思ってしまった。
俺のことを支えたいと思っている早百合を振る。俺のことを好きになってくれた志保を振る。俺のためにピアノを弾いている琴音を振る。
考えてだけで胸が引き裂かれそうになる。正直怖いし、泣くと思う。
けど、どうしても伝えたかった。凜先輩に『好き』だっていうことを。
「本当なの?」
目と頬を赤く染める。凜は嬉しさのあまり前髪を何度も整える。
「はい」
拓哉の一言で凜は更に照れる。
「どうして、私なんだ」
泣いているのを隠すように手で顔を隠し、震えてる声で問う。
「その、なんていうか、守りたいと想ったんです」
「守りたい?」
「はい、去年の冬、風邪になった時覚えてますか?」
「うん、拓哉が看護してくれた日だね」
「その時、好きだと想ったんですよ」
「あの時の凜先輩はなんというか、守りたくなる存在でした。家では悲しそうな顔で過ごし、学校では模範となる生徒を演じている、そんな凜先輩が可愛くて愛しく感じたんです」
「そして、凜先輩にはずっと笑顔いて欲しいと想ったんです。そして、その、俺が笑顔にする存在になりたいと思ってしまいました」
上手く、説明ができない自分が恥ずかしくなる、想いを伝えるのってこんなに難しことなのか?
「可愛い」
凜先輩の思いがけない一言に、拓哉は思わず笑ってしまう。
凜は目を赤くし、一歩一歩ゆっくりと歩き、拓哉に近付く。
「大好き」
拓哉の前に立ち、凜は勢いよく深いハグをする。今までの想いを全部溢れ出るかのように。自分が選ばれたことに幸せに感じながら。
「俺もです」
触れ合う肌はお互い熱く、お互いが緊張してるのが分かる。
「本当に私でも良いのか?」
凜はハグをしながら、肩に頭を乗せる。
「はい、凜先輩が好きです」
「家の掃除を毎日することになるぞ?」
「もちろん、一緒にやるなら全然大丈夫ですよ」
「めんどくさい女だぞ?」
「そこが、可愛いですよ」
「愛情表現が普通の4倍くらい違うぞ?」
「それは、多分、俺もです」
「大学に進学したら、時間が無くなるかもしれないぞ?」
「それでも、大丈夫ですよ。俺も凜先輩が行く大学目指しますので」
「結構、頭が良い大学だぞ?」
「大丈夫ですよ、俺生徒会長ですよ?」
「そうだったな」
「ねぇ、拓哉」
「はい?」
「付き合わないか」
「それ、俺が言うセリフだと思いますけど?」
「なーに、私が言っても問題はない。それで、答えは?」
「はい、です」
凜先輩はハグをやめ、拓哉の顔を見つめる。
そして、キスをする。
桜の木の匂いなのか分からないけど、綺麗な匂いと甘い匂いが鼻を突く。
春って言うのは別れの季節でもあり出会いの季節だと言う。これが多分出会いのだと思う。そして、別れの季節はとういのは嘘かもしれない。別れの季節だというなら、それがもし、本当なら今どこかで悲しんでる人が居る。
不意に、何かが落ちる音が聞こえてくる。車の音には勝っていない音なのにその音は何かが割れた音のようだった。
数秒程のキスは音によって終わり、俺たち二人は横を見る。
先ほどまで手に持っていたであろう袋が地面に落ちていて、手で口元を押さえて、立っている早百合が居た。
もし、春が別れの季節だというのならば、俺は春が嫌いになるだろう。
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