拓哉は今度こそ変わる、いや、変わらなきゃいけない
「私たちはどうやって拓哉を助けられるのかな?」
早百合は重たい空気を洗浄するかのように言う。
しかし、空気は更に重たくなる。
みんなは考える、考えて考えて考える。
けど、いくら考えても答えが見つからない。だって、拓哉はみんなと関係を切るために学校に消えていないから、いくら考えようが無理なのだ。
志保は、あの日を考えていた。
もし、あのデートの日にちゃんと話を聞いて逃げてないきゃ、ちゃんと話し合って言えば。私がちゃんと支えていれば。志保はずっと後悔していた。
志保は手で顔を覆い、深いため息を吐く。
誰が考えても答えが出ない問題を4人は考え続ける。決して答えが出ない問題を。
逃げることが許されない問題を。
「みんな行こう」
凜は立ち上がり、みんなの顔を見る。
目には覚悟が決まっていた。
そして、運命の時計は動き始める。
拓哉視点。
今日で学校を休んでちょうど一カ月か。壁に掛けられているカレンダーを目で確認する。
はは、俺って何してるんだろうな。
最低限な食事、最低限な会話、最低限なトイレ、最低限な生活。
はは、生きるってなんだろうな。
拓哉はベットに横になり、天井を眺める。
この天井を見飽きたな。15個のシミ。数か所の傷。もう考える内容もないや。
この一カ月淡い期待をしている。誰かがこの世界の端っこに住んでいる俺を救ってくれる人が現れるんじゃないかって。ずっとずっと淡い期待をしている。
誰かを救うことはよくあるけど、誰かから救われるのは無い。
優しい人だけが損をするんだ。
理不尽な考えを浮かべながら、拓哉は体を起こす。
トイレしよ。
その時、インターホンが鳴る。
鳴ると同時に拓哉は固まる。怖い、怖い、怖い。
一カ月ぶりに誰かに会うのが怖い。
きっと、早百合たちも俺を忘れて幸せに暮らしているはずだ。
だから、俺は必要ないんだ。
てか、なんで早百合たちのことを考えているんだ?
早百合たちが家に来ているとは限らないのに。
拓哉は重たい足で玄関に向かう。
ドアノブを握り、一呼吸する。
扉をゆっくりと開けようとするが、引っ張られ勢いよく開く。
「馬鹿やろー」
叫び声が聞こえる同時に拓哉の顔が勢いよく殴られる。
殴られた勢いで拓哉は倒れる。
殴られたのに痛みを感じない不思議な感覚になりながらも、拓哉は上を見上げる。
成瀬?
何故か成瀬は泣いていた。
そして、成瀬はお構いなしに拓馬に飛び乗る。
「お前は、俺を頼れよ」
拓哉の胸倉を掴み、成瀬は言う。怒っていて泣いていて、悲しい声で言う。
「いつから、俺は拓哉の親友じゃ無くなったんだ? 親友なら、親友なら」
成瀬は泣きながら、拓哉の体を揺らす。
「頼ってくれよ」
「で、でも」
拓哉は弱々しい声で言う。
「俺は、全部知ってるよ、お前が雪と付き合っていたことだって、今死にたいくらい追い込までいるのも、全部知っているよ。それなのに、どうして頼ってくれないんだよ」
全部知ってる? 俺と雪が付き合っていたことも? 全部、全部バレてたんだ。
成瀬の涙が、拓哉の顔を濡らす。
「お前が、雪とどんな気持ちで付き合っていたかも、全部、全部、知ってるんだよ」
成瀬は今まで見せたことのない表情をする。
拓哉はただ黙ることしか出来なかった。
今までの成瀬とは全く違っていて、いつもクールで、泣くことなんてない性格なのに、そんな成瀬が今目の前で号泣していて俺を説得している。
成瀬はさらに胸倉を強く握り、顔を近付ける。
「お前がもし、ラノベの主人公だったら、こんなゴミみたいな主人公なんて居ないぞ? めそめそして、言ったこともやらない、いつも逃げる。こんなゴミみたいな主人公が居ても良いのか?」
成瀬はいつもの冗談みたいに言う。
「居ても良いんだよ、逃げても、めそめそ、していても良い。けど、けどな」
「人を傷つける主人公なんてクソだぞ」
成瀬は赤くなっている目で拓哉を見つめる。
その時、みんなの声が聞こえてくる。
「何、してるの?」
早百合たちは困惑していた。
成瀬は拓哉の上に乗っていて、二人が泣きながら話している状況に困惑する。
成瀬は、拓哉に顔を近付けて耳元で囁く。
「最後の忠告だ、人を傷つける選択肢を選ぶな」
そして、成瀬は立ち上がり拓哉の家を出る。
まって、と早百合が言うが成瀬は無視して出て行く。
今まで喧嘩をしてこなかった成瀬との喧嘩に拓哉は泣きながら固まっていた。
「うわぁぁぁぁぁ」
拓哉の気持ちは爆発する。
成瀬は今までの俺を全部知っていた。雪のこと、俺の気持ちまで、全部全部知っていた。
多分成瀬が一番傷ついていた。それなのに気付いていなかった。一番大切な友達を一番傷つけていた。
変わらなきゃ、今、変わらなきゃ。
拓哉は心で叫ぶ。
(変わってやる、変わってやる)
今度こそ、誰も悲しまない場所を作る。
拓哉は体を起こし、自分の顔を勢いよく叩く。
「よし、話そう」
みんなの顔を見て、拓哉は呟いた。
拓哉の今までの気持ちは消えていく。
いくら大雨が降っても、そこだけはずっと雲一つない快晴のように。
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