NINJA IS DEAD ON THE SCHOOL

@takashima_radio

第1話 ニンジャスクールへようこそ!(1)

 24世紀

 世界の国々から孤立し、独自に発展を続ける国があった。


 神の国ニホン。カントウ地方と呼ばれる地域の中心には首都であるエドシティが数々の高層ビル群を生やしながら煌びやかに輝いていた。エドより離れた郊外には3000 mを越える活火山、"マウント・フジ"がその栄華を誇るように毅然と存在している。その麓には広大な樹海が生い茂っており、複雑に絡み合いながら独特のアトモスフィアを醸し出す。溢れんばかりの緑は人間の気配を微塵も感じさせず、奥に行くほどに日の光が届かない獣道はコンクリートブロックに囲まれた環境で育った人間の不安感情を煽る。


 そんな樹海にはある噂がある。マウント・フジよりほど近い樹海にはニホンがその教育機関、人材を独占している古代の戦士"ニンジャ"の養成施設があるのだという。


 ニンジャとは空想の産物ではない、ことニホンと呼ばれる国においては確かに存在する。月夜に照らされるビルとビルの間をその強靭な身体能力で駆け抜け、人々に害をなす妖やテロリストを殺し回る。その姿を直接拝める機会は人生で一度あればよい方である。しかしそれでも誰もニンジャの存在を疑うことは無い。


 今や子供の職業ランキング2位であるニンジャ(1位はYouTuber)。その圧倒的な強さと名誉を求めてフジ・フォレストへ飛び込む若人は数知れず、そのほとんどが行方不明になっていた。


 そんな事態にありながらフジ・フォレスト周辺には警備にあたる施設や人間は存在しない。それはこの土地がニホンの経済を数世紀に渡り牛耳る"トクガワ・コーポレーション"によって保有されているためである。


 マウント・フジ周辺の広大な土地は大変価値があるものであるが、トクガワ・コーポレーションがこの地を開発することは無く、常に手付かずであった。にもかかわらず卑しくトクガワにすり寄りこの地を金に還元しようとした者たちは内外問わずに悲惨な死を遂げていた。


 こうした現実の出来事は噂に尾ひれを描き、ニンジャ養成機関の噂はオカルト界隈に限らず有名な都市伝説となっていた。


 そしてその件の森には草木をかき分けながら探索をしている少女の姿があった。


「もー!いったいどこにあんのよニンジャスクールってのはー!!」


 少女の名前はオリモト・カナデ。長い髪を可愛らしいツーサイドアップとゴスロリめいたカチューシャで飾る彼女の髪色は美しいブロンドであったが、これは地毛ではない。着用している長袖の黒いセーラー服は袖やスカートの端にふんだんにフリルによる装飾がされており、彼女の被服技術の高さが伺える。


 カナデがフジ・フォレストへ足を踏み入れたのは昨日の事であるが、華奢な体に対して疲れている様子は見受けられない。そう、彼女もまた噂に踊らされニンジャを目指すべくここに訪れたルーキーニンジャであった。


 ホームセンターで購入したマチェットで草を刈り取りながら足を進めるなかで突如として彼女は足を止める。


 カナデは自分の右足が踏みしめようとした地面を凝視する。非常に見にくいが足首辺りにあからさまなブービートラップが仕掛けられていた。


「こんなところにトラップ!?やっぱりニンジャ、ニンジャよね!」


 トラップは人の手によるものであった。人里離れたフジ・フォレスト内にわざわざ狩りをしに来ることは、常人であればしない。そう、常人であれば。


「モラッター!」


 突如としてカナデの上空の木より黒い影が急速接近する。カナデはバク転でこれを回避!


 先ほどまでカナデがいた場所に黒色の和風装束に身を包んだ男がいた。男は顔をこれまた黒色の布で覆い隠しており、詳しい人相は分からない。背嚢からは旗が飛び出ており、"初心重点"の文字が達筆で書かれている。腰には苦悶の表情の生首が二つ吊るされており、その色はまだ新鮮な肌色を保っていることから、その首が刈り取られたのがつい先ほどであったことを暗示している。


「チッ、外したか。」


 男の手には手持ち鎌が握られていた。先ほどの攻撃を避けていなければ、通販番組の包丁の試し切りに使われる果物のように頭部を真っ二つにされていた。男は地面に突き刺さった刃先を抜くと、手を合わせてお辞儀をしてきた。


「ドーモ、ニューカマーです。」


 これは"アイサツ"と呼ばれる行動であり、ニンジャ同士の神聖な果し合いにおける前口上のようなものである。


 カナデはニューカマーを名乗るニンジャにアイサツを返そうとするが、彼女にはまだニンジャネームが存在しない。ので前々から考えていた自慢のニンジャネームを披露するのであった。


「ドーモ、ニューカマー=サン。アマローリです。」


 この光景、ニンジャに詳しい皆々様であればご存じだろう!これより始まるのはニンジャ同士の凄惨な殺し合いであるのだ!


 ニューカマーは姿勢を低くしながら鎌を構えて突進、その間にシュリケン投擲を欠かさない。自身の攻撃を確実に通すための的確な牽制攻撃、これはプロニンジャの動きである。


 カナデ、もといアマローリは手にしたマチェットで素早くシュリケンを叩き落とし、鎌による攻撃を予知して槍めいた回し蹴りを繰り出した!


 ニューカマーの武器である鎌はリーチの短さが欠点、それを見抜いたアマローリはリーチに優れた蹴り攻撃で相手の動きを牽制しているのだ。


 両者ともにバク宙しながら空中へ!そこからは互いにシュリケン投擲の応酬である!


 同じタイミングで着地する二人のニンジャ、ニューカマーは隠された口元を愉悦に歪めながら語る。


「俺の必殺コンボを躱すとは……この生首が見えるか、一人目は牽制のシュリケン、二人目はそれを越えた。しかし二の太刀である俺の鎌で殺したんだ。」


 縄を用いて腰からぶら下げた生首を誇らしげに見せるニューカマー。アマローリは嫌悪感よりもその生首の出自に興味を持った。


「私と同じくニンジャを志すルーキー達ね、やはり噂は本当だった。アンタを倒したその先にニンジャスクールが存在する!」


 アマローリは身を捻りながら突進、マチェットを逆手に持ち一撃での決着を試みる。


「甘いわっ!」


 ニューカマーは回転突進してくるアマローリに対し、シュリケン投擲!アマローリはこれをマチェットで防ごうとするも、攻撃に重点を置いた構えを取っていたために一枚のシュリケンが肩に突き刺さる。


「っぐぅ!」


 回転速度が失速し、地に這いつくばるアマローリ。肩を抑えて痛みに耐える!


「フッフッフッ、これでスリーポイントだ……その前にオタノシミとイかせてもらおうか……」


 下卑た笑みを装束の下で浮かべながら、アマローリのゴスロリ制服の胸倉を掴むニューカマー。しかしそれが運命分岐点であった!


 ッグ、プシャァアア!!!


 胸倉を掴んだニューカマーの左手が突如として大量出血!アマローリのゴスロリ制服の胸元には夥しい量のカミソリが隠されていたのだ!


「アンギャー!」


 予想外の出血と痛みで右手に握る鎌を取りこぼし、負傷した手をかばうニューカマー!その隙を見逃すニンジャではない!


 アマローリは肘を曲げた上腕で地面を強打!その反動で地面から復帰、それと同時にニューカマーの顔をひっ捕らえ、渾身の膝蹴りを喰らわせる!


「ハイッー!」

「アンギャー!この俺が……俺はニンジャだぞ!」


 鼻血と涙で顔をくしゃくしゃにしながら後ずさるニューカマー、それに対しアマローリはチョトツモーシン!!マチェットの刃を上に向け柄を左手で握りこむと、右手で左手と柄の頭を包むようにする。この構えはジャパニーズ・ヤクザが必殺術、ブッサシである!


「ハイッー!」

「アンギャー!」


 鳩尾あたりに深く突き刺さるマチェット、アマローリはそのままニューカマーの頭に向かって凶器を振りぬく!研ぎ澄まされた刃がニューカマーの上体を引き裂きながら進む!


「アンギャァァァァァァァアアアアア!!!」


 上半身を真っ二つにされたニューカマーは血を吹き出しながら絶命した。途轍もない出血量であったが、そこはニンジャの技。アマローリのゴスロリ制服には下衆ニンジャの返り血は一滴も付着していなかった。


「っく!・・・・・・油断したわけじゃないけど、痛ったぁ!?」


 アマローリ、いや戦闘を終えたのでカナデである。カナデは早急に負傷した肩を止血、簡易的な治療を施した。先ほどまで命のやり取りをしていたその目には希望、口からは笑みを溢していた。


(やれたっ!ニンジャを倒せた!)


 ニューカマーの出で立ちは間違いなくニンジャであった。そして彼の存在はこの地に流れる都市伝説を裏付けるものであった。カナデは負傷した体を起こしながらさらに樹海の奥深くへと歩を進めるのであった。




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