第28話
「……私の正体がバレた、ってことね」
フィオナは震える声でつぶやいた。その言葉には諦めと恐れが滲み出ており、彼女の心の動揺がひしひしと伝わってくる。俺はその声をただ受け止めながら、胸の奥で渦巻く感情を抑え込むことに必死だった。
「何で黙ってたんだ?」
問いかけた俺の声には、責めるつもりは一切なかった。ただ知りたかった。信じていた仲間が何かを隠していた理由を。そして、それが彼女をどれだけ苦しめていたのかを理解したかった。
「今まで一緒に戦ってきた仲間として、隠し事をする理由があったのか?」
フィオナは俺の言葉に答えようとするが、震える唇は言葉を紡ぐことができないようだった。彼女の目には涙が浮かび、肩が小刻みに震えている。
「違うの……!」
掠れた声で彼女が絞り出す。震えながらも、その声には嘘をつくつもりのない、むしろ本音を吐き出そうとする必死さが見て取れた。
「私は……ただ……」
言葉を詰まらせた彼女の目から、涙がポタポタとこぼれ落ちる。その涙が頬を伝う様子に、俺はただ彼女を見守ることしかできなかった。無理に言葉をかけるのではなく、彼女の気持ちを受け止めるべきだと直感的に感じたからだ。
「私が半分魔物だって知ったら……きっとみんなに嫌われると思ったの!」
その言葉が彼女の中でどれほどの重荷だったのかが、彼女の叫びから痛いほど伝わってきた。その声には、長い間押し殺してきた恐れと苦しみがこもっている。
「……フィオナ」
俺はその場に立ち尽くし、彼女の言葉の重みを受け止める。そしてようやく理解した。彼女が自分をどれほど憎み、どれほど孤独に生きてきたのかを。
「私自身、魔物の血が流れていることを……ずっと憎んでるのよ! その血のせいで私は……どれだけ苦しんだか……!」
彼女の声はよりかすれ、絞り出すように続けられた。その告白を聞いた俺は、胸の中が締め付けられるようだった。どんなに努力しても、自分の存在そのものが否定されるような感覚――彼女が抱えてきた苦しみは計り知れないものだ。
「だから、隠していたのか……」
俺は静かにそう言葉を漏らす。それは責めるための言葉ではなかった。ただ彼女の真実を知りたかった。そして彼女が抱えてきた重荷を少しでも分かち合いたかった。
「でも、フィオナ……」
俺は彼女に近づき、その目を真っ直ぐに見つめる。彼女が目を逸らそうとするのを遮るように、俺は言葉を紡いだ。
「俺たちはお前を魔物だなんて思わない。お前がいてくれたから、俺たちは何度も窮地を乗り越えられたんだ。それは紛れもない事実だ」
その言葉にフィオナは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに視線を落とし、首を振る。
「でも……私は危険なのよ。いずれ私のせいで、あなたが世間から見放されるかもしれない。それが怖いの……。私のせいで、誰かが傷つくのをみたくないの……。こんな私が、仲間でいていいわけない……!」
彼女の言葉は悲痛だった。しかし、その悲痛な告白を聞いて、俺の中にはある決意が生まれていた。
「それでも……俺はお前を信じる」
ようやく見つけた言葉を口にした俺は、彼女に向かって真っ直ぐに言った。
「フィオナ、もしお前が自分を信じられないなら、俺が信じる。お前が抱える恐怖も、俺が止めてやる。だから、もう自分一人で苦しむな」
彼女は驚いたように顔を上げる。その瞳には、疑いと希望が交じった複雑な感情が浮かんでいた。
「本当に……そんなこと、できると思うの?」
「俺たちはチームだろ?」
俺は笑みを浮かべながら答える。その笑みには、自分でも信じられないほどの覚悟が込められていた。
「お前がどんな血を引いていようと、俺にとっては頼れる仲間だ。それだけだ。俺はある人を目指してギルドに入ったんだ。そして、いつか俺はギルド最強になってみせる。そのためにも、フィオナ。お前の力が必要だ」
その言葉に、フィオナの表情がわずかに柔らかくなる。しかし、その目の奥にはまだ消えない不安があるのが分かる。
「……ありがとう、カイ。でも……」
「いいや、もう『でも』はなしだ」
俺は彼女の肩に手を置き、力強く言い切った。
「フィオナ、お前を守るのが俺の役目だ。だから、お前も自分を信じてみろよ。その力も、弱さも、全部ひっくるめて」
フィオナは俺の言葉に何かを感じ取ったのか、涙を拭いながら小さく頷いた。その姿に、俺はほっと安堵すると同時に、彼女を守り抜くと改めて誓った。
「社畜だった俺が異世界で戦って、今を生きていけてるのはフィオナ、お前が支えてくれたからだ。今度は俺がお前を支える番だ」
俺が手を差し伸べると、フィオナは戸惑いながらもその手を取った。
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