第29話 ギルド会議
石造りの厳かな会議室。中央に置かれた長方形の大理石のテーブルを囲むように、十数名の人々が座っていた。それは各国の代表や、ギルドの幹部たちが一堂に会する重要な会議の場だった。
その日、議題となったのは、一見すると些細に思える出来事――初心者向けとされるダンジョン「忘れられた地下遺跡」における異常事態である。しかし、ここに集められた者たちの表情は真剣そのものだった。
「皆さん、ご存じのとおり、『忘れられた地下遺跡』は初心者冒険者の訓練に最適な場所として長年利用されてきました」
会議の進行を務めるのは、冒険者ギルドの中央本部長、グレイ・アルフォード。彼の低く響く声が室内にこだました。
「その第三層にて、先日異常が発見されました。出現するはずのない、B+級の魔物が確認されたのです」
その一言が場をざわめかせた。「忘れられた地下遺跡」は、初級から中級冒険者の育成に適したダンジョンであり、通常はC級以下の魔物しか出現しない。それが突然B級――つまり、一般的な冒険者パーティでは歯が立たない強敵が現れたというのだ。
「第三層といえば、普通はスライムやゴブリン程度だろう?」
ある人が腕を組みながら言う。その目は驚きと困惑が入り混じっていた。
「そうだ。だが、今回発見された魔物は『ヴェノムエンペラー』だ」
「ヴェノムエンペラー……」
その名が告げられるや否や、会議室の空気が一気に張り詰めた。
「まさか……あの猛毒を操る上位種が、初心者向けのダンジョンに出現するなんて……」
呟いたのは、魔法都市セリウスの代表エルザード。彼は長い髭を撫でながら、信じられないという表情を浮かべていた。
「ヴェノムエンペラーといえば、毒の瘴気を撒き散らし、周囲の生態系を一瞬で壊滅させる魔物だ。その存在だけでダンジョン全体が危険地帯と化す……」
「初心者冒険者があのダンジョンにいたら……」
聖教国の高司祭ファロンが、顔を青ざめさせながら言葉を紡ぐ。
「その心配はすでに対応済みだ」
グレイが静かに切り出した。「現時点で『忘れられた地下遺跡』への立ち入りは現在完全に封鎖している。」
「封鎖が間に合ったのは幸いだな。しかし、それだけで解決する話ではないだろう」
砂漠の民の代表リシュナが低く呟いた。「そもそも、なぜそんな魔物が出現したのか?『忘れられた地下遺跡』は長年調査されてきたが、危険度の高い魔物が出現したという報告は一度もないはずだ」
「確かに、それが最も重要な問題だ」
グレイは頷き、続ける。
「現地調査によると、ダンジョン全体の魔力濃度が異常なまでに高まっている。これが魔物の出現に影響を与えたと考えられるが、正確な原因はまだ解明されていない」
「魔力濃度の異常……。それだけでは説明がつかないな。何か、外部からの干渉があった可能性は?」
エルザードが問いかけた。その目は、すでに何か嫌な予感を抱いているようだった。
「その可能性は排除できない」
グレイは厳しい顔で答える。「ダンジョンの封鎖と並行して、ギルドの上級調査隊を派遣する準備を進めている。だが、ヴェノムエンペラーが潜む現状では、簡単に調査に踏み切るわけにはいかない」
「さらに異常なのは、これが単発の出来事ではないという点だ。実は、この街ではここ数日、連続してランクの高い魔物が確認されている。ヴェノムエンペラーが発見される以前にも、通常出現しないB級魔物が複数体現れていたのだ」
「連日……だと?」
皆の目が細まり、会議室の空気がさらに重くなる。
「その出現が自然発生なのか、あるいは何者かの意図的な干渉によるものなのか、現時点では不明だ。ただし、外部からの影響があった可能性は排除できない」
「誰かが何らかの目的でダンジョンに干渉しているとしたら……危険なのはダンジョンだけでは済まないな」
エルザードの言葉に誰も反論できなかった。その場にいた全員が、この異常事態の背後にあるさらなる危機の可能性を感じ取っていた。
「調査隊を組むとして、戦力は?」
ある人が静かに問う。その鋭い目は、すでにこの異常事態の深刻さを理解しているようだった。
その問いかけに、グレイは静かに答えた。
「この異常事態に対処するには、ただの冒険者集団では不十分だ。今回は、ギルド内でも特に高い実力を持つ者たちを派遣することにする」
「今回、忘れられた地下遺跡に派遣する者は、、、リリア一行だ」
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