カケラヲサガシテ

深雪 了

銀河を旅する

マキアが第5惑星『エターニ』に行ってしまってから、もう四年が経とうとしていた。


マキアは私と同い年の幼馴染で、離れ離れになるまではいつも一緒に遊んでいた。

けれど私たちが六歳のある日、いつものように二人で遊んでいたら、とある空間の一部に白くてもやのかかった楕円形のものを見つけた。

私たちは何だろうと訝しんだけれど、好奇心旺盛なマキアはその靄に近付いて、手を触れてしまった。


すると息をつく間もなく、マキアの体は白の中に吸い込まれてしまった。『マキア!!』私は叫んで後を追おうとしたけれど、マキアを飲み込んだ後その靄はすぐに消滅してしまった。


私は泣く泣く家に帰った。顔中をぐしょぐしょにした私を見た母は驚いて、「どうしたの!?ライラ」と私を抱きしめた。けれどさすがは大人というか、母が驚いていたのは最初の方だけで、すぐに落ち着きを取り戻して私の話を聞いてくれた。


「マキア君は、違う星に行ってしまったんだと思う」


私のしどろもどろな訴えを聞いた母は、そう諭すようにつぶやいた。

「滅多にあることじゃないから、教えていなかったわ。でも、話しておくべきだった」

そう言って母は眉間をおさえた。続いて溜息をつくと、こう話し始めた。


「まず、この銀河系には全部で五つの惑星があるの。今私たちがいるここペサンプリスは、第3惑星。基本的に、誤って他の惑星に行ってしまうことはないんだけど、今回みたいにしてたまに入口が現れることがある。入口は惑星ごとに色が違っていて、白は第5惑星、エターニへの入口。だからマキア君はエターニに行ってしまったんだと思う。でも、入口が自然に発生するのは数百年に一度の出来事と言われているから、みんな危険視していなかった。でも、ごめんね、話しておくべきだったわ」


母はそう言ってまた眉間をおさえた。焦った私は母に飛びついた。


「・・・それって、もうマキアは帰ってこれないってことなの・・・!??」


焦る私をよそに、母は少し考えた。何かをためらっているようだった。けれど、教えてくれた。

「・・・方法が無いことはないわ。でも危険を伴うのよ」

「いい、教えて」


「五つの惑星が存在している宇宙で、星の欠片を六つ集めるの。五つまでは別の惑星に入るための鍵のようなもの。あと残りの一つは、別の惑星にいる人を解放するための星よ」

「わかった、私、すぐにでも行って来る」

そう踵を返したが、私の腕を母が掴んだ。

「だめよ、宇宙は危険もあるところなの。行くにはあなたは幼すぎる」

「でも」

「十歳まで、待ちなさい。十歳になったら行ってもいいわ」

「でも・・・・・・」


本当は今すぐにでもマキアを助けに行きたかった。けれど六歳の娘に旅をさせたくないという母の気持ちもわからないでもなかった。仕方なく、私は頷いた。

「わかった、じゃあ十歳になったら」

そうして私の長い四年が始まった。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 



「十歳、おめでとう、ライラ」

誕生日の日、母はそう言って私を抱きしめてくれた。けれど満面の笑みではなかった。今日が何の日かわかっているから、心配でしょうがないのだ。

「ありがとう、お母さん」

私が微笑むと、母は悲しそうに笑った。

「本当に、行ってしまうの」

「うん」


頷くと、母は私を抱きしめた。宇宙へ行くことは必ずしも危険なわけではないけど、百パーセント身の安全が保障されているわけでもないからだ。

「くれぐれも・・・気を付けて」

「うん、必ずマキアを連れて帰って来るから」

母と指切りをした。そっと指を離した。

「じゃあ、行って来るね」

私は笑顔で手を振って、家の扉を開けた。母はずっと、微笑みながらも心配そうな顔をしていた。



家を出た私は、真っ直ぐに「駅」へと向かった。この惑星から銀河系へ出るための駅だ。到着すると、他に利用者はいないみたいだった。たまに宇宙旅行で利用する人がいるくらいで、あまり積極的に宇宙に行く人はいないからだ。


機械に運賃を入れ、一日に一往復しかしないその乗り物へと向かった。

宇宙に行くのに利用するのはエレベーターだった。近代的なデザインのエレベーターに乗り込み、座席に座る。丸型のエレベーターの淵に沿うように電車の座席のようなクッションが設置されていた。


数分待っているとアナウンスが流れ、出発した。一時間ほど揺られていると、昼なのにだんだんと外が暗くなってきて、星がぽつぽつと見えるようになってきた。ガタンという音とともにエレベーターが止まったので、私は外に出た。


そこは無限の蒼紺の空間が広がり、無数の星々が輝いていた。すごい数の星だった。私はそこから、星の「欠片」を探さないといけなかった。母が言っていた。星は宇宙空間の均衡を保つ働きをしているから、取ってはいけない。取っていいのは役目が終わって欠片になった星だけだと。それを六つ探さなければいけなかった。


私はふわふわと浮きながら手足をゆっくり掻き、泳ぐようにして銀河の中を流れた。

星がたくさん輝く中で、欠片を探すのは大変なことだった。眩しさに目を細めながら、それでも辺りを懸命に見回す。

すると、一つ見つけた。周りの星よりも小さく、発光が断続的だった。私はそれを丁寧に掬い上げる。星の欠片は私の手の中でちりちりと光っていた。

同じようにして、残り五つの欠片も集めた。私の手の中で欠片達が光っている。マキアを救うための星々。それを私はしっかりと胸に抱え、エターニを目指した。


私たちのいたペサンプリスに現れた靄同様、エターニは白い靄に包まれているらしかった。輝く蒼の中を泳ぎながら、それを探す。

しばらく探していると、前方に大きな白い靄が見えた。あった。私は急いでその靄に近付いた。

靄まで辿り着くと、私は持っていたうちの五つの星の欠片をそこに近付けた。たちまち欠片は吸い込まれ、やがて空間が現れた。これでエターニの中に入れそうだ。


中へと進むと、そこには球体のようなものがたくさんあって、やはり白い靄に包まれていた。よく見てみると、中に人が入っていた。からの球体も多いが、いくつかは人が入っている。みな膝を折り曲げて座るような恰好で目を閉じていた。

視線をあたりに走らせると、一つの球体の中に金髪の少年が入っているのを見つけた。少し成長しているけど・・・間違いない、マキアだ。


「マキア・・・・・・!」


私は叫ぶと、マキアに近付いた。マキアもやはり目を閉じていて、眠っているようだった。白い頬に、金色の睫毛がおりている。私は最後の一つの星の欠片を、マキアを覆う靄に近付けた。

すると、閉じていたマキアの瞳が開かれた。しばらく辺りを確認するかのように、瞬きをする。そしてすぐに私を見つけると、少し驚いたように目を丸くした後、柔らかく微笑んだ。


マキアが手を伸ばす。靄に当てていた私の手に、手のひらを合わせるように自分のそれを重ねる。雲のような白い靄ごしに、私たちは見つめ合い、そして手を合わせていた。


やっと会えた。もう大丈夫。迎えに来るのが遅くなってしまったけど、一緒に帰ろう。私たちの惑星ほしへ。この果てしない銀河を泳いで。四年分の話をしながら。話したいことが山ほどあるんだ。だから行こう、たくさんの星に包まれて、私たちの、あるべき惑星ほしへ・・・。



 終








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